感染者急増の日本、ワクチン接種を大幅拡大

画像提供, EPA
日本政府は7月末までに高齢者全員の接種を終えたい考え
日本各地で新型コロナウイルスの感染者急増に医療機関が逼迫(ひっぱく)する中、東京と大阪で24日、ワクチン接種を一気に増やすための会場が稼動し始めた。
自衛隊が運営する大規模接種会場は、65歳以上の高齢者を対象に、まずは東京では1日5000人、大阪では2500人の予約を受け付けた。31日からはそれぞれの会場で規模を倍増する方針。日本で承認されたばかりの、モデルナ製ワクチンを使用する。
防衛省運営の東京と大阪の接種会場に加え、愛知県や京都府など複数の自治体が独自で大規模接種会場を設置する動きが広がっている。政府は7月末までに65歳以上の高齢者の接種を完了したい考え。

画像提供, Reuters
大規模接種会場の運用開始で接種率の上昇が期待されている
日本のワクチン接種事業はほとんどの先進国から遅れて、今年2月にようやく始まった。その後もワクチン確保や接種体制整備などの遅れから、接種はなかなか進まず、日本の接種率は現在、他の先進国に比べかなり低い。
医療従事者と高齢者を優先してきた日本のワクチン接種事業で、これまでに2回の接種を終えた人は人口の約2%。少なくとも1回のワクチン接種を受けた高齢者は、今のところ約4.7%にとどまっている。
こうした中で、7月に開幕予定の東京オリンピックを中止もしくは延期するよう求める世論の声が高まっている。
日本の医療制度は効率的なことで知られるが、現在は各地で新型コロナウイルス感染者の急増から、病床や人工呼吸器が不足している。
東京を含めて現在、10都道府県で緊急事態宣言が発令されている。感染者数は累計70万人、死者は1万2000人を超えた。
大阪と東京の状況は
日本はこれまで長いこと、他国で見られたような大規模な感染急増をなんとか回避してきたが、3月末から次々と各地で増加が続いている。
累計感染者が特に多い「ホットスポット」は依然として首都・東京で、1日に確認される新規感染者は600人台(7日間平均)で推移している。
第2の都市・大阪では、4月末の時点で1日に確認される新規感染者が1000人を超え、5月初めには1200人を超えた。現在は300人前後(7日間平均)で推移している。
5月上旬からは北海道、愛知県、岐阜県、沖縄県などでも感染者が急増を続けている。

画像提供, Reuters
各地の病院でぎりぎりの闘いが続く
疲れ果てた医師たちはロイター通信に、「患者の数が爆発的に増えた」と話す。
近畿大学病院(大阪狭山市)の東田有智(とうだゆうぢ)病院長はロイター通信に対して、「医療体制の崩壊」という表現を使った。
東京五輪はどうなる
危機的状況は悪化を続けるが、昨年から今年に延期された東京オリンピックは予定通り、7月23日に始まる見通しとなっている。
国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長は21日、たとえ東京で新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が発令されていても、7月23日に始まる予定の東京オリンピックは実施すると発言。緊急事態宣言の中で五輪が開けるかという質問について、「答えは『絶対にできる』だ」と話した。
しかし、日本国内では最近の各種世論調査で、回答者の8割以上が東京五輪を「中止」もしくは「延期」するのが良いと答える、あるいは6割近くが「中止」と答えるなどの結果が出ている。

画像提供, Getty Images
今月初めには五輪メイン会場の国立競技場の前に、大会中止を求める人たちが集まった
22日には日本で最も著名な実業家の1人、ソフトバンクの孫正義CEOがツイッターで「今、国民の8割以上が延期か中止を希望しているオリンピック。誰が何の権利で強行するのだろうか」と書き、広く拡散された。
医療関係者も繰り返し、五輪開催の危険を警告している。
匿名を希望する名古屋市の看護師は、BBCのルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ東京特派員に対して、自分が働く病院のコロナ病棟がここ数週間で満床になってしまったと話した。
「今ですら、新型コロナウイルス患者のための病床もスタッフも足りていない。今ですら、自宅で亡くなってしまう方が少しずつ増えてきている。入院で治療するというところが、ベッドが足りなくて。それなのに(大会組織委は)五輪用に看護師500人をボランティアで出せといっている。そうなればますます、新型コロナウイルスの患者さんたちは必要な手当てが受けられなくなる」
大阪医科薬科大学の 高須朗教授(救急医療部)はロイター通信に対して、「オリンピックは中止するべきだ。すでにイギリスからの新しい変異株の流入を防げなかったのだし、次はインド型の変異になるかもしれない。そうなれば夏にまた、大変な事態が起きるかもしれない」と話した。
テニスの大坂選手、東京五輪開催に「確信もてない」 BBCインタビュー

「長い不安の後にようやく希望が」―――加藤祐子 デジタル・エディター BBCニュース・ジャパン
国内の様々な地域で医療体制は逼迫し、医療機関は苦しんでいる。感染者の数そのものが増えていることに加え、病床や医療従事者が足りないからだ。
日本では病院の多くが民営のため、新型コロナウイルスの重症患者のために常時、病棟や病床を用意しておくことは経営的に難しい。そして、重症患者対応が可能な大規模病院は、新型コロナウイルス以外で重篤な患者や救急患者にも対応しなくてはならない。
それだけに、日本のワクチン接種事業がこれまで大幅に遅れていたこと、さらに高齢者の接種枠の予約をめぐり混乱が続いたことから、大勢がかなりの不安を抱えてきた。
高齢者の予約については、住む自治体によって対応が大きく異なり、予約のしにくさ(あるいはしやすさ)も大きく異なる。政府運営の大規模接種会場のためのオンライン予約システムに複数の欠陥が当初見つかったことも、さらに不安感につながった。
それでも東京や大阪をはじめ、各地で大規模接種会場が稼動し始めた。大切な人たちの安全が脅かされると本気で心配して恐れていた気持ちがこれで、ずっと先よりはもう少し手前で、晴れていくのではないかと、希望が持てるようになった。