バイデン氏、27年前のアシスタント性的暴行疑惑を全面否定 「まったくなかった」

Joe Biden in Iowa, 10 August 2019

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野党・民主党の候補としてトランプ米大統領と争う見通しのバイデン前副大統領

今秋の米大統領選でドナルド・トランプ大統領と争う見通しのジョー・バイデン前副大統領は1日、30年近く前に女性アシスタントを性的に暴行したという疑惑について「そんなことは一切、まったくなかった」とテレビの取材で答えた。

バイデン氏は女性の主張を否定する声明をあらためて出した後、MSNBCの朝の番組に出演し、「はっきりと申し上げる。そんなことは一切、まったく起こらなかった」と言明した。

この疑惑では、バイデン氏が上院議員だった当時、スタッフの助手だったタラ・リード氏(56)が性的暴行を受けたと訴え出ている。リード氏が当時提出したとされる苦情の記録を探すよう、バイデン氏は上院事務局に協力を求めた。

1993年に起きたという暴行被害について、リード氏は4月、警察に被害届を出した。バイデン氏の名前は被害届では特定していない。すでに時効が成立しているが、「自分の身の安全のため」に届け出たのだとリード氏は説明している。

再選を目指してバイデン氏と争う見通しのトランプ氏については、25人の女性が性的暴行や加害行動を受けたと主張している。

リード氏の主張は

バイデン氏は2008年に副大統領になる前は、デラウェア州選出の上院議員だった。リード氏は1992年から93年にかけて、スタッフ・アシスタントを務めていた。

リード氏は、バイデン氏が1993年に連邦議会議事堂の廊下で彼女を壁に押し付け、シャツやスカートの下に手を入れ、性器に自分の指を挿入したと主張している。

「そうしながらあの人がまず、『どこか別の場所に行きたい?』と言ったのを覚えている。私が離れると、『おい、なんだよ。僕のことが好きだって聞いたのに』と言われた」と、リード氏は今年3月、人気司会者のポッドキャストで話していた。「あの言葉は忘れられない」とも言った。

Senator Kamala Harris at Biden rally

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バイデン氏は副大統領候補には女性を選ぶと公約している。この疑惑はそれに影響するかもしれない。写真は、副大統領候補の1人として名前が取りざたされるカマラ・ハリス上院議員とハグするバイデン氏

リード氏は、バイデン氏の36年間にわたる上院議員生活の記録を調べれば、自分が当時、バイデン氏のスタッフに苦情を申し立てた証拠が残っているはずだと主張している。バイデン氏の上院議員としての記録は、デラウェア大学に保管されている。同大学は、バイデン氏がいっさいの公職から離れて2年たつまでは、いっさいの資料を公表しないという姿勢を示している。

リード氏の主張について、目撃者はいない様子。しかしこれまでにリード氏の弟、元隣人と元同僚の計3人が、1993年当時に本人からその話を聞いたと名乗り出ている。

当時リード氏の隣人だったリンダ・ラカス氏は米誌ビジネス・インサイダーに、「確かにあったことだ。なぜ知っているかと言うと、当時その話をしたのを覚えているから」と話した。

「彼女が当時、どういう人の下で働いていて、どれだけその人に憧れていたか話していたのを覚えている」とラカス氏は話した。「話に出てくるスカートも覚えているし、指の話が出たのも覚えている。彼女が打ちひしがれていたのも覚えている」。

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昨年4月に8人の女性が名乗り出て、バイデン氏から不適切な接触、ハグやキスなどがあったと指摘した際、リード氏もその1人だった。ただし当時、バイデン氏の行動を性的暴行と呼んだ人はいなかった。

バイデン氏は昨年のこの時点で、他人との関わり方で「もっと気をつける」と約束していた。

バイデン氏は何と

MSNBCの司会者ミカ・ブレジンスキ氏に対してバイデン氏は、リード氏への性的加害行動は一切なかったと述べた。

「そんなことは起きなかった。まったく」

ブレジンスキ氏はそれを受けて、女性が性的暴行被害を訴え出た際に周囲はどう受け止めるべきか、バイデン氏がかつて女性を信じるべきだと発言した内容を繰り返し、問いただした。

2018年にブレット・キャヴァノー連邦最高裁判事の就任承認手続きの中で、1982年にキャヴァノー氏から性的暴行を受けたとクリスティーン・ブラジー・フォード教授が上院公聴会で証言した際、バイデン氏は他の民主党幹部と共に、フォード教授を強力に擁護した。

トランプ大統領が指名したキャヴァノー判事の就任は、与党・共和党が多数を占める上院で承認されたが、バイデン氏は当時、「女性が全国的な注目を一身に集めてもなお、こうして名乗り出ているからには、少なくともその発言のエッセンスは本当なのだという前提から出発しなくてはならない」とフォード氏を支持していた。

世間の厳しい詮索(せんさく)を受けると知りながら名乗り出た女性の発言は、「詳細を忘れていたとしても、時間の経過で問題が悪化したか改善されたかを問わず」核心部分は本当なのだろうという前提が大事だと、バイデン氏は主張していた。

これを踏まえて番組司会のブレジンスキ氏は、「女性の言うことは信じるべきでも、自分に関することは例外ですか」とバイデン氏に尋ねた。

「女性は信じるべきだ。多少疑わしくても。ただその上で、どういう状況で何が事実なのかを見なくてはならない」

「真実は大事だ」

バイデン氏は、リード氏がなぜ名乗り出たのかその動機について憶測することは避け、「彼女は名乗り出て言いたいことを言う権利がある。しかし私にも、『事実を見てください』という権利がある」と答えた。

デラウェア大学が所蔵する自分の上院議員時代の資料については、リード氏に関する人事情報は含まれていないと、バイデン氏は述べた。資料箱1800個分の文書の内容について、ブレジンスキ氏は繰り返し問いただしたが、人事資料は含まれていないとバイデン氏は答えた。また内容を公表すれば、大統領選に向けた政治的駆け引きの材料に利用されるだけだと述べた。

このMSNBCインタビューから間もなく、バイデン氏は上院事務局に書簡を送り、リード氏の苦情に関する資料が残っていないか確認を求めた。

バイデン氏は事務局への手紙で、「27年前に私の上院議員事務所にいたスタッフが、性的嫌がらせの苦情を提出していたか確認するため、ご協力願いたい」と書いた。

手紙でバイデン氏はさらに、関連文書が見つかった場合はすべて公表するよう求め、「苦情が提出されていたならそれを公表するだけでなく、今回の訴えに関するあらゆる文書が保管されていたなら、それも全て公表」してもらいたいと求めている。

大統領選への影響は

共和党の間では、リード氏の訴えをとらえて、民主党は自分たちに都合の良い時だけ女性を擁護する偽善者だと吹聴する動きが出ている。

トランプ大統領の選対本部は、バイデン氏のインタビューを嘲笑し、「またしても自分は他人と別格だと思っているようだ」と批判した。

しかし、トランプ氏に対して複数の女性が性的被害を訴え出ているほか、トランプ氏自身がかつて「スターなら(女性に)何でもできる」、女性器を「わしづかみにする」などと発言していただけに、バイデン氏のこの問題をトランプ陣営が政治的に利用するのは簡単ではないかもしれない。

一方で民主党は、自分たちは共和党と違い道徳と多様性を重視する党だと自認し、強調してきただけに、共和党の政治家よりも厳しい基準で判断される。

また伝統的に、女性は共和党より民主党支持者が多いため、その影響も懸念される。

バイデン氏は副大統領候補に女性を選ぶと公約している。大統領候補指名をバイデン氏と争った、エリザベス・ウォーレン上院議員、エイミー・クロブシャー上院議員、カマラ・ハリス上院議員、ステイシー・エイブラムス前ジョージア州知事候補などの名前が取りざたされているが、女性議員たちにとってはバイデン氏のこの問題が、自分自身の悪評につながりかねないため、慎重な対応が必要になった。