ブタの腎臓、ヒトに試験的に移植 米外科医チーム
ミシェル・ロバーツ、保健編集長、BBCニュースオンライン

画像提供, NYU Langone
移植手術は2時間かけて行われた
アメリカの外科医チームが、ブタの腎臓をヒトに移植することに成功したと発表した。臓器提供の不足を解決しうる、画期的なものだとしている。
移植を受けたのは脳死状態の人。生命維持装置を利用しており、回復の見込みはない。
使用された腎臓は、ヒトが拒絶反応を起こさないように遺伝子操作されたブタから取り出した。
今回の移植はまだ専門家による評価を受けておらず、論文なども出版されていない。その予定はあるという。
専門家らは、この分野における最も進んだ試みだとしている。
正常に機能
同様の試みは、これまでもヒト以外の霊長類に対して実施されてきた。
ブタから移植用の臓器を取り出すのも新しいことではない。すでにブタの心臓弁は数多くヒトに移植されている。
ブタの臓器は大きさの点でヒトに適している。
今回の移植手術は、米ニューヨーク大学ランゴーン医療センターで2時間にわたって行われた。外科医チームは、ブタの腎臓と脳死の人の血管を接続。正常に機能するか、それとも拒絶反応を示すか確認した。
術後2日半、腎臓の動きを細かく観察し、多くの検査を実施した。
ロバート・モンゴメリー医師はBBCの番組ワールド・トゥナイトで、「私たちが確認した限り、腎臓は基本的に、ヒトの腎臓を移植したのと同様に機能した。通常のヒトの腎臓がする全てのことを、同じようにしていると思われた」と述べた。
「正常に機能していた。拒絶反応を引き起こしているようには見えなかった」
「今の仕組みはもたない」
外科医チームは、腎臓と同時に、ブタの胸腺の一部も移植した。そうすることで、免疫の働きを抑え、腎臓に対する拒絶反応を長期的に止める効果が得られるのではないかと考えた。
自身も心臓移植を受けているモンゴメリー医師は、現在多くの人が移植を待っており、早急に臓器を確保する必要があると話す。ただ、今回の移植が議論を呼ぶことも理解しているとする。
「誰かを生かすには誰かが死ななければならないという昔ながらの仕組みは、絶対にもたない」
「懸念はもちろん理解している。ただ私が言いたいのは、移植を待っている患者の約40%が現在、移植を受ける前に死んでいるということだ」
「私たちはブタを食べ物として使っている。医療目的で弁や薬にも使っている。移植も大きな違いはないように思う」
将来は腎臓以外も
モンゴメリー医師は、研究はまだ早期の段階で、さらなる研究が必要だとした。「これをクリニックに移して実施しても大丈夫だという新たな自信を、今回得られたと思っている」
移植を受けた人の家族は、臓器提供を申し出ていたが、今回の手術に同意した。
米食品医薬品局(FDA)は、遺伝子操作をしたブタの臓器を、今回のような研究目的で使うことを承認している。
モンゴメリー医師は、10年以内にブタの心臓、肺、肝臓といった他の臓器も、移植を必要としているヒトに使われる可能性があると考えている。
画像提供, NYU Langone
移植手術に関わった外科医チーム
英国民保健サービス(NHS)で腎臓治療と集中治療を担当しているマリアム・コソラヴィ医師は、「私たちも動物からヒトへの移植を数十年にわたって研究してきた。この(ニューヨーク大学の)グループが歩を進めたのはとても興味深い」と話した。
倫理面に関しては、「単に可能だからといって、実施すべきだとはならない。コミュニティー全体で答えを出す必要がある」と述べた。
NHS血液・移植部門の広報担当は、現時点において優先すべきはヒトの臓器提供を増やすことだとした。「こうした種類の移植が日常の現実となる前に、まだすべきことがある」。
「研究者と臨床医は、移植患者にとってのチャンスが増すよう最善を尽くし続ける。一方ですべての人に、臓器提供について決断してもらい、その可能性が生じた時にどうしてほしいかを家族に伝えてもらう必要がある」