イギリスの駐米大使が辞任 トランプ政権について機密公電リークされ

Sir Kim Darroch and President Donald Trump Image copyright Getty Images
Image caption イギリスの駐米大使、サー・キム・ダロック(左)は機密公電でトランプ米政権を批判していた

トランプ米政権を率直に批判する機密公電を英紙に漏洩(ろうえい)され、米政府の強い反発を招いていたイギリスの駐米大使、サー・キム・ダロックが10日、辞任した。ドナルド・トランプ米大統領がダロック大使を激しく罵倒する事態となり、大使は職務をこれ以上継続することは「不可能だ」と辞任理由を明らかにした。大使は今年12月に定年退職の予定だった。

ダロック大使は自分の職務を果たしていたと擁護していたテリーザ・メイ英首相は、大使の辞任表明について「きわめて遺憾な事態」だと英下院で発言した。

英外務省への辞表で、ダロック大使は自分の立場に関するこれ以上の憶測を終わらせたいとして、「自分の職務を自分が望むように果たすのは、現状では不可能だ」と書いた。

「私の任期は年末まで終わらないものの、現状を鑑み、新しい大使の任命を可能にすることが責任ある対応だと思う」と、大使は書いた。

ダロック大使の辞任を受けてメイ首相は下院で、閣僚全員が大使を支持していると強調。大使が「生涯にわたり」イギリスに尽くしてきたことは「大きな感謝に値する」と称えた。

メイ首相はさらに、公務員は政府に「率直な助言を包み隠さず」提供できるようでなくてはならないと述べ、「私たちの価値観や理念に圧力がかかっている時はことさらに」そうした価値観や理念を守ることが重要だと呼びかけた。

英外務省のサー・サイモン・マクドナルド事務次官は10日、下院外務委員会で、外国首脳がイギリス大使とのやりとりを拒否したのは自分のキャリアにおいて初めてだと答弁。大使の機密公電のリークは「悪意ある」ものだと批判し、ダロック大使は外務官僚として「最高峰の1人だ」と称えた。

英紙デイリー・メールが6日に報じたところによると、ダロック大使は2017年から現在まで英外務省へ送った機密メールで、今のホワイトハウスは評判通り「内部対立と混沌(こんとん)」がひどく、「類を見ないほど機能不全に陥り」、トランプ大統領の下で「分裂している」、「米政権が今後(中略)今ほど外交的にぶざまで無能ではなくなるとは、あまり考えられない」と書いていた。

これを受けてトランプ大統領は、米政府はこれ以上、ダロック大使を「相手にしない」とツイート。その後も、ダロック大使を「とても馬鹿だ」などと罵倒し続けた。

この事態に英首相官邸の報道官は、各国に駐在する大使はそれぞれの国の政治情勢を率直に判断して報告する必要があると指摘。さらに、メイ首相はダロック大使を擁護していると話していた。

1954年生まれのダロック大使は、キャリア外交官として42年間の経歴を持つ。国家安全保障と欧州連合(EU)政策を専門とし、「イスラム国」(IS)やロシアのクリミア半島侵攻、イラン核問題などについてデイヴィッド・キャメロン政権の安全保障問題顧問を務めた後、2016年1月に駐米大使として着任した。

ジョンソン前外相の不支持がきっかけか

ダロック大使の辞意表明を受けて、イギリス国内では大使を擁護する声が高まっている。それと同時に、事実上の次期首相選でもある保守党の党首選で最有力とされるボリス・ジョンソン前外相が、トランプ氏に攻撃されている自国大使を明確に支持しなかったことについて、疑問の声が上がっている。

BBCのジェイムズ・ランズデイル外交担当編集委員によると、保守党党首選の候補2人による9日夜のテレビ討論で、ジョンソン氏が自分を支持しないのを見て、ダロック大使は辞任を決めたもよう。

党首選を争うジェレミー・ハント外相は繰り返しジョンソン前外相に、ダロック大使を留任させるか問いただしたものの、ジョンソン氏は明確な回答を避け続けた。

ダロック大使の辞任を受けて、ジョンソン氏は大使について「素晴らしい外交官だった」と称え、機密公電を漏洩した当事者は「この国の公務員にひどい仕打ちをした」と批判した。

なぜダロック大使を明確に擁護しなかったのかと問いただされると、ジョンソン前外相は「公務員を政治の場に引きずり出すのは間違っている」と答えた。

一方で、ハント外相はBBCに対してトランプ政権について率直な報告をしていたダロック大使は「自分の仕事をしていた」だけで、その大使が辞任したこの日は「イギリス外交にとって暗い日だ」と述べた。

党首選でハント外相を支持するアラン・ダンカン欧州担当相は、ダロック大使を擁護しないのは「侮蔑に値する怠慢だ」、「自分の利己的な利益のために、この素晴らしい外交官を見捨てたに等しい」と、ジョンソン氏を批判した。

これに対して、ジョンソン氏を支持するサー・マイケル・ファロン元国防相は、ジョンソン氏は「アメリカとの関係が優先されるとはっきりさせた」のだと述べた。

重大な慣例違反

BBCのニック・ブライアント北米特派員は、「トランプ大統領は、イギリスの大使に対する拒否権が自分にあると思いながら、目覚めるかもしれない」と指摘する。

また、BBCのローラ・クンスバーグ政治編集長は、「実に異例きわまりない事態だ。サー・キムはイギリスで最も尊敬される外交官の1人で、その人がこのような形で辞任させられるのは、重大事だ」と書いた。

「この国では伝統的に、外交と政治はきっぱり分かれていたが、もはやそうではない。ある政府高官は今週、この国は決して自国の代表を外国に決めさせたりしないと私に言ったが、その通りのことになってしまった。重大な慣例が破られた」とクンスバーグ編集長は書き、まだ首相になっていないジョンソン氏によるこれが最初の重大な対応だとしている。

(英語記事 Sir Kim Darroch: UK ambassador to US resigns in Trump leaks row

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