「香港国家安全維持法」が施行 最高刑は無期懲役

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香港では昨年、民主化を求める抗議行動が何カ月にもわたって続いた(2019年7月17日撮影)
香港の中国返還から23年となる7月1日を前に、香港での反政府的な動きを取り締まる中国の「香港国家安全維持法」が6月30日夜11時ごろ施行された。違反者は最高で無期懲役が科される。
「香港国家安全維持法」は中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会で6月30日に全会一致で可決され、香港政府が同日に施行した。しかしその全容は、それから数時間後に明らかになった。
中国は香港での社会不安の増大や民主化を求める動きが拡大していることを受け、同法を導入した。
この新法をめぐっては、効果的に抗議行動を抑制し、香港の自由を弱体化させるものだとの批判が上がっている。
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香港は1997年にイギリスから中国に返還されたが、その際に香港の憲法ともいえる「香港特別行政区基本法」と「一国二制度」という独自のシステムが取り入れられた。
これにより香港では、中国のその他の地域では認められていない集会の自由や表現の自由、独立した司法、一部の民主的権利などが保護された。
「自由や法の支配がなくなった」
香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、この法は国家安全保障の「隙間」を埋めるものだと擁護した。
香港国家安全維持法の詳細は厳重に秘されてきた。中国中央政府の後ろ盾を受ける林鄭氏は、コメントする前に同法の草案を見ていなかったことを認めた。
しかし民主派議員の許智峯(テッド・ホイ)氏はBBCに対し、「我々の権利が奪われ、我々の自由はなくなり、我々の法の支配や、司法の独立性もなくなった」と述べた。
イギリス、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)は懸念と怒りを表明している。複数の民主化推進団体は即時の取り締まりの恐れがある中、解散を始めている。
中国政府に再考を求めていたアメリカ政府はすでに、香港に認めてきた貿易や渡航における優遇措置を停止し、中国大陸と同列に扱う準備を進めている。
香港国家安全維持法について分かっていること
新法は香港の永住者と非永住者の両方に適用される。以下の内容が含まれている。
- 国家からの離脱、転覆行為、テロリズム、香港に介入する外国勢力との結託といった犯罪を犯した場合、最低3年、最高で無期懲役が科される
- 中国中央政府と香港の地方政府への憎悪を扇動する行為は第29条違反となる
- 公共交通機関の施設を損傷する行為はテロリズムとみなされる可能性がある。長期にわたるデモでは、抗議者たちは市内のインフラを標的にすることが多かった
- 有罪となった者は公職に立候補できない
- 中国中央政府は香港に新たな保安施設を設立し、独自の法執行官を配置する。施設も法執行官も香港の地元当局の管轄外となる
- 香港特別行政区行政長官は国家安全保障事件における裁判官を任命できる。香港の法務長官が陪審員の有無を決定できる
- 地方自治体が設置した国家安全保障委員会の決定に対し、法的な異議申し立てはできない
- 中国が「非常に深刻」とみなした事件の起訴を引き継ぎ、一部の裁判は非公開で行う
- 外国の非政府組織や通信社の管理を強化する
- 同法第38条に基づき、非居住者が海外から同法に違反したとみなされる可能性もあるとみられる
6月30日の施行以前の行為については適用されない。
新法への反応は
約6週間前に初めて導入する方針が示された新法に中国の習近平国家主席が署名した瞬間から、様々な反応がみられた。
香港の民主派活動家たちは同法で認められている処罰を恐れて、即座に活動をやめ始めた。
香港の英字新聞サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、民主派企業は抗議行動支持を示した看板などを一掃し始めたという。
民主派政党「香港衆志(デモシスト)」リーダーで著名活動家の黄之鋒(ウォン・ジーフン、英語名ジョシュア・ウォン)氏は、香港は「秘密警察国家になってしまう」だろうと警告した。
「香港は今後も高度な自治を持ち続けるという、中国政府の世界に対する約束がうそだったことが証明された」と、許智峯議員はBBC番組ニューズアワーに述べた。
約束を破ったと英外相
香港の金融街には大勢の警官が詰め掛けていると報じられた。取り締まりのリスクがあるにも関わらず、禁止されていた香港返還記念日の集会を1日に行うと決意した者もいた。
イギリスのドミニク・ラーブ外相は、中国が香港の引き渡しにおける約束を破ったと述べた。また、英政府はビザ規則に変更を加え、数百万人の香港人に対し、英国市民権を取得する機会を提供する計画を「全面的に」実行する意向だと付け加えた。
イギリスのジュリアン・ブレイスウェイト国連大使は、国連人権理事会に対し、この法は「人権にとって明確な意味合いを持つ」ものだと述べた。
ブレイスウェイト氏は加盟27カ国代表して、中国に再考するよう求めた。