北朝鮮が南北共同連絡事務所を爆破=韓国統一省
韓国軍が公開した北朝鮮・開城にある南北共同連絡事務所の爆破を捉えた映像
韓国統一省は16日夕、北朝鮮が同日午後2時49分ごろ、南北軍事境界線沿いの北朝鮮・開城にある南北共同連絡事務所を爆破したと発表した。
北朝鮮の朝鮮人民軍はこの日、軍事境界線がある非武装地帯(DMZ)に進入する準備ができていると警告しており、それからわずか数時間後に爆破した。
北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は、連絡事務所の爆破は「人間のクズどもと、これを黙認した連中に罪の代償を払わせるべきだと、そうやって怒る民心に応えた」ものだと、独特の言い回しで強調した。
北朝鮮国営の朝鮮中央テレビも午後5時ころ、連絡事務所が「完全に破壊された」と伝えた。
対する韓国政府は声明で、北朝鮮が「状況を悪化させ続ける」のなら「強力に対応」すると警告した。
また、連絡事務所の爆破について、「朝鮮半島における南北関係の発展と和平合意を望んでいた、すべての人の希望が放棄された」とした。
「韓国政府は、このような状況の責任はすべて北朝鮮側にあるということを明確にしておく」
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開城工業団地から黒煙が上がった。韓国・坡州側から撮影
各国の反応は
ロシアは南北間の緊張再燃に懸念を表明。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は16日、「我々は、すべての側からの自制を求める」と述べた。
ロイター通信は、トランプ政権は今も「同盟国・韓国との緊密な連携」を維持しているとの匿名の政府高官の話を伝えた。
ドナルド・トランプ米大統領はこれまでのところ、今回の爆破についてコメントしていない。
BBCのローラ・ビッカー・ソウル特派員は、連絡事務所爆破の瞬間を捉えた韓国軍の動画をツイートした。
「これは、南北軍事境界線沿いの町・開城(北朝鮮側)の南北共同連絡事務所の爆破を捉えた韓国軍の映像。完全に破壊されたようだ……」
ここ数週間、北朝鮮と韓国の緊張関係は、脱北者団体が北朝鮮に向けて体制批判のビラを飛ばしていることをめぐり高まっていた。
脱北者団体は風船やドローンを使って定期的に北朝鮮批判のビラを飛ばしているほか、他国の情報が入ったUSBなどをくくりつけた風船を北朝鮮側へ飛ばしている。
国民の注意そらし、プロパガンダに利用も
北朝鮮は南北間の緊張悪化はこうしたビラ散布を韓国政府が防げなかったことが原因だと非難している。
しかし、ビッカー・ソウル特派員は、北朝鮮がビラ散布を単に言い訳に使っている可能性があると指摘する。体制批判のビラは、北朝鮮の人々に結集するための「大義」を与えるからだと。
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は経済的繁栄を国民に提供するという公約を果たせず、国際社会からの厳しい経済制裁は続いている。新型コロナウイルスの感染拡大が農村部に影響を与えているといったうわさも根強い。
こうした中で、北朝鮮の住民に共通の敵を与えることで、国民の注意をそらせるかもしれないと、ビッカー特派員はみている。
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南北共同連絡事務所は2018年9月に開設された
金正恩氏の妹で党幹部の金与正(キム・ヨジョン)氏は13日の談話で、共同連絡事務所の破壊により「悲惨な光景」を見ることになると警告していた。
韓国・ソウルの梨花女子大学校のレイフ=エリック・イーズリー教授は、「北朝鮮が開城の連絡事務所を暴力的に破壊したことは、南北間の和解と協力にとって象徴的な攻撃となる」と述べた。
「このような行動が金正恩政権が国際社会から望むものを得るのに役立つとは考えにくいが、爆破の様子が北朝鮮国内でのプロパガンダに利用されるのは明らかだ」
(朝鮮半島の地図。南北軍事境界線沿いの北朝鮮・開城「Kaesong」にある共同連絡事務所が爆破された)
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北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)氏は軍事行動の可能性を示唆していた
非核化協議で行き詰まり
アナリストたちは、北朝鮮はアメリカとの非核化協議が行き詰まっていることから、危機的状況を作りだして影響力を高めようとしているのかもしれないと指摘している。
南北は2018年の首脳会談後、緊張緩和を目的に連絡事務所を設置した。
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朝鮮半島の南北軍事境界線は双方の軍によって厳重に警戒されている
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今年1月からは無人になっていたが、南北は電話で連絡を維持してきた。
しかし北朝鮮は9日正午、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とのホットラインを含む南北間のすべての通信線を遮断した。
朝鮮戦争は1953年の休戦協定をもって戦闘が終了したが、平和条約が交わされていないため、韓国と北朝鮮は法的にはまだ戦争状態にある。