がん治療を変える? がんの全ゲノムを解析=国際研究

ジェイムズ・ギャラガー健康・科学担当編集委員

Cancer cells

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1000人以上の研究者が参加し、あらゆるがんの遺伝子情報を網羅した横断的な研究が5日、学術誌ネイチャーで発表された。

科学者らの説明では、がんは10万ピースからなるジグソー・パズルのようなものだが、これまではその99%が見つかっていなかったという。

今回行われた「全ゲノムがん種横断的解析プロジェクト(PCAWGC)」では、がんの2658症例の全ゲノム塩基配列を分析。これにより、患者ごとのがんに特化した治療薬や、がんの早期発見方法の開発などができる可能性があるという。

たった1%

がんとは、DNAの変異によって健康な細胞が壊れ、成長と分裂を制御できなくなった状態だ。

また、がん化のプロセスについて分かっていることのほとんどは、たんぱく質を構成する遺伝子情報を分析した結果だ。

オンタリオ州立がん研究所のリンコン・スティーン博士は、「これはゲノム全体のたった1%に過ぎない」と説明する。

スティーン博士によると、がん患者の3分の1についてはなぜ細胞ががん化したのか分からず、医師は「暗闇の中」で治療を行っているようなものだという。

残りの99%が何をしているのかを突き止める今回の研究には37カ国が参加し、10年以上の歳月がかけられた。

22の論文にわたって発表されたPCAWGCの研究結果によると、がんの発生過程は非常に複雑で、数千もの変異の組み合わせが考えられるという。

がんを加速させる変異

研究では、がん細胞にはがんの成長を加速させる変異が平均4~5種類あることが分かった。

こうした変異は、それを標的とする治療薬に利用できる弱点になりえる。

ウェルカム・サンガー研究所のピーター・キャンベル博士は、「究極的には、こうした技術を使って患者一人ひとりに特化した治療方法を特定できるようにしたいと考えている」と話した。

一方で、研究対象のがんの5%からは、がんを加速させる変異が見つからず、さらなる研究が必要だという。

研究者はまた、変異を「炭素年代測定」する方法を開発した。それによると、がんを引き起こす変異の約20%はがんが発見される数年、あるいは数十年前に起きているという。

フランシス・クリック研究所のピーター・ヴァン・ルー博士は、「我々は初めて、あらゆるタイプのがんについて、遺伝子変異の時系列を明らかにした」と話す。

「こうしたパターンを明らかにしたことで、がんをもっと早期に発見できる新しい検査方法を開発できるかもしれない」

今後の課題としては、見つかった変異が後にがんになるのか、無視してよいものなのかを判断できるかどうかだろう。