サウジ記者殺害事件、誤認逮捕で男性釈放 フランス当局

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「カショジに正義を」と書かれたポスター。トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館の外では、このポスターを手に抗議する人がいた(2020年10月2日)
フランスの検察当局は8日、サウジアラビア人記者ジャマル・カショジ氏(当時59)の殺害に関与した疑いで前日に逮捕された男性について、誤認逮捕だったと結論づけ、釈放した。
釈放されたのはハリド・アルオタイビ氏(33)。フランスの警察が7日、トルコの逮捕状に基づきパリのシャルル・ド・ゴール空港で逮捕していた。
アルオタイビ氏は、2018年にトルコで起きたカショジ氏殺害事件の容疑者として、アメリカが制裁リストに記載しているサウジアラビア元王室警備隊の男性と同姓同名で、年齢も同じだった。
パリのサウジアラビア大使館は7日夜、逮捕された男性は「本件とは無関係」だと主張し、釈放を求めていた。
また、サウジアラビアの司法当局が「ジャマル・カショジ氏の凶悪な殺害に加担したすべての者に対してすでに判決を下しており」、「その全員が現在、刑に服している」と強調していた。
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サウジアラビア政権に批判的なことで知られていたカショジ氏は、2017年にアメリカに亡命。米紙ワシントン・ポストなどに寄稿していた。
サウジアラビア当局は、カショジ氏を帰国させようとした工作員らによる「勝手な作戦」だったとしている。
しかし、国連の調査官は、カショジ氏は「意図的かつ計画的な処刑の犠牲者」であり、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子を含むサウジアラビア政府の最上層部が関与したという信頼できる証拠があると結論づけた。皇太子は一切の関与を否定している。
名前や出生地が同じ
フランスの警察は7日、ハリド・エド・アルオタイビという名前が記載されたパスポートでサウジアラビアの首都リヤド行きの飛行機に乗ろうとしていたサウジアラビア人を、パリのシャルル・ド・ゴール空港で拘束したと発表していた。
このパスポートを読み取ったところ、トルコ司法当局が発行した国際逮捕状や国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)のレッド・ノーティス(容疑者の引き渡しを要請する通知)に記載されている内容と一致したため警告が発せられたという。
警察によると、この男性は容疑者と同姓同名だっただけでなく、出生地や出生月も同じだった。身体的類似性もあったという。
しかし8日になって、パリの主任検察官は「この人物の身元を確認するため綿密な検証を行った結果、この人物には令状が適用されないことが判明した」と発表した。
事件関係者はまだいる?
パリのサウジアラビア大使館は、事件に関わった者は全員、サウジアラビアで裁かれ、服役していると強調していた。
一方でトルコは、サウジアラビアの裁判の結果は「とんでもないもの」だと一蹴している。イスタンブールの裁判所は現在、サウジアラビアの政府関係者26人について、計画殺人や証拠隠滅の容疑で欠席裁判を行っている。
被告人にはハリド・アルオタイビという名前の男性や、ムハンマド皇太子の元側近2人も含まれる。裁判所に任命された被告人の弁護士は、被告人は容疑を否認しているとしている。
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カショジ氏殺害に関与したサウジアラビア工作員とされる15人(2018年10月2日のトルコ・イスタンブールのアタチュルク国際空港の監視カメラ映像の静止画)
2019年に発表された国連のアニエス・カラマール特別報告者(当時)の報告によると、サウジアラビアの検察当局はカショジ氏殺害事件の捜査の一環としてハリド・アルオタイビという男性の逮捕を命じたが、最終的には起訴しないと決定したという。
カラマール氏は、王室警備隊のこの男性が15人のサウジ工作員チームの中に含まれており、カショジ氏がイスタンブールのサウジ総領事館内で殺害されている間、総領事の邸宅内にいたと結論づけた。
カショジ氏殺害事件とは
カショジ氏は2018年10月、トルコ人のハテイチェ・チェンギスさんとの結婚に必要な書類を入手するため、イスタンブールのサウジアラビア総領事館に出向いた。カショジ氏は総領事館に入る姿が目撃されたのを最後に、行方が分からなくなった。
カラマール氏の報告書によると、カショジ氏はこの日に総領事館内で「残酷に殺害された」。この報告書は、トルコの情報機関が持っていた、サウジアラビア総領事館内で録音された会話記録に基づいている。
一方サウジアラビア検察局は、カショジ氏の殺害指示を出したのは、同国情報機関がイスタンブールに派遣した「交渉部隊」の部隊長だったとの見解を示している。この交渉部隊は、サウジアラビアから脱出したカショジ氏を「説得によって」、それが失敗した場合は「力ずくで」帰国させるのが任務だったという。
検察は、カショジ氏がもみ合いの末に拘束され、注射によって薬物を過剰摂取させられ死亡したと結論付けている。遺体は総領事館内で切断され、敷地外にいる現地の「協力者」に渡されたという。遺体は見つかっていない。