揺れる北朝鮮出稼ぎ労働者 ロシアから送還か、劣悪な労働を継続か

アナスタシア・ナパルコワ、BBCロシア・サービス

A waitress at a North Korean restaurant in Moscow
Image caption ロシアの首都モスクワにある北朝鮮レストラン「КОРЁ(高麗)」の店内

ロシアは現在、何千人もの北朝鮮人労働者にとっての主要な出稼ぎ先になっている。しかし今後もそうあり続けるのか、予断を許さない状況が続いている。

国連安全保障理事会は2017年、北朝鮮への制裁強化決議を採択。北朝鮮の国外労働者に対する新たな査証(ビザ)の発行を禁止し、2019年末までに北朝鮮労働者を本国へ送還するよう義務付けている。

北朝鮮労働者も、受け入れ先の企業側も、外交面での進展によっては労働者が出稼ぎ先に留まるための突破口を開くかもしれないと、その行方を見守っている。

ロシアの首都モスクワの中心部からそれほど遠くない場所にあるディスカウント・ショッピングモールの中庭で、密かに営まれているのが、北朝鮮レストラン「КОРЁ(高麗)」だ。

北朝鮮が運営し、北朝鮮人従業員がもてなすこのレストランでは、冒険的な平壌料理を提供している。

店内のテレビからは北朝鮮の音楽が流れている。メニューに並ぶのは、キムチや冷麺だ。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とロシアのウラジーミル・プーチン大統領による初会談の前夜、店内はにぎわっていた。

団体客のために、たくさんのテーブルがくっつけられている。

「今日は北朝鮮の祝日なんですか?」と私はウェイトレスに尋ねた。ウェイトレスは「違います」と、口ごもりながらロシア語で言った。「ただの平日です」

レストランの北朝鮮人従業員は、ロシア国内の企業に雇われている約8000人の出稼ぎ労働者のほんの一部にすぎない。

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最近ロシア外務省が明らかにした最新データによると、同国内にいる北朝鮮人労働者数は最大4万人だった2年前に比べて大幅に減少している。

主な原因は、ロシアが北朝鮮の核開発をめぐる国連制裁に従い、北朝鮮労働者を本国に送還したことだ。

ロシア労働省はBBCに対し、2017年9月に採択された北朝鮮のミサイル発射実験に対する制裁措置以降、ロシアに入国し働くことができた北朝鮮人は、制裁決議の採択よりも前に雇用契約を結んでいた者だけだったと述べた。

同省の統計によると、出稼ぎ労働者の85%以上が建設作業に従事しているという。

それ以外の労働者は、衣料関係や農業、伐採、配膳業から伝統医薬まで、幅広い仕事に関わっている。

韓国・ソウルの国民大学校の教授で北朝鮮専門家のアンドレイ・ランコフ氏は、貧困に苦しむ北朝鮮人にとって、ロシアで仕事に就くことは夢の切符をつかむようなことだと述べた。

「(北朝鮮国内で)賄賂を支払わずにロシアで仕事を見つけることは不可能だ」

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北朝鮮の隠された奴隷たち BBCパノラマが取材

ロシアに移り住んだ多くの移民が耐えてきた、奴隷労働に似た労働条件と、標準を下回る居住環境にも関わらず、ロシアで働くことを夢見ているというのだ。

2015年に記録された事例では、北朝鮮の有能な農学者3人が路上の雪かき作業をしているのを、極東ロシアのナホトカの入国管理職員が発見したという。

雇用主のロシア系北朝鮮企業は、3人の農学者の主な仕事は収穫量の監視だが、この日は偶発的に本来の業務から逸脱しただけだと主張した。当局はこれを受け入れず、3人は全員、本国へ送還された。

ロシア労働省によると、北朝鮮の労働者の平均月収は415ドル(約4万6000円)で、ロシア国内の平均月収の6割程度だという。

ランコフ氏は、「労働者は収入の半分を(北朝鮮)政府側に上納しなければならない。それでも手元に残る額は、本国で稼げる額よりずっと多い」と述べた。

北朝鮮人の雇用を希望するロシア企業は、「割当人数」と、外国人労働者の雇用許可を労働省に申請しなければならない。これには1人あたり200ドル(2万2000円)相当かかる。

このような企業は、金委員長とプーチン大統領が初会談する極東ロシアにたくさん存在している。

人口の減少に伴い、労働者不足に陥っているにも関わらず、この地域には国連制裁の強い影響が及んでいる。北朝鮮の労働者数の割り当ては、前年を大きく下回り、2018年は900人分に落ち込んだ。

2018年の労働省のデータによると、北朝鮮人はロシア全域で働いており、雇用許可の4割はモスクワとサンクトペテルブルク地域にある企業に出された。

サンクトペテルブルクでは、2018年のサッカーワールドカップで使用されたサッカースタジアムの建設に北朝鮮労働者が関わっていたことが広く報じられた。

また、サンクトペテルブルクでロシア軍の軍服を手がけるBTCグループは2017年、270人分の雇用許可を有していた。同社の広報担当は仕事を北朝鮮人に提供した事実はないとしている。労働省のデータによると、この企業は2018年に、北朝鮮人の代わりにヴェトナム人労働者用の雇用許可を申請していた。

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Image caption 2018年のサッカーワールドカップで使用されたサンクトペテルブルクのサッカースタジアム。建設には北朝鮮労働者が関わっていたことが広く報じられた

ロシア国内で多くの北朝鮮労働者を雇っているのは、北朝鮮が所有している企業だ。

ロシアのスパーク・ビジネス情報システムのデータによると、2018年の初めまでに登録された企業は約300件あったという。

その半数以上は、最近新しい刑務所を建てた、シベリアのクラスノヤルスクにあるエニセイ社などの建設業者だ。

Image caption 約8000人の北朝鮮の出稼ぎ労働者がロシア国内の企業に雇われている

ロシア国内の北朝鮮企業の大半は、個人が所有している。

これは、北朝鮮企業がどのように分権化したのかを示していると、ランコフ氏は言う。

「外交・通商の担当省庁が一番最初だろうが、他の省庁や部門、政党、小規模な組織および起業家も海外で事業を始めることができる」

「民間企業の所有者は、政府高官や警備機関関係者、あるいは資金があり、良いコネを持っている北朝鮮の起業家かもしれない」

ロシア国内の多くの北朝鮮企業は、国連の制裁措置をまったく歓迎していない。

ウラジオストクでは、建設会社のYav-Stroiは北朝鮮の出稼ぎ労働者の最大の雇用主の1つだった。2017年には400人分の雇用許可を取得していた。

国連の制裁決議が採択された直後、同社の広報担当はBBCに対し、「我々は出稼ぎ労働者なしにはやっていけない」と明かした。

モスクワの東洋医学クリニックでは、北朝鮮の医師10人を雇用していたが、2018年の受け入れ枠はわずか4人分だった。

クリニックのディレクターだったナタリア・ジューコワ氏は当時、「北朝鮮人が患者を残したまま送還されることになったら、患者は治療が受けられなくなる。患者の多くは障害のある子どもなのに」と述べた。

国連の制裁措置は、合弁企業も禁止しているが、いくつか特例はある。

その1つであるロシアと北朝鮮の合弁企業「ラソン・コン・トランス(Rasonkontrans)」は、極東ロシアの主要な鉄道と港湾開発を担っている。

ロシア当局が北朝鮮への制裁を緩和する方法を見つけたがっているのは明らかだ。

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Image caption プーチン大統領と初めて会談する金委員長。ロシアと北朝鮮の間には長年のつながりがある

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、2018年4月にモスクワで行なった北朝鮮の李容浩(リヨンホ)外相との会談で、国連決議を順守しつつ、両国の経済関係を強化する道筋について議論したと述べた。

今月2日には、ロシアのウラジーミル・コロコリツェフ内務相が訪朝し、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長らと会談した。

ロシアのカズベク・タイサエフ議員は訪朝後、「我々は隣人であり、友情と大きな勝利で結ばれている。互いに助け合わなければならない」とBBCに述べた。

一方、モスクワのレストランの従業員は、将来どうなるのかについて話すことには消極的だ。

しかし、北朝鮮料理を味わってみたいという人には、まだチャンスが残されているうちに試してみるのをお勧めする。

(英語記事 The secret world of Russia's North Korean workers

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