トランプ氏の通話記録を公表 ウクライナにバイデン氏捜査を働きかけ

アメリカのドナルド・トランプ大統領が、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対し、政敵について捜査するよう働きかけていたことが、25日にホワイトハウスが公表した通話記録で明らかになった。野党・民主党からは、政敵潰しのために外交を利用したと批判が上がっている。
公表された通話記録によると、トランプ大統領はゼレンスキー大統領に対し、ジョー・バイデン前副大統領とその息子のウクライナでの活動について捜査するよう促していた。
バイデン前副大統領は、来年の大統領選で民主党候補に選ばれる可能性がある。
民主党は24日、このウクライナ疑惑をめぐり、弾劾調査を正式に開始すると発表していた。
「協力をしてくれるとありがたい」
公表された通話記録によると、トランプ氏はゼレンスキー氏との電話で、ウクライナのヴィクトール・ショーキン検事総長の解任について話し合った。
トランプ氏は、「ウクライナには非常に優秀な検事総長がいたのに、解任されたと聞いた。本当に不公平だ」、「ウクライナの非常に優秀な検事総長の解任方法についてや、非常に悪い人間が複数関与していたと、多くの人がうわさしている」と述べたという。
さらに、「それからもうひとつ、バイデンが(自分の息子の)捜査を止めさせたなどといった、バイデンの息子に関するうわさがたくさんある。多くの人が何があったのか知りたがっている。あなた(ゼレンスキー氏)がアメリカの司法長官と何らかの協力をしてくれるとありがたい」と続け、ウィリアム・バー米司法長官やルドルフ・ジュリアーニ米大統領顧問弁護士と連携して捜査するよう要請したという。
「バイデンは息子の捜査を止めたと自慢して回っていたので、調べてもらえれば。(中略)私にはひどい話に思える」と述べたトランプ氏に対し、「われわれはこの件の捜査に取り組む方針だ」とゼレンスキー氏は答えたという。
ゼレンスキー氏は、過去にアメリカを訪問した際、ニューヨークのトランプ・タワーに滞在したと伝え、トランプ大統領に感謝を述べた。
援助の重要性を強調
通話記録ではまた、トランプ氏がゼレンスキー氏に対し、軍事支援の実行はバイデン氏に関する捜査次第だとは明言していないことも明らかになった。
しかし、バイデン氏について言及する前に、トランプ氏はこう述べて、アメリカからの援助の重要性を強調していた。
「われわれは、ウクライナのために多くのことをしている」
ゼレンスキー大統領との電話の数日前、トランプ氏はウクライナへの3億9100万ドル(約420億円)の軍事支援を延期した。
トランプ氏は、ゼレンスキー氏に圧力をかけるためのものではなかったとしている。
「米史上最大の魔女狩り」
トランプ大統領はツイッターで、「完全に機密解除された未編集の通話記録」を25日に公表すると約束していた。しかし、ホワイトハウスが25日朝に公表したのは、政府職員が会話の内容を聞いて書き起こした文書だった。
トランプ大統領は25日朝、米ニューヨークで開かれた国連総会に出席。弾劾調査は「アメリカ史上唯一最大の魔女狩り」だと反発し、7月の電話はなんでもない内容だったと述べた。
一方、トランプ氏と共に国連総会に出席したゼレンスキー氏は記者団に対し、「われわれが電話でいい協議をしたということが、あなた方にもわかっただろう。普通の電話だった。さまざまなことを話し合った。誰も私に圧力をかけていなかったことが、通話記録を読んで分かったと思うが」と述べた。
「言い換えれば、圧力はなかった」と、トランプ氏は口を挟んだ。
一方、米下院情報委員会のアダム・シフ委員長(民主党、カリフォルニア州選出)は、記者団に対し、通話記録を見れば「古典的なマフィアがやるようなゆすり」があったと分かると述べた。
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バイデン親子について捜査を要請
複数の米紙報道によると、トランプ氏はゼレンスキー大統領に対して、バイデン氏ならびに、ウクライナのガス会社ブリスマの取締役だった息子のハンター・バイデン氏について捜査を要請し、その見返りに軍事支援の拡大を約束した疑惑がある。
米司法省は25日、バイデン氏に関する捜査をウクライナ側に要請することについて、トランプ氏がバー司法長官と話し合ったことも、バー氏がウクライナ側と連絡を取った事実もないと説明した。
バイデン氏をめぐっては、副大統領在任中の2016年5月、ブリスマの捜査を担当していたショーキン検事総長を解任するよう、ウクライナ側に働きかけたとの疑惑が浮上している。
その際、バイデン氏はウクライナに対し、ショーキン氏を解任しない限り、10億ドル(約1100億円)の援助を差し止めると脅したとされる。
バイデン氏側に不正行為があったという証拠は明らかになっていない。

サイバー攻撃に関する発言は
通話記録の中で最も不可解なやり取りの1つは、トランプ氏がインターネットサーバーや米サイバーセキュリティ会社のクラウドストライクに触れたことだ。
トランプ氏は「お願いがある」と切り出し、「ウクライナで何が起きているのかを解明してほしい。クラウドストライクという(中略)ウクライナには裕福な人がいると思うが(中略)そのサーバーをウクライナが持っているというんだ」と述べた。
クラウドストライクは、米民主党全国委員会(DNC)のコンピュータが2016年、ロシアからとみられるハッキング攻撃を受けた問題で、DNCが調査を依頼したサイバーセキュリティ会社。
この時のハッキングでは、当時のヒラリー・クリントン陣営のメールが多数流出。クラウドストライクは、ロシア政府系のハッカーグループが関与していたと結論付けた。
トランプ氏は以前、DNCがクラウドストライクに調査依頼するのではなく、ハッキングされたメールサーバーを米連邦捜査局(FBI)に引き渡さなかったことを疑問視していた。
2017年4月、トランプ氏はAP通信に対し、クラウドストライクは「非常に裕福なウクライナ人が所有していると聞いた」と述べた。
トランプ氏はゼレンスキー氏との電話協議の中で、DNCのサーバーがウクライナ国内のどこかに保管されていることを示唆したようだ。

弾劾手続きとは
合衆国憲法第2条第4節は、「大統領並びに副大統領、文官は国家反逆罪をはじめ収賄、重犯罪や軽罪により弾劾訴追され有罪判決が下れば、解任される」と規定している。
弾劾訴追権は下院が、弾劾裁判権は上院がそれぞれ持つ。