マルタ首相、年明けの辞任表明 汚職追及の記者殺害事件めぐる批判受け

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Joseph Muscat has been in office six years
地中海の島国マルタのジョセフ・マスカット首相は1日のテレビ演説で、来年1月に辞任する意向を示した。同国で2017年に起きたジャーナリスト殺害事件をめぐり、同氏の側近とつながりがあるとみられる人物が訴追されるなど、批判が高まっていた。
マスカット首相は与党・労働党に対し、来年1月12日に後任を選出するための手続きを開始するよう求める考えだと述べた。
マルタのビジネスや政界エリートらの汚職疑惑を調べていたマルタ人ジャーナリストのダフネ・カルーアナ・ガリジア氏は2017年、自動車爆弾で殺害された。
この事件の捜査をめぐっては、デモ隊がマスカット氏の即時辞任を求めてきた。
先週、政権幹部とつながりがあるとみられる実業家がガリジア氏殺害で共謀したとして訴追されたことで、マスカット氏への反発は激しさを増した。
辞任しなければ完全な捜査は不可能と
ガリジア氏の遺族は、マスカット氏は過去2年間でマルタ政界の腐敗一掃に失敗したため、辞任すべきだと主張。同氏が首相の座に留まる限り、ガリジア氏の死に対する十分な捜査は不可能だとしている。
マスカット氏はガリジア氏殺害事件の捜査手法について、「一部の判断はよかったものの、より最善な判断をできるものもあった」と述べ、辞任決断に至った理由を説明。「私が背負わなければならないすべての責任は、間違いなく、犠牲者の家族が耐えている痛みとは比べ物にもならない」と付け加えた。
マスカット氏はいつ辞任する?
マスカット氏は、来年1月12日に労働党党首を辞任に、「その数日後」に首相を辞任する意向という。
欧州連合(EU)加盟国でもっとも小さな国で、圧倒的勝利を2度おさめ、好況と社会改革を率いたマスカット氏は、6年にわたり権力を握ってきた。
「マルタは新しい章を始める必要がある。私にできるのは、その合図を送ることだけだ」
マスカット氏は1日、4時間にわたり労働党の議会グループとの会議を行った後、辞任を決断した。会議では、議員は「首相が下すあらゆる決断に対し、満場一致で支持」を表明したという。
辞任要求の理由
デモ隊の集団はこの日、首都バレッタでマスカット氏の即時辞任を求めるデモ行進を行った。
マスカット氏の元首席補佐官、キース・シェンブリ氏が、ガリジア氏殺害で仲介役だったとみられるメルヴィン・サウマ氏と共に写っている写真のコピーが、建物の門に貼り付けられた。
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デモ隊が首都バレッタの通りを埋め尽くした
マスカット氏の対応に対するデモ隊の反発は、今週末に激しさを増した。
政権幹部と関係があるとみられる実業家、ヨルゲン・フェネック容疑者が、10月30日にガリジア氏殺害を共謀した罪で訴追された。フェネック容疑者はすべての容疑を否認している。
フェネック容疑者については昨年、謎に包まれたドバイの企業「17 Black」の所有者だと特定されていた。この企業は、2016年に カリブ海のタックスヘイブン(租税回避地)における各国首脳や著名人の租税回避行動を浮き彫りにしたパナマ文書に記載されていた。
「17 Black」は、シェンブリ氏とコンラッド・ミッツィ前観光相が用意した複数の企業に対し、秘密の支払を計画していたとされる。
シェンブリ氏とミッツィ氏は今週辞任したものの、不正行為については否定している。ミッツィ氏は、フェネック容疑者とのビジネス上のつながりについても否定している。
他に3人の男が、ガリジア氏を実際に殺害した罪で勾留されている。
警察の取り調べを受けた後、10月26日に自ら職務を停止していたクリス・カルドーナ経済相は1日、復職した。カルドーナ氏は不正行為を否定している。
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(左から)ガリジア氏、息子マシューくん、アンドリューくん、ポールくん、夫ピーター氏(写真は1989年撮影)
2017年10月にガリジア氏を同氏の自宅近くの路上で殺害したとして、同年12月に50代の男3人が逮捕・訴追された。
ジョージ・ディジョージオ容疑者とアルフレド・ディジョージオ容疑者の兄弟とその友人のヴィンセント・マスカット容疑者は、後半前手続きで無罪を主張した。
マスカット容疑者はその後、警察に対し、ガリジア氏の自宅前の路上に駐車されていた同氏の車に爆弾を仕掛けたと供述した。ロイター通信によると、3人は殺害の報酬として15万ユーロ(約1800万円)を受け取っていたという。