初のマラリアワクチン、WHOがアフリカの子供への使用推奨

ジェイムズ・ギャラガー、保健・科学担当編集委員

A nurse vaccinates a baby against malaria in Ghana in 2019

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赤ちゃんにマラリアワクチンを接種する看護師(2019年、ガーナ)

世界保健機関(WHO)は6日、世界初のマラリアワクチン「RTS,S」について、アフリカの大半の地域における子供への使用を推奨すると発表した。WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、「歴史的瞬間」だと述べた。

マラリアは何千年もの間、人類にとって最大の疫病の1つとなっており、多くの場合、乳幼児が死に至る。

マラリアワクチン「RTS,S」は100年以上もの試行錯誤の末、2015年にその効果が証明され完成。医学における最大の成果の1つとなっている。

ガーナ、ケニア、マラウイでの試験的な予防接種プログラムの成功を受け、WHOは、サハラ砂漠以南のアフリカやマラリアの感染率が中~高程度の地域でRTS,Sの接種を展開すべきだとしている。

WHOのテドロス事務局長は、「長く待ち望まれていた子供のためのマラリアワクチンは、科学や子供の健康、そしてマラリア対策にとって画期的なものだ」と述べた。「毎年、何万人もの子供たちの命を救うことができる」。

死を招く寄生虫

マラリアを引き起こすマラリア原虫は、人間の血液細胞に侵入・破壊しながら繁殖する寄生虫。マラリア原虫を宿した吸血性の蚊に刺されることで感染が広がる。

マラリア原虫を殺す薬や、蚊に刺されないようにするためのベッドネット、蚊の殺虫剤などにより、マラリアは減少している。

それでも、アフリカはマラリアの影響を最も受けており、2019年には26万人以上の子供が死亡した。

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世界では毎年約2億2900万人のマラリア感染が報告されており、その94%はアフリカで確認されている。世界の年間の死者数は約40万9000人に上る。オレンジ色の丸1つで100万人の感染者を示している  出典:世界保健機関

何年も繰り返し感染すれば免疫はつくが、重症化の可能性が減る効果しか得られない。

大規模接種が実現可能で効果的か評価するために、ガーナでRTS,Sワクチンを試験的に使用したクワメ・アンポンサ=アキアノ医師は、「私たちにとって非常に心躍る瞬間だ。大規模なワクチン接種を行うことで、マラリアによる犠牲者を最小限に抑えられると私は信じている」と述べた。

アンポンサ=アキアノ氏は、子供の頃に繰り返しマラリアにかかったことがきっかけで、ガーナで医師になったという。

「毎週のように学校を休んで、苦しかった。マラリアは長きにわたり私たちに犠牲を強いている」と、アンポンサ=アキアノ氏は語った。

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子供たちの命を守る

マラリアの寄生虫は100種類以上ある。RTS,Sワクチンは、アフリカで最も多く見られ最も致命的なマラリア原虫「熱帯熱マラリア原虫」を標的とする。

2015年に報告された治験結果では、同ワクチンを接種した10人中4人の感染を防ぎ、重症患者10人中3人を救い、輸血を必要とする子供の数を3分の1に減らせることが示された。

一方で、このワクチンの効果を得るには4度の接種が必要であることから、現実世界で効果が発揮されるのか疑問視されていた。最初の3回の接種は生後5カ月、6カ月、7カ月の時に、最後の接種は生後18カ月の頃に行う必要がある。

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子供にワクチンを接種する医療従事者(2019年、ケニヤ)

WHOの2つの専門家諮問グループは6日、試験的接種の結果について議論した。

230万回以上の接種から得られた結果は次の通り。

  • ワクチンは安全で、重症化を30%減少させた
  • 就寝中に蚊を防ぐベッドネットがない子供の3分の2以上にワクチンが届いた
  • 他の定期的なワクチン接種や、マラリア予防のための対策に悪影響を及ぼさなかった
  • ワクチンの費用対効果が高かった

「科学的見地から見ても非常に画期的であり、公衆衛生の観点から見ても歴史的偉業だ」と、WHOの全世界マラリア計画責任者のペドロ・アロンソ博士は述べた。

「我々は100年以上前からマラリアワクチンを探してきた。そして今、アフリカの子供たちの命を救い、感染を予防できる段階にまできた」

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RTS,Sワクチンを接種した10人中4人の感染を防ぎ、重症患者10人中3人を救ったという 出典:世界保健機関

英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)が開発したRTS,Sワクチンは、殺虫剤入りのベッドネットなど、他のマラリア対策に取って代わるものではない。マラリアによる死者数をゼロにするという目標に近づくために、こうしたマラリア対策と並行してワクチンを使用することになる。

また、RTS,Sワクチンで防ぐことができない別の種類のマラリアが流行しているアフリカ以外の地域では、このワクチンは使用されない。

米PATHマラリア・ワクチン・イニシアチブのアシュリー・バーケット博士は、同ワクチンの導入は各家庭から「恐怖を取り除く」「歴史的な出来事」だとした。

バーケット博士は、「想像してみてください。あなたの幼い子供が健康で可能性に満ちあふれていたとしても、ある日、友達と遊んでいるときやベッドで寝ているときに、マラリアに感染した蚊に刺されれば、数週間で死んでしまうかもしれないと」と、私に語った。

「マラリアは非常に大きな問題だ。ぞっとするような恐ろしい病気だ」

なぜマラリアの根絶は非常に難しいのか

新型コロナウイルスのワクチンが記録的な速さで開発されたのを目の当たりにし、なぜマラリアワクチンにはこれほど時間がかかるのか、疑問に思う人もいるかもしれない。

マラリアを引き起こすマラリア原虫は、新型コロナウイルスよりもはるかに油断のならない、巧妙なものだ。この2つを比べるのは、人間とキャベツを比べるようなものといえる。

この原虫は人間の免疫システムを回避するように進化している。そのため、繰り返しマラリアに感染しても、限定的な防御力を獲得し始めることしかできない。

マラリアは人間と蚊という2つの種の間で、複雑なライフサイクルを送る。人間の体内でも肝細胞や赤血球に感染してさまざまな形態に変化する。

マラリアワクチンの開発はゼリーを壁にくぎで打ち付けるようなものだ。RTS,Sが狙えるのは、原虫のスポロゾイト(蚊に刺されてから寄生虫が肝臓に到達するまでの段階)のみのため、ワクチンの効果は40%にとどまっている。

それでもこれは驚くべき成功であり、さらに強力なワクチン開発への道を切り開くものだ。