米野党・民主党、連邦警察改革の包括法案提出 フロイドさん追悼に片膝突く

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野党・民主党の議員たちはフロイドさんを追悼し、9分近く連邦議事堂内で膝を突いた(8日、ワシントン)
米野党・民主党は8日、連邦警察改革の包括法案を連邦下院に提出した。アメリカでは、黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官の暴行で死亡したのを機に、警察暴力と人種差別に抗議するデモが各地で連日続いている。
民主党による2020年公正警察法案は、警察の問題行動を訴追しやすくし、逮捕時に容疑者の首を絞めて制圧することを禁止し、人種差別に取り組む内容になっている。
法案は連邦警官に、ボディカメラや車載カメラによる現場の撮影を義務づけ、逮捕時に容疑者の首を絞めて制圧することや、「ノックなし令状」と呼ばれる無予告の家宅捜索を禁止する。
法案を発表した民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長は、近年のアメリカで警察によって死亡したアフリカ系市民の名前を読み上げた。
ペロシ議長、チャック・シューマー上院院内総務、カマラ・ハリス上院議員、コーリー・ブッカー上院議員、黒人議員団のメンバーが法案を提出し、フロイド氏の追悼に連邦議会議事堂の広間で9分近く床に片膝を突いた。フロイド氏は白人警官に9分近く、首を膝で押さえつけられ、死亡している。
上院で多数を占める共和党が、この法案を支持するかは不透明。共和党幹部の間では、独自法案の策定を検討する声も出ている。
人種差別と警察暴力 アメリカの原罪が頭をもたげる
上院司法委員会は今月半ばに公聴会を開く。
フロイド氏の弟、フィロネス・フロイド氏は今週後半、警察改革に関する下院公聴会で証言する予定。
フロイド氏の事件があった中西部ミネソタ州ミネアポリスでは市議会議員の安定過半数が、市警察を解散させると公約した。代わりに、地域住民が中心となる新しい防犯と治安維持の仕組みを作るとしている。
アメリカでは各地の自治体が独自の権限で警察を運営しており、連邦警察とは指揮系統が異なる。
「国民的な悲しみを国民的行動へ」
ペロシ下院議長は、フロイド氏の犠牲によって「警察の残虐行為で亡くなった黒人アメリカ人を追悼するという、国民的な悲しみの時をアメリカは経験している」と述べた。
「国民的な悲しみの動きは本日、国民的な行動の運動へと変身する」と、ペロシ氏は強調した。
法案が成立すれば、私刑は連邦法上の犯罪となるほか、警察による軍用武器の購入が制限される。州や地域の警察組織全体に差別や偏見、問題行動が蔓延(まんえん)しているとみられる場合は、司法省が捜査権限を持つことになる。
さらに、警察の問題行動に対する不服申し立ての全国的なデータベースを作る。
「法と秩序の大統領」を自認するドナルド・トランプ大統領率いる与党・共和党は、民主党によるこの警察改革法案を積極的に支持していない。
一方で、以前からトランプ氏に批判的な共和党のミット・ロムニー上院議員は7日、キリスト教信者のグループとホワイトハウスへ行進。「Black Lives Matter」と繰り返す自分の様子をツイートした。ロムニー氏は2012年大統領選でバラク・オバマ前大統領に敗れている。
「Black Lives Matter」というスローガンは、2013年から2014年にかけて使われ始め、2014年8月に南部ミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人男性が白人警官に射殺されたのを機に、全国的な抗議運動と共に広がった。「白人と同じように黒人の命にも意味がある、大事だ」という意味が込められている。
「警察の予算を打ち切れ」とデモ
フロイド氏の死亡に抗議する各地のデモでは、今月に入り「警察の予算を打ち切れ」という主張が繰り返されている。
「警察予算打ち切り」を要求する人たちは長年にわたり、アメリカ各地の地元警察が過剰な軍用級装備を備え、軍隊のような攻撃的手法で治安維持に当たっていると批判してきた。
こうした警察の体制強化に公的資金をつぎ込むのではなく、地域社会を強化し人種対立を緩和するような社会福祉事業に予算を回すべきだという主張だ。
ニューヨーク市ではビル・デブラシオ市長が7日、市の警察予算を削減し、社会福祉に割り当てると公約した。
アメリカの警察の歴史的問題 脱走奴隷の追跡から始まり
トランプ大統領は、11月の大統領選で争う民主党のジョー・バイデン前副大統領も、こうした警察予算削減の推奨者だと攻撃しているが、バイデン陣営は8日、これを否定した。
「すでに刑事司法について公約を発表している通り、バイデン副大統領は警察予算を減らすべきではないと考えている」と、アンドリュー・ベイツ選対広報官は話した。
「(バイデン氏は)同時に変化を求める人たちの深い悲しみやいらだちを聞き入れ、共有している。このひどい苦しみを終わらせ、正義を確実に実現しなくてはと、突き動かされている」
アメリカでは過去に、自治体の警察組織が解体されたことが何度かある。2000年にはカリフォルニア州コンプトン、2012年にはニュージャージー州キャムデンで、管轄地域を拡大した新組織が導入された。

フロイドさん暴行死事件の時系列
- 5月25日――ミネソタ州ミネアポリスで白人警官に首を圧迫され、ジョージ・フロイドさん死亡
- 5月26日――フロイドさんの死に対する抗議始まる
- 5月27日――抗議が各地に広がる
- 5月28日――トランプ氏、略奪者を「ごろつき」とツイート。「州兵を送り込む」、「略奪が始まれば、発砲が始まる」と書いた。ツイッター社は2つ目のツイートを「暴力賛美」として警告を表示した
- 5月29日――デモ取材中のCNN記者とクルーが生中継中に逮捕される
- 5月31日――6日目の抗議が各地で続く
- 6月1日――トランプ氏、事態鎮圧に軍の投入も辞さないと演説。トランプ氏の写真撮影の前に、連邦公園警察などが抗議者を催涙ガスなどで排除
- 6月2日――8日目の抗議続く。首都ワシントンの各地に州兵配備
- 6月3日――関与した元警官4人を州司法当局が殺人罪などで起訴
- 6月4日――ミネアポリスでフロイドさんの追悼式
- 6月5日――ワシントン市長、ホワイトハウス近くの交差点を「Black Lives Matterプラザ」に命名
- 6月8日――フロイドさんの地元ヒューストンで追悼式。民主党は警察改革法案を議会提出