メイ英首相に非難集中 EU離脱協定の修正案で

Theresa May

画像提供, PA

イギリスのテリーザ・メイ首相が発表した新たなブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)計画に、与野党から非難が集まっている。

首相は21日、6月に審議を予定している欧州連合(EU)離脱協定法案に修正を加えると発表。この法案を可決することが、ブレグジットを実現する「最後のチャンス」だと下院議員らに訴えた。

また、この法案を支持すれば、その後に2度目の国民投票を実施するかどうか、採決で決める道筋ができると説明した。

しかし最大野党・労働党は、この譲歩案はこれまでの協定の焼き直しだと批判。与党・保守党のEU離脱派からは、党規則を変更してメイ首相の不信任案を提出しようとする動きも出ている。

メイ首相は22日に議会でこの計画を弁護する予定。

<関連記事>

イギリスは3月29日にEUを離脱する予定だったが、議会が離脱協定を3度にわたり否決したため、EUは離脱期限を10月31日まで延長した。また、政府が6週間にわたって労働党と進めていた協議は、離脱協定の譲歩案を見いだせないまま終了している。

こうした中、メイ首相は6月第1週にEU離脱協定法案を議会に提出すると発表。イギリスは昨年制定した現行のEU離脱法で、ブレグジット協定を国内法に置き換える必要があると定められている。

メイ首相が発表した離脱協定法案の修正案は以下の通り。

  • 政府の離脱協定の可否を国民投票に委ねるかどうかを下院で採決する。採決の結果は尊重される
  • 2020年末までに「バックストップ条項」に代わる北アイルランド国境政策を模索する
  • バックストップ条項が発効し、北アイルランドだけがEUの通商法に従う場合でも、北アイルランドのイギリス内での地位は変わらず、イギリスと同じ関税領域にとどまることを保証する
  • ブレグジット後にも労働者の権利を「これ以上ない状態」に維持する法律を制定する。環境についても水準を下げないことを保証する
  • EUとの将来の関係を定めた「政治宣言」の変更を模索することを法的拘束力のある義務とする

2度目の国民投票についてメイ首相は、個人的にはこの案には反対しているが、議会が持っている「真摯(しんし)で正当な」思いは理解していると話した。

その上で、離脱協定法案を可決することが国民投票実現への最初の関門だと強調した。

内閣はすでにこの譲歩案に賛成している。リアム・フォックス国際貿易相は、今こそ「決断の時」であり、この法案を可決すれば議員らは「求めるブレグジットの形」を決めることができると話した。

Theresa May speaking in London

画像提供, PA

一方、保守党のEU離脱派からは修正案に対する怒りの声が挙がっている。

ナイジェル・エヴァンズ議員は、保守党党首の不信任動議を扱う1922年委員会に、メイ首相に対する不信任案決議を行うために党規則を変更するよう訴える方針だ。

メイ首相は昨年12月に保守党党首としての不信任案決議を生き延びたため、現在の党規則では、今年12月まで党内で辞任を求められることはない。1922年委員会はこれまで、党規則の変更には反対している。

またドミニク・ラーブ元EU離脱相は、「2度目の国民投票や関税同盟への参加を促す法案は支持できない。どちらの選択肢もブレグジットを実現させず、引っ掻き回すだけだ。そして保守党のマニフェストに反している」と指摘した。

ボリス・ジョンソン前外相も、保守党は2017年の総選挙で関税同盟からの脱却を公約に掲げており、今回の提案はそれに反していると反論。その上でツイッターで、「国民投票で決まったことを実現するため、私たちにはもっとできること、やるべきことがある」と訴えた。

ジョンソン氏は、メイ首相が辞任した後の保守党党首選への立候補に意欲を示している。

野党は不満を表明

メイ首相が協定への支持を期待する労働党も、不満を表明している。

ジェレミー・コービン党首に宛てた書簡でメイ首相は、「私はイギリス国民のためにブレグジットを実現するため、譲歩したいという姿勢を示した。(中略)なのであなたにも譲歩してもらいたい。そうすれば、両党が公約で掲げた約束を実現させ、政治への信頼を取り戻すことができる」と述べ、法案への支持を求めた。

しかしジェレミー・コービン党首は、メイ首相が間もなく辞任を決めている中で、この譲歩案が実現するかどうかは疑問だと話した。

「この協定はこれまで協議されていたものの焼き直しに過ぎず、市場調整や関税同盟、権利保護といった部分で根本的な変更が加えられていない」

このほか、通商や労働者権利保護の規定が「とても弱い」といった指摘や、国民投票についての約束が次期首相に覆される可能性があるといった批判も出ている。

また、自由民主党やブレグジット党も支持できないとの方針を示している。

メイ首相と閣外協力している北アイルランドの独立民主党(DUP)は、協定はなお「根本的に欠陥がある」と表明した。