イギリスで下院議員への脅迫や攻撃が急増、BBC独自調査

ルーシー・マニング、フィリップ・ケンプ、BBCニュース

David Lammy Image copyright PA
Image caption 労働党のデイヴィッド・ラミー議員は今年、かつてないほどツイッター上で攻撃されている

イギリスで、下院議員に対する脅迫や攻撃的言動が問題となっている。BBCの取材では、首のない遺体の写真が送られてきた、盗撮された、玄関の扉に犬のふんを塗りたくられたなどの証言があった。

スコットランド国民党(SNP)のリサ・キャメロン議員は、子どもたちが庭で安心して遊べるようセキュリティー強化を余儀なくなされた。

保守党のスコット・マン議員は、事務所に釘爆弾を送りつけると脅迫されたという。

リンジー・ホイル下院副議長(労働党)は、安全への不安から次の選挙には出馬しないと、一部の議員から相談されたと明らかにした。

BBCは5~7月に全下院議員650人に書面および電話でアンケート調査を行い、172人から回答を得た。

このうち139人が、自分自身やスタッフが過去1年の間に何らかの攻撃を受けたと答えた。また、その60%(108人)が過去12カ月の間に脅迫を受け、警察に相談したと述べた。

一方、BBCニュースが英シェフィールド大学に依頼して行った別の調査では、ツイッター上での議員に対する攻撃の実態が明らかになった。

この調査で明らかになった点は以下の通り――。

  • 攻撃的言動は、欧州連合(EU)離脱をめぐる出来事や、IS(イスラム国)に参加したイギリス人少女の赤ちゃんが死亡した際など、何らかの事件をきっかけに増える傾向にある
  • 今年に入り最も多くの攻撃ツイートを受け取ったのは労働党のデイヴィッド・ラミー議員
  • 平均すると、女性議員より男性議員の方がはるかに攻撃を受けやすい
  • 保守党と労働党では、保守党所属議員の方が攻撃を受ける率が大幅に高かった
  • 攻撃ツイートは性差別的な内容が最も多く、同性愛嫌悪や人種差別よりも多かった

家族が「危険にさらされた」

BBCの調査では、所属党やブレグジット(イギリスのEU離脱)の方針などが異なるさまざまな議員が、脅迫を受けた経験を語った。

キャメロン議員が2015年に当選すると、すぐに殺人予告と首を切られた死体の写真が送られてきたという。

警察に相談した結果、キャメロン議員は庭の一部を囲い、子どもたちが安全に遊べる場所を確保した。

「自分の選択の結果、不注意に家族を危険にさらしたのではないかと考えてしまう」とキャメロン議員は話している。

キャメロン議員は今年初め、ツイッター上で彼女の子供がいじめっ子だとツイートするなど、嫌がらせを繰り返した有権者の男性について、警察に被害届を出した。裁判所は男性に、4年間の迷惑行為禁止命令を言い渡した。

釘爆弾を事務所に送ると脅されたマン議員はBBCに、「ほかの職場で同じようなことがあったら、そこに人事部は完全に機能停止に陥るはずだ」と語った。

自由民主党のトム・ブレイク議員は、選挙区の事務所に来た人たちを、強制排除しなくてはならなかったという。

ボブ・ブラックマン議員(保守党)は事務所が放火の標的になり、自分の車も攻撃されたため、自宅周辺のセキュリティーを強化したという。

このほか、スーパーマーケットで盗撮されたり、玄関の扉に犬のふんを塗りたくられたなどの回答があった。

Image caption スコットランド国民党(SNP)のリサ・キャメロン議員は、子どもたちを庭で遊ばせるためにセキュリティー強化を余儀なくなされた

今年5月には、労働党のロージー・クーパー議員の殺害を企てたとして、ネオナチ団体のメンバーだったジャック・レンショウ受刑者(23)が終身刑を言い渡された。

刑事法院の裁判官によると、レンショウ受刑者は2016年6月に刺殺されたジョー・コックス議員の事件を「模倣」したかったのだという。

調査に回答した議員の多くは、攻撃を受けることは予測しているものの、事務所の職員や家族への影響を懸念していると話した。

マン議員は、「こうした脅迫のプレッシャーに耐え切れず、辞めたスタッフもいる」と述べた。また、マン議員の妻と娘がレイプの脅迫を受けたという。

「捜査体制も、警察の連携体制も統一されていない。イギリス各地でばらばらな複数の警察ではなく、ひとつの特別ユニットが捜査にあたるべきだ」

Image caption ネオナチを掲げるジャック・レンショウ受刑者(23)は、議員殺害を企てたとして終身刑を言い渡された

ロンドン警視庁のクレシダ・ディック警視総監は5月、下院の委員会に出席し、議員への脅迫は「前例のないほど増えている」と述べた。2018年に通報された事件は、151件から342件に倍増したという。

議会警備を主導しているエイドリアン・アッシャー警視長も、議員への脅迫は「劇的に増加」しており、2018年半ばから「政治議論の場が白熱している」のは「疑いようがない」と述べた。

公務員生活委員会のジョナサン・エヴァンズ委員長は、一連の調査によって「脅迫や侵害といった深刻で緊急を要する問題があり、悪化している」ことが明らかになったと話した。

また、警察の対応も改善はしているものの「部分的」で、警察は「国全体の脅威として中央管理の下に協力」すべきだと述べた。

労働党のヤスミン・クレシ議員は、「たとえば、『お前は裏切り者でイギリのパスポートを持つべきではない』とか、『お前はISIS(イスラム国の意)のシンパだからイスラム教の国へ戻ってレイプされ虐待されればいい』とか言われたら、そういう相手と関わるのはもう無理だと思う」と話した。

シェフィールド大学の調査によると、こうした攻撃行為はさらに深刻なレベルに達しているという。クレシ議員は、ソーシャルメディア企業は利用者のモニタリングにもっと投資すべきだと訴えている。

「妥協はしない」

シェフィールド大学のコンピューター科学科の調査チームは、今年1~6月にイギリスの下院議員のツイートに付けられた返信を研究した。

その結果、攻撃的な返信は月を追うごとに大幅に増加し、6月には全ての返信の4%弱が侵害を含むものだった。

調査チームを主導したカリーナ・ボンチェヴァ教授は、「こんな数字は見たことがない」と話す。

また、攻撃ツイートのほぼ半分が、議員10人に集中していると明らかにした。

この調査でツイッター上で最も攻撃を受けていると判明したラミー議員は、「議員としての発言で妥協するつもりも、攻撃する側を勝たせるつもりもない」と話した。

「しかし、これがイギリスの民主主義に広がる汚点なのだと思うと非常に悲しい。異議を唱え、対応すべき案件だ」

一方でホイル副議長は、BBCの調査結果は「氷山の一角」にすぎないと指摘した。

ホイル氏は、議会安全保障の諮問委員会で委員長を務めている。ホイル氏の元に送られてきた議員からの届け出は、2019年の最初の6週間の時点ですでに2018年1年分と同じ量だという。

「議員が私のところに来て『もう立候補はしません、安全だと思えないし、こういう状況はもうたくさんだ」と言ってくる。これはイギリスの民主主義の危機だ」とホイル氏は警告した。

(英語記事 MPs describe threats, abuse and safety fears

この話題についてさらに読む