トランプ氏、駐米イギリス大使を「もう相手にしない」 と反発 英政府は大使を擁護

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Image caption トランプ大統領は、イギリスのダロック駐米大使とメイ首相を批判するツイートを投稿した

アメリカのドナルド・トランプ大統領は8日、イギリスのサー・キム・ダロック駐米大使(65)について、「米国内で好かれていないし、評判もよくない」と批判した上で、大使とのやりとりをやめると述べた。同大使が本国への極秘公電の中で、米政権を「無能」と酷評していたと報じられたことを受け、反発したものだが、トランプ氏のツイート受けて英首相官邸は、政府はダロック大使を「全面的に支持する」とコメントした。

トランプ大統領はこの日、ツイッターに、ダロック大使に対する痛烈なコメントを連続で投稿した。

また、先月7日に与党・保守党の党首を退任し、次期党首が決まるまで首相の職に留まっているイギリスのテリーザ・メイ首相に対しても食ってかかった。

「私は、イギリスやテリーザ・メイ首相のブレグジットへの対処方法について、ずっと非常に批判的な立場だ。首相や閣僚が生み出した混乱はメチャクチャだ。私は首相にどうすべきかを伝えたが、彼女は別の道を辿る決断を下した。私は、駐米大使のことは知らないが……」

「……彼はアメリカ国内で好かれていないし、評判も良くない。我々はこれ以上、大使を相手にしない(We will no longer deal with him)。素晴らしいイギリスにとっては、近々首相が新しくなるのが何よりの朗報だ。先月、壮大な公式訪問をとことん楽しんだが、その間、私が最も感銘を受けたのは女王だった!」

英首相は大使を「信頼」

これを受けて英首相官邸は、大使の報告メールが漏洩(ろうえい)されたことは「残念」だとコメントし、英米は今も「特別で永続的な」関係を共有していると述べた。

その上で官邸報道官は、「米政府には、この漏洩がいかに残念なものかはっきり伝えている。内容を選んだ上での部分的な漏洩は、両国の関係がいかに親しいもので、我々がこの関係性をどれほど高く評価しているか、反映していない」と強調した。

一方で報道官は、各国に駐在する大使はそれぞれの国の政治情勢を率直に判断して報告する必要があると指摘。さらに、メイ首相はダロック大使を擁護していると話した。

トランプ大統領が大使を「相手にしない」と書いたツイートの前にも、メイ首相は大使を「信頼」していると述べていた。一方で、大使の見解には同意していないとも話していた。

<解説>ローラ・クンスバーグBBC政治編集長

首相官邸の反応は典型的によそよそしく、『ありがとう、でもお構いなく』と言ったに等しい。米大統領がオンラインでまくしたてるのを、硬い表情で払いのけたわけだ。しかも、トランプ氏の今回のツイート連投はあの人の水準からしても、実に驚くべきものだった。

現首相が退任間近で、駐ワシントンのイギリス大使も退任するとなれば、大統領の発言が何かに直接影響することはおそらくないだろう。それだけに首相官邸は、大統領からの批判を軽くあしらって済ませられる。

しかし、非公式には、かなりのいらだちが募っている。与党・保守党の幹部は「このような狂気の沙汰に屈するわけにはいかない」と釘を刺す。他国の首脳がオンラインで肩をいからせ恫喝(どうかつ)することによって、イギリスの外交官に復讐しようとするなど。しかもよりによって相手は、イギリスにとって最重要な同盟国のひとつなのだ。

「類を見ないほど機能不全」

英紙デイリー・メールが6日に報じたところによると、ダロック大使が2017年から現在まで英外務省へ書き送ったメールの中で、今のホワイトハウスは評判通り「内部対立と混沌(こんとん)」がひどく、「類を見ないほど機能不全に陥り」、トランプ大統領の下で「分裂している」、「米政権が今後(中略)今ほど外交的にぶざまで無能ではなくなるとは、あまり考えられない」と書いている。

英紙の報道を受け、トランプ大統領は翌7日、ニュージャージー州で記者団に対し、「我々は大使の大ファンではないし、彼はあまりイギリスの役に立っていない。だから、今回のことは理解できる。彼について話すことはできるが、そんなことにかまうつもりはない」と述べていた。

米国務省は、今回のトランプ大統領の発言についてコメントを避けた。

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イギリスは3月29日にEUを離脱する予定だったが、議会がEUとイギリス政府の取りまとめた離脱協定を3度にわたり否決したため、EUは離脱期限を10月31日まで延長した。

メイ首相は5月に辞任を発表する際、離脱協定を通過させるためにできることは全て行ったが、ブレグジット(イギリスのEU離脱)は次期首相が実現すると話した。

英首相の後継を決める与党・保守党党首選には、ボリス・ジョンソン前外相とジェレミー・ハント外相が立候補している。

リークされた内容

ダロック大使は本国への報告メールで、「米政権が今後、かなり正常なものになり、機能不全が軽減され、今ほど予測不能ではなくなり、派閥分裂が改善され、今ほど外交的にぶざまで無能ではなくなるとは、あまり考えられない」と書いた。

大使はさらに、トランプ政権のホワイトハウスが「有能に見えるなど今後あり得るのだろうか」と疑問を投げかけた。一方で、大統領を完全に軽視してはならないとも警告している。

「アメリカ・ファースト」のまま

ダロック大使は一連の報告メールで、米英がブレグジット(イギリスのEU離脱)後の貿易関係を改善させようとする中で、気候変動や報道の自由、死刑をめぐる両国の立場の違いが先鋭化する可能性があると指摘。大統領にこちらの言い分を理解してもらうには、「要点を簡潔に示す必要がある。いっそ、単刀直入に」と書いている。

大使はさらに、トランプ大統領は今年6月の訪英で国賓として受けた歓迎ぶりに「大いに感銘を受けていた」ものの、トランプ政権の利己的な性質は今後も変わらないと警告。「ここは今もアメリカ・ファーストの国だ」と付け加えた。

また、2016年米大統領選におけるロシア介入とトランプ陣営による結託疑惑については、「最悪のことがあり得ないとは言い切れない」と評価している。この疑惑を捜査したロバート・ムラー特別検察官による報告書の全容は今年4月に公表されたが、トランプ陣営がロシア当局と共謀した証拠はなかったと結論した。大統領が司法を妨害したかについては、報告書は断定しなかった。

対イラン政策は「支離滅裂」

アメリカの対イラン政策について、ダロック大使は、「ちぐはぐで支離滅裂」だと評した。

トランプ大統領は先月21日ツイッターで、米軍偵察機を撃墜したイランに対する報復爆撃をいったん承認してから、攻撃の10分前に中止した理由について、150人が死亡する可能性があったからだと説明したが、ダロック大使はこの言い分は「説得力がない」と指摘した。

外国の紛争にアメリカを巻き込んだりしないという選挙公約を破りたくないトランプ氏は、実際には報復爆撃を「全面的に支持していなかった」という。

また、「米政権が内部分裂」しているため、「アメリカの対イラン政策が近く、まとまったものになることは、おそらくあり得ない」と指摘している。

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Image caption ホワイトハウスは機能不全に陥り、無能だと酷評したダロック大使

ダロック大使とは

1954年生まれのダロック大使は、キャリア外交官として42年間の経歴を持つ。国家安全保障と欧州連合(EU)政策を専門とし、「イスラム国」(IS)やロシアのクリミア半島侵攻、イラン核問題などについてデイヴィッド・キャメロン政権の安全保障問題顧問を務めた後、2016年1月に駐米大使として着任した。

<解説>ダロック大使は「ペルソナ・ノン・グラータ」なのか?――ジェイムズ・ランデール、BBC外交担当編集委員

サー・キム・ダロック駐米大使ともうやりとりしないと発言することによって、トランプ大統領はどうやら同大使を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましくない人物)に指定したようだ。これが、外交官を追放するための、受け入れ側政府がとる正式な法的手続きだ。

重大な疑問は、大統領が「deal」(相手にすること、やりとり、かけひき、取り引き)という言葉で一体なにを意味しているのかということだ。トランプ政権全体が、ダロック大使あるいは外交使節団を相手にしなくなるのか、それとも英政府は大使の退任を早めなくてはならないのだろうか。

2019年末に任期満了を迎えるダロック大使は、その前に辞任するかもしれない。しかし、仮にトランプ大統領が、個人的なやりとりをしないだけであれば、新しい英首相が後任を指名するまでの間、ダロック大使は現在の職に留まることになるかもしれない。

アメリカの圧力に屈し、ダロック大使を帰国させ、あまりにひどい弱腰ぶりだと非難されるリスクをとるのか。あるいは、断固として姿勢を変えず、米英関係を今以上に悪化させるリスクを冒してでも、見たままに事態を報告して職務を果たした自国大使を守るのか。英政府は厄介なジレンマを抱えている。

(英語記事 Trump: We won't deal with UK ambassador

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