デンマーク、英アストラゼネカ製ワクチンを完全に使用中止 血栓懸念で

画像提供, EPA
デンマーク政府は14日、英オックスフォード大学/アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンの使用を完全に中止すると発表した。まれに起きる血栓症を懸念したためで、ヨーロッパでは初めての全面使用中止となった。
これにより、デンマークのワクチン接種事業に数週間の遅れが出るとみられている。
欧州医薬品庁(EMA)は先週、このワクチンと血栓が関連している可能性があると発表。しかし、血栓リスクよりもCOVID-19での死亡リスクの方が大きいとしている。
ヨーロッパでは3月、いくつかの国がアストラゼネカ製ワクチンの使用を一時停止した。
現在ではその大半で接種が再開されているが、高齢者などに限られている。
13日には、アメリカとカナダ、欧州連合(EU)が米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製のワクチンについて、こちらも血栓を引き起こす可能性があるとして使用を停止した。
南アフリカでは、国内で発見された変異株に有効だとしてこのワクチンが優先的に使用されていたが、やはり接種を取りやめている。
アストラゼネカ製もJ&J製も、血栓が起こる可能性は極めて低い。また、どちらもアデノウイルスをベクターとして使っている。
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なぜデンマークは使用中止に?
デンマーク当局は、現在保有している240万回分のアストラゼネカ製ワクチンを、追って通知があるまで使用しないと発表した。
国家保健委員会によると、4万人に1人の割合という、予想よりも高い確率で血栓が発生することが研究によって示されたという。
AFP通信は、デンマークではワクチンと関わりのある血栓が2件報告されたと伝えた。そのうちの1人、60代の女性は亡くなったという。
ソレン・ブロストロム委員長は、「難しい決断」だったものの、同国では他のワクチンも使用可能で、流行も抑えられていると説明した。
「これからワクチン接種の対象になるグループは、COVID-19での重症化リスクが低い。アストラゼネカ製ワクチンによる深刻な作用のリスクが分かっている以上、それがごくまれだとしても、重要視するべきだ」
一方で当局は、今後、別の機会にこのワクチンを使う可能性は否定していない。
デンマークではこれまでに100万人近くがワクチンを接種し、うち約15万人にアストラゼネカ製ワクチンが打たれた。このほか、米ファイザー/独ビオンテック製と米モデルナ製が使用されている。
アデノウイルスをつかったワクチンとは?
アデノウイルスは、人間や他の動物から発見される。
新型コロナウイルス向けのワクチンでは、普通の風邪のアデノウイルスを病原性がなくなるよう操作した「ベクター」を使用。
新型ウイルスの遺伝子コードの一部を、このベクターを使って体内に入れる。すると体は侵入の脅威を認識し、新型コロナウイルスの抗体を作り、ウイルスと闘う方法を覚える。
これによって体の免疫系は、本当の新型コロナウイルスが体内に侵入した際に、発症を防げるようになる。


規制当局は現在、アデノウイルスを使ったワクチンによる異常な免疫反応が、まれだが深刻な血栓の原因かどうかを調査している。
アメリカの食品医薬品局(FDA)はロイター通信の取材で、J&J製ワクチンと血栓との関係は、アストラゼネカ製ワクチンと血栓との関係と「非常に似ていることは当然だ」と述べた。
アメリカでは、680万件以上のJ&J製ワクチン接種で、50歳以下の女性6人に血栓が確認された。イギリスでは、1800万人がアストラゼネカ製ワクチンを受けたところ、30人で血栓が見つかり、7人が亡くなっている。
他国の動きは?
欧州のいくつかの国では、血栓の影響を受けにくい高齢者に限って、アデノウイルスを使ったワクチンの投与を続けている。
デンマークの発表後、フランス政府の報道官は、アストラゼネカ製ワクチンについて「重要なツール」だと強調。「このワクチンは安全かつ効果があるもので、提供され続けることが重要だ」と述べた。
また、J&J製ワクチンも55歳以上に投与する計画だと明らかにした。フランスはすでに20万回分のJ&J製ワクチンを確保している。
ベルギーも、受け取った分のJ&J製ワクチンは使用するとしている。一方、ギリシャとイタリアは使用しないと述べている。
こうした中、チェコのヤン・ハマチェク副首相は、デンマークが使わないアストラゼネカ製ワクチン240万回分を買い上げるよう駐デンマーク・チェコ大使に指示したと発表した。
チェコはまた、EMAがロシア製ワクチン「スプートニクV」を承認した場合には、自らモスクワへ赴いて調達の手はずを整えると述べた。このワクチンもアデノウイルスを使用している。
EU、米ファイザー製ワクチンをさらに調達
欧州委員会は14日、米ファイザー製ワクチン5000万回分が、向こう数週間でEU域内に届く予定だと発表した。
ファイザー製ワクチンは、mRNAワクチンと呼ばれる新手法を用いている。新型ウイルスの遺伝子コードの一部を注射することで、COVID-19に対して人間の免疫システムを訓練する。
ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長はさらに、2022年と2023年にファイザー製ワクチンを18億回分、EU域内で製造する条件で交渉していると述べた。
EUではこれまでに2700万人がワクチン接種を完了している。