バンクシー新作は「脱獄囚」 英レディングの旧刑務所の壁に出現

英イングランド南部レディングの旧刑務所の外壁に描かれた脱獄を試みる囚人
英イングランド南部レディングの旧刑務所の外壁に1日、脱獄を試みる囚人の壁画が出現した。覆面アーティストのバンクシーは4日、ウェブサイトでこの壁画を描く様子を公開した。
「脱出を創出」と題された動画には、米画家ボブ・ロス氏のアーカイブ解説音声と共に、バンクシーが暗闇の中で壁画を描く様子が映っている。
バンクシーの壁画が見つかった旧刑務所は、1895年から1897年まで詩人オスカー・ワイルド氏が当時犯罪とされた同性愛行為の罪で投獄されたことで知られる。ワイルド氏はアルフレッド・ダグラス卿との関係をめぐり有罪となった。
壁画にはワイルド氏に似た囚人が、ベッドシーツで作ったロープで脱獄する様子が描かれている。ロープにはタイプライターがくくりつけられている。
この旧刑務所をめぐっては、宅地開発のため売却するのではなく、芸術の中心地として活用すべきだとする声が上がっていた。
英法務省は「バンクシーがこの落書きの責任者であることを認めたことを認識」しているとした。
「我々は次の対応を検討しており、いずれ最新情報をお伝えする」
旧刑務所の保存を支持か
レディング市議会はバンクシーがこの壁画に関与していることについて、バンクシーが旧刑務所の保存を求めるキャンペーンを支持していることを示していると述べた。
「バンクシーが『脱出を創出』と題したアート作品で、今は使われていないレディングの刑務所を芸術や遺産、文化の光に転換させるという市議会の願いを支持しているようで、我々は興奮している」
「市議会は旧刑務所を所有する法務省に対し、この壁画を保護するための適切な対応を求めている」
レディング・イースト選出のマット・ロッダ下院議員(労働党)は、このアート作品が本物のバンクシー作品だと確認され、町で「興奮が高まっている」と述べた。
旧刑務所の保存を求めるキャンペーン団体は、「最終的にバンクシーの作品だと知り、我々は興奮している!」とツイートした。
一部の人は、バンクシーの作品が旧刑務所の開発計画を支持するものだと考えている
旧刑務所を芸術施設に
レディングにあるラブル・シアターの芸術監督トビー・ディヴィス氏は、「文化に詳しい人がリスクを冒して法務省管轄の建物に絵を描くなんて、(旧刑務所の保存を求める)キャンペーン全体に真の称賛を与えるものだ」とし、「素晴らしい」壁画だと述べた。
「これは驚くべきことだ。人々にとって旧刑務所がどれほどの意味を持つのかを示している」
「文化に携わる人たちだけでなく、毎日旧刑務所の前を通る人たちと話をすると、みんなとても感情的になる」
そして、「レディングにはこれまで、人々を結びつける国際的な文化センターの設置に挑戦する機会が1度もなかった」、「英国文化の中心地であるべきなのに、そうなれていない。1度もチャンスが与えられなかったので」と付け加えた。
「もしチャンスがあるのなら、今回がその時だ。チャンスは2度やって来ない」
画像提供, Getty Images/Morley von Sternberg
レディング刑務所に収監された詩人オスカー・ワイルド氏(1881年撮影)。右はワイルド氏が収監されていた部屋
ディヴィス氏は、新型コロナウイルス対策のロックダウンの最中に壁画を作成するのは、バンクシーにとって「重大なリスク」を伴うものだっただろうとした。
さらに、「それが多くを物語っている。バンクシーは世界中のより広範な問題を取り上げることができたかもしれないのに、多くの問題がある中で、旧刑務所の問題を強調するためにレディングにやって来たんだ」と述べた。
旧刑務所は2013年から使用されておらず、2019年に英政府が売りに出した。しかし、指定建造物2級の旧刑務所を開発業者に売却する取引は昨年失敗に終わった。レディング市議会は、この建物を芸術施設に転換する方向で入札が行われることを望んでいる。
ハリウッド俳優のサー・ケネス・ブラナーやナタリー・ドーマー氏、デイム・ジュディ・デンチら複数の著名人がこのキャンペーンを支持している。
自転車のタイヤでフラフープをする少女の壁画(2020年10月、ノッティンガム)
バンクシーの専門家でボーンマス芸術大学の副学長ポール・ゴフ教授は、今回の壁画は、旧刑務所の今後の使用方法や、ニュースメディアやフェイスブックで起きていることについて表現している可能性があると指摘した。
「バンクシーのあまり知られていない特徴の1つとして、過去に多くの作品を慈善活動に寄付してきたことがあげられる」、「ユースクラブや、救いの手が必要だと思う施設の外壁に絵を描いてきた」と教授は述べた。
「バンクシーには慈善的な側面があるが、それについて取り上げられたり称賛されることはあまりない」
「芸術や公の場での対話にとって素晴らしい方法だと思う。普段なら人々が通り過ぎてしまうようなれんがの壁に注目が集まる。公的なものを異なる方法で見ることにつながる」
画像提供, Banksy
イギリス・ロンドン地下鉄のサークル・ライン車内に登場したバンクシーの作品(2020年7月)