フランス、クリムト作品をユダヤ人家族に返還へ ナチス時代に売却強制された過去

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フランスのロゼリン・バシュロ文化相によると、「樹下の薔薇」は同国が唯一所蔵している画家グスタフ・クリムトの作品
フランス政府は15日、フランスが国として唯一所蔵している画家グスタフ・クリムトの作品「樹下の薔薇(ばら)」について、ナチス・ドイツによってユダヤ人一家が強制的に売却させられたものだったとして、この一族に絵画を返還すると発表した。
ロゼリン・バシュロ文化相は、絵画を本来の持ち主に戻すことは、持ち主が絵を奪われたのは犯罪だったと認定する意味を持つと話した。
文化相はさらに、この作品はナチス時代に「破壊された生活」の目撃者でもあると語った。
バシュロ文化相は記者会見で、「樹下の薔薇」を所有していたノラ・スティアスニー氏は、オーストリアの著名なユダヤ人一族の1人だと説明した。スティアスニー氏はこの作品を、実業家で美術収集家でもあったおじのヴィクトル・ツッカーカンドル氏から譲り受けた。
しかし、1938年にオーストリアがナチス・ドイツに併合された数カ月後、経済的な苦境に追い込まれ、不当に安い価格で絵を売るよう強いられたという。
スティアスニー氏は1942年にナチスが占領したポーランドの強制収容所に送られ、同年に亡くなった。
作品その後、1960年代までスティアスニー氏から買い取ったディーラーが保有していた。フランス政府は1980年に、オルセー美術館での展示に向け、来歴を知らずにこの作品を購入した。
「我々は今、この作品が1938年8月のオーストリアに起源を持つものだということを知った」とバシュロ文化相は説明した。
「もちろん厳しい決断だった。フランスが唯一所蔵するグスタフ・クリムトの作品を、ナショナル・コレクションから外に出すことになる」
「しかしこの判断は必要かつ重要なものだ。ノラ・スティアスニー氏がこの作品の売却を強制されてから83年たって、正義が実現したことになる」
「樹下の薔薇」は、スティアスニー氏の姉妹の子孫が受け取ることになる。ただし、フランス政府はこの作品をナショナル・コレクションから除外するための法案を可決する必要がある。
クリムトが花を描いた他作品は2017年、ロンドンのサザビーで4800万ポンド(約72億5300万円)で落札されたことがある。