ロンドン橋殺傷 死亡した1人は元受刑者の社会復帰支えた25歳

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Image caption ロンドン橋の事件で殺害されたジャック・メリットさん

英ロンドン中心部のロンドン橋付近で5人が殺傷された事件で、死者の1人はジャック・メリットさん(25)だと30 日、判明した。メリットさんは元受刑者の社会復帰支援事業に取り組んでいた。元受刑者が仮釈放中に起こした凶悪事件を受けて、量刑の仕組みについても議論が起きている。

29日午後の事件ではウスマン・カーン容疑者(28)が刃物で2人を殺害、3人にけがを負わせた。事件ではメリットさんのほかに女性が1人死亡したが、身元は明らかになっていない。

亡くなったメリットさんの父、デイヴィッド・メリットさんはツイッターで、息子を「常に弱者の側に立つ、美しい魂」だったとしのんだ。

「ジャックは、自分が一緒に働く全員を高く評価して、本当に仕事が大好きだった」と、デイヴィッドさんは書いた。

元受刑者支援のコーディネーター

メリットさんは英ケンブリッジ大学出身で、元受刑者の社会復帰を支援する同大学プログラム「Learning Together(共に学ぶ)」のコーディネーターだった。

このプログラムはケンブリッジ大学の犯罪学研究所が運営。メリットさんはその修士課程を修了した卒業生だった。

メリットさんは、2016年にマンチェスター大学で法学士を取得後、ケンブリッジ大学の大学院に進んだ。

Image caption 容疑者を警官たちが取り押さえた様子(29日、ロンドン橋)

容疑者と共に参加

事件が発生した29日には、ロンドン橋の北側たもとにある鮮魚販売業界団体の集会所「Fishmongers' Hall」で、「Learning Together」の集まりが開かれていた。メリットさんとカーン容疑者は、他の元受刑者や同大学の学生など数十人と共に、これに参加していた。

カーン容疑者は、2012年にテロ関連の罪状で有罪となり、ケンブリッジシャーのホワイトムーア刑務所で服役していた時から、このプログラムに参加していた。

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Image caption ウスマン・カーン容疑者

同容疑者は事例研究の参加者として、プログラムの報告書で紹介されていた。「ウスマン」の名前だけで登場するカーン容疑者は、仮釈放後に資金集めの夕食会でスピーチをしたと記されている。

同容疑者には、仮釈放の条件に沿った「安全な」ノートパソコンが支給されていた。刑務所で始めた作文や学習を続けるよう支援するためだった。

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Image caption カーン容疑者は元受刑者支援プログラムの事例研究に参加し、その報告書にも登場していた

報告書とは別の小冊子でカーン容疑者は、パソコンが使えてありがたいと、気持ちを詩にしていた。さらに、「この素晴らしいコミュニティーを支え続ける『Learning Together』チームとすべての人に、いくら感謝しても足りない」と書いていた。

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消火器や角で取り押さえ

ロンドン警視庁によると、カーン容疑者による攻撃は29日午後1時58分ごろ、集会所の中で始まり、屋外のロンドン橋に出ても続いた。現場を撮影した複数の動画によると、集会の他の参加者や通行人が消火器や、集会所の壁にかかっていたイッカクの角などで容疑者を取り押さえ、助けに駆け寄った男性がその手から刃物を取り上げるなどした。

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Image caption 多くの通行人が容疑者の取り押さえに協力したと称賛されている

駆け付けた警官がその場で容疑者を射殺。調べによると、コートの下ににせの自爆チョッキをつけていた。目撃した女性も、コートの下にチョッキのようなものが見えたと話している。

容疑者から刃物を取り上げた私服姿の男性は後に、イギリス交通警察の警官だと明らかになった。

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ロンドン橋で何が 容疑者を市民が取り押さえ

英中部ストーク・オン・トレントで生まれ育ったカーン容疑者は、2012年にテロ関連の罪状で有罪となり、「公衆防護」のため最低8年の無期禁錮刑を言い渡された。

当初のこの判決によって、容疑者は8年以上は収監される可能性があった。しかし、2013年に控訴院がこの判決を破棄。禁錮16年の有期刑に変更され、カーン容疑者はその半分の8年間を服役すれば良いとされた。

控訴院は当時、「こうした犯罪で有罪となった人に対し、安全に釈放できることを自ら示すよう奨励すべきとの議論がある。そうであれば、釈放可能な時期が近づいたときに、そうした決定を更生保護委員会に委ねたほうがいい」と判断した。

この判決を受け、カーン容疑者は2018年12月に仮釈放された。それ以来、英中部スタフォードで、保護観察を受けながら暮らしていた。電子タグを常用し警察の監視下に置かれるほか、テロ関係者の社会復帰を目的とする政府のリハビリ・プログラムへの参加を義務付けられていた。

ロンドン警視庁のニール・バス副総監は30日、容疑者の仮釈放は多数の条件を伴うもので、「自分の知る限り、容疑者はそうした条件を守っていた」と話した。

Image caption ロンドン警視庁のニール・バス副総監
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Image caption 仮釈放後の容疑者が暮らしていた中部スタッフォードで、警察が家宅捜索した集合住宅

量刑めぐり異論

事件現場を訪れたボリス・ジョンソン英首相は、容疑者が刑期半ばで仮釈放中だったことを問題視し、凶悪犯を早く釈放するような仕組みは「まったくうまくいっていない」と批判した。

ジョンソン首相は「刑罰を厳しくする」と約束。最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、現行の刑罰制度には検討すべき問題点があると述べた。

一方で、殺害されたメリットさんの父、デイヴィッドさんはすでに削除したツイートで、「この攻撃で殺された息子のジャックは、量刑の厳罰化や、人を不要に収監するための口実に、自分の死が利用されることなど望まないはずだ」と書いた。

デイヴィッドさんは1日にも、もう1人の犠牲者サスキア・ジョーンズさんやジャックさんの写真を1面に掲げて「ジハード主義者への処罰教強化へ」と見出しにした英タブロイド紙に強く反発し、ツイッターで、「私の息子の死や、息子とその同僚の写真を使って、自分たちのおぞましいプロパガンダを推進するな。ジャックは憎悪や分断や無知といった、あなた方が象徴する全てのものに反対していた」と書いた。

イギリスでは12月12日に総選挙が行われるが、各政党は30日に予定していたいくつかの選挙活動を中止した。

各地の政府庁舎は事件の被害者に敬意を表し、旗を半旗で掲げた。

エリザベス女王は声明で、「フィリップ殿下と私はロンドン橋のテロ攻撃について知り、悲しんでいます」、「愛する人を失った全ての人、そして昨日の恐ろしい暴力に影響を受けた全ての人に、私たちの思いと祈りと深いお悔やみの気持ちを送ります」とコメントした。

(英語記事 London Bridge attack victim named as Jack Merritt

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