フロイドさん弟、「苦しみを止めて」 米下院で意見陳述

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フィロニス・フロイドさんは議員らに「この国と世界が必要としているリーダーとなってほしい。正しいことをしてほしい」と訴えた
米ミネソタ州で警察に拘束される際に死亡し、世界的な人種差別への抗議行動を生んだアフリカ系アメリカ人ジョージ・フロイドさん(46)の弟が10日、米議会下院の公聴会に出席し、警察の残虐性と「苦しみを止める」ための改革法案を成立させるよう強く求めた。
下院司法委員会は、警察による暴力と人種差別に取り組む法案を、来月4日までに下院に提出する予定。下院は野党・民主党が多数派となっている。
フィロニス・フロイドさん(42)はこの日、同委員会の公聴会で、兄ジョージさんの名前が「(死亡者)リストにただ追加されるだけ」であってはならないと訴えた。
さらに、「この国と世界が必要としているリーダーとなってほしい」と、下院議員たちに述べた。
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フロイドさんは先月25日、白人警官に約9分間、膝で首を押さえつけられ死亡した。その様子は携帯電話で動画に撮影された。
関与した警官4人は免職となり、殺人罪や殺人ほう助罪などで訴追されている。
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トランプ氏「基地名は変えない」
一方、ドナルド・トランプ大統領はこの日、抗議行動と警察の残虐性への対応策の検討は「最終段階」に入っており、「近日中に」公表する考えを示した。
また、南北戦争時代に奴隷制を支持した南部連合の将軍たちの名前が軍基地につけられていることについて、「偉大なアメリカの伝統だ」とし、変更する考えは「毛頭ない」とツイートした。
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基地名をめぐっては、反人種差別の抗議行動の高まりを受け、マーク・エスパー国防長官とライアン・マカーシー陸軍長官が変更の検討に応じる考えだと、国防総省の関係者が8日に明らかにしていた。
南部連合の将軍たちの名前をつけた軍基地は、ノースカロライナ州フォート・ブラッグ、テキサス州フォート・フッド、ジョージア州フォート・ベニングなど10カ所ある。
こうした基地は、トランプ氏が2016年大統領選挙で勝利し、今秋の同選挙でも頼みの綱としている南部の州に集中している。
フロイドさんの弟の訴え
フィロニスさんは公聴会で、「止めてもらうようお願いするために来た。苦しみをとめてほしい」と感情をあらわにしながら議員らに呼びかけた。
「ジョージは助けを求め、無視された。私が訴えていること、私たち家族が訴えていること、世界中の路上で人々が訴えていることに耳を傾けていただきたい」
「通りで行進している人々は、もうたくさんだと訴えている」
涙を見せたフィロニスさんはさらに、「彼の子どもたちはあの動画を見なくてはならなかった。残酷だ(中略)人間にあんなことはしない(中略)彼の命は大切だった。私たちみんなの命は大切だ。黒人の命は大切だ。ただ彼に戻って来てほしい。あの警官たちは生きて行ける」と述べた。
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警官の暴力を禁じる法案
下院司法委員会のジェロルド・ナドラー委員長(民主党)は、「(フロイドさんは)路上で大勢が叫んでいるだけの、ただの名前や理念ではない。それを私たちは心に刻まなくてはならない。彼は人だった。家族がいた。(中略)彼を追悼する」と話した。
民主党が作成した法案は、警官が容疑者の首を絞めつけることを違法行為とする。また、反人種差別の講習の必修化や、免職になった警官の別地域での復職の禁止、暴力をふるった警官を訴追しやすくすることも含まれている。
同委員会の共和党の代表を務めるマット・ゲイツ議員は、法案は「微調整」の必要はあるとしたものの、「共和党の協力をあてにしてもいい。提案に磨きをかけて通過させ、大統領に提出したいと願っている」と述べた。
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トランプ政権案を近く公表
ケイリー・マケナニー大統領報道官は、今回の問題に関するトランプ政権の提案を近く公表すると説明。ただ、警官の免責規定の縮小は含まれないとした。
また、トランプ氏は警官が悪者扱いされてはならないと考えていると述べた。
こうした説明の前には、マケナニー氏はトランプ氏が「立法あるいは大統領令によって、政策による積極的な処方をする」と話していた。
警察改革の動き
フロイドさんが死亡したミネソタ州ミネアポリスの警察トップ、メダリア・アラドンド氏はこの日、フロイドさんの死を無駄にはしないと宣言。警官の問題行動を早期に発見する新システムを導入する考えを明らかにした。
ミネアポリス市議会の過半数の議員らは7日、市警を解体し、新しい治安維持の仕組みを採用する考えを表明した。
米各地の抗議行動では、「警察予算を打ち切れ」が合言葉の1つになっている。ただ、トランプ氏や、同氏と11月の大統領選挙で対決することが確実なジョー・バイデン前副大統領は、予算削減に反対している。
アメリカのその他の動き
- ニュージャージー州では、運輸大手フェデックスの従業員と刑務官が、抗議行動を嘲笑する意図でフロイドさんの死を再現。その動画が見つかり、2人は停職となった
- ニューヨーク・ブルックリンで先月29日に行われた抗議集会で、女性を地面に投げ倒したとして、ニューヨーク市警の警官が暴行の疑いで訴追された
- ミネアポリス市警は、現職警官によるものとされるフェイスブックの投稿について捜査している。投稿は抗議者を嘲笑し、ソマリア移民に人気の店を略奪するよう呼びかけている
- トランプ氏の写真撮影のため今月1日、ホワイトハウス近くのデモ参加者たちが強制排除されたことについて、司法省の元職員1200人以上はウィリアム・バー司法長官が果たした役割に関する内部調査を強く求めている
- 人種差別に抗議する人たちは各地で、植民地主義的な歴史の称揚だとされる像を損壊している。クリストファー・コロンブスの像は米ヴァージニア州リッチモンドで湖に投げ入れられ、マサチューセッツ州ボストンでは頭部を切断された
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ボストンにあるコロンブスの像は頭部が切断された
フロイドさん暴行死事件の時系列
- 5月25日――ミネソタ州ミネアポリスで白人警官に首を圧迫され、ジョージ・フロイドさん死亡
- 5月26日――フロイドさんの死に対する抗議始まる
- 5月27日――抗議が各地に広がる
- 5月28日――トランプ氏、略奪者を「ごろつき」とツイート。「州兵を送り込む」、「略奪が始まれば、発砲が始まる」と書いた。ツイッター社は2つ目のツイートを「暴力賛美」として警告を表示した
- 5月29日――デモ取材中のCNN記者とクルーが生中継中に逮捕される
- 5月31日――6日目の抗議が各地で続く
- 6月1日――トランプ氏、事態鎮圧に軍の投入も辞さないと演説。トランプ氏の写真撮影の前に、連邦公園警察などが抗議者を催涙ガスなどで排除
- 6月2日――8日目の抗議続く。首都ワシントンの各地に州兵配備
- 6月3日――関与した元警官4人を州司法当局が殺人罪などで起訴
- 6月4日――ミネアポリスでフロイドさんの追悼式
- 6月5日――ワシントン市長、ホワイトハウス近くの交差点を「Black Lives Matterプラザ」に命名
- 6月8日――フロイドさんの地元ヒューストンで追悼式。民主党は警察改革法案を議会に提出。殺人罪で訴追された元警官が初出廷。保釈保証金は1億円超に設定
- 6月9日――フロイドさんの葬儀がヒューストンの教会で開かれた