米で試験の新型ウイルスワクチン、人間の免疫系を訓練か 抗体生成
ジェイムズ・ギャラガー保健・科学担当編集委員

画像提供, Getty Images
ワクチンを使って新型コロナウイルスとたたかう免疫系を訓練できることを示唆する最初の報告が、アメリカ企業から発表された。
バイオ製薬会社モダーナは、ワクチンの臨床試験に参加した8人の体内で、新型ウイルスを無効化する抗体が確認されたと発表した。
また、被験者が示した免疫反応は、実際に新型ウイルスに感染した患者のものと似ていたという。
7月からはワクチンが新型ウイルスの感染を実際に防ぐかどうかを検証するため、さらに大規模な臨床試験が始まる予定。
世界各地で現在、研究所や企業など80グループが新型ウイルスワクチンの開発を、これまでにないスピードで進めている。
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モダーナ社は、mRNA-1273と呼ばれる実験用ワクチンを被験者に投与した。
このワクチンは新型ウイルスの遺伝暗号の一部からできている。感染やCOVID-19の症状発症には至らないが、免疫反応を引き起こすには十分だという。
アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が行ったmRNA-1273の臨床試験では、ワクチンによって新型ウイルスを無効化する抗体が生成されることが示された。
ただし、被験者45人のうち、抗体検査を行ったのは最初の8人だけだという。
臨床試験では、3種類の濃度のワクチンを使用。最も高濃度のワクチンを接種した人たちには、副作用が最も多くみられた。
しかしモダーナ社は、ワクチンの濃度が最も低かった人でも、COVID-19から回復した人と同程度の抗体が作られたと説明。
中程度の濃度を接種した人からは、回復者を「はるかに超える」量の抗体が見つかったという。
臨床試験は現在、ワクチンの効果よりも安全性を検証する第1相の段階にある。これから第2相、第3相と進む中で、ワクチンが実際に人間を新型ウイルスから守るのか、判断する。
しかしネズミを使った実験では、肺におけるウイルスの増殖を防げる可能性が示唆されている。
モダーナの最高医療責任者、タル・ザックス博士は、「この第1相の中間データは初期段階のものだが、mRNA-1273を使ったワクチンが自然感染による免疫反応と同程度のものを引き起こすことが分かった」と説明した。
「一連のデータから、mRNA-1273がCOVID-19を防ぐ可能性があるという我々の考えが実証された。重要な実験で今後使うべき量を決める能力も向上した」
モダーナは7月にも大規模な治験を始めたいと述べるとともに、すでに大量生産の方法についても調査を始めているという。
英オックスフォード大学のワクチンは
英オックスフォード大学でも、開発中のワクチンの臨床試験が行われているが、まだ結果は明らかになっていない。
しかし、サルを使った試験結果については、疑問の声も上がっている。
この試験では、ワクチンを投与されたサルは重症化せず、肺炎にもならなかった。一方で、ウイルス感染を完全に防ぐには至らず、ワクチンを接種していないサルの鼻腔内と同程度のウイルスが検出された。
英エディンバラ大学のエレノア・ライリー教授はオックスフォード大のワクチンについて、「もし人間でも同様の結果が出れば、このワクチンはCOVID-19発症を部分的に防ぐものの、地域社会での感染抑制効果はおそらく低いということになる」と指摘した。
しかし、人間で臨床試験を重ねなければ、このワクチンが人間にどう作用するかは分からない。
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