米竜巻、行方不明者の捜索続く　「言葉にならないトラウマ」とケンタッキー州知事

アメリカ南部などを襲った竜巻で、最も被害が大きかったケンタッキー州では行方不明者100人以上の捜索が急がれている。アンディ・ベシア州知事は13日、少なくとも74人の住民が死亡したと明らかにし、竜巻による「言葉にならないほどのトラウマ」について語った。

ケンタッキー州で犠牲となったのは、生後5カ月から86歳までの74人で、少なくとも8つの異なる郡の出身という。74人のうち、18人の身元はまだ判明していない。

同州のベシア知事は、少なくとも109人が依然行方不明で、死者がさらに増える可能性があると述べた。

ケンタッキー州西部では、捜索・救助活動が続けられている。

州兵400人以上を含む救助隊は、がれきの中で生存者を捜索し、水や発電機を住民に配布するなどしている。

ベシア知事は、がれきの中での捜索には死体捜索犬が投入され、いくつかの場所で「複数の遺体が見つかっている」と説明した。

「私はきょう、あまり調子がよくない。皆さんはどうでしょう。調子がいい人はどれだけいるのか」と、知事は13日の記者会見で、時に声を震わせながら話した。「ケンタッキー州西部の人たちは言葉にならないほどのトラウマを経験した」。

「これほどの惨状を、私は今まで見たことがない」

住民の証言

最も被害の大きかった地域のひとつ、ケンタッキー州メイフィールドの住民は、竜巻に襲われた際に「膝をついて頭を覆った」という。

「耳がポンと耳抜きしたみたいになり、がれきが戸口から吹き込んできた」と、リック・フォーリーさん（70）はロイター通信に話した。「30秒後にはおさまっていた」という。

同じくメイフィールド在住のディヴィッド・ノーズワージーさん（69）は、家族がシェルターに隠れている間に、自宅の屋根がはがれ、玄関ポーチが破壊されたという。「ここでこんなことが起きたのは初めてだ」と、AFP通信に語った。

従業員110人が閉じ込められたとみられるろうそく工場では、8人の死亡が確認された。今も従業員8人の行方が分かっていないと報じられている。

フェイスブックで救助を必死に求める動画を投稿をしていた、そうそく工場の従業員キアナ・パーソンズ＝ペレズさんはBBCの取材に応じ、周辺の他の事業所は竜巻に備えて休業していたとし、ろうそく工場にも従業員はいるべきではなかったと述べた。

（竜巻発生前後のメイフィールドのろうそく工場の様子。2017年1月28日と2021年12月11日を比較）

ベシア州知事は、竜巻は長さ365キロにわたって被害をもたらしたと説明。大勢が自宅を破壊され、2万6000戸で停電が続いているとした。

知事は被災した家庭のために州立公園を開放したほか、愛する人を失った各家庭に5000ドル（約56万円）の埋葬費用を提供すると約束した。犠牲者の葬儀費用をまかなう救済基金には、すでに4万人以上から600万ドル（約6億8000万円）以上が集まっているという。

また、犠牲者に敬意を表すため、1週間にわたって全ての州旗を下げるよう命じた。

ほかの州の被害状況

こうした中、ほかの4つの州では少なくとも13人の死亡が報告された。

中西部イリノイ州エドワーズヴィルでは、ネット通販大手アマゾンの倉庫が倒壊した。6人が死亡し、複数が行方不明となっている。

（竜巻発生前後のイリノイ州エドワーズヴィルにあるアマゾンの倉庫の様子。2021年9月24日と2021年12月11日を比較）

テネシー州では4人が、アーカンソー州では一部が崩壊した老人ホームにいた人を含む2人の死亡が確認された。ミズーリ州では1人が犠牲になった。

ミシシッピ州でも竜巻の発生が報告された。

アメリカ史上「最大級」の竜巻

ジョー・バイデン米大統領は12日、この悲劇的な出来事について、アメリカ「史上最大級」の竜巻だと述べた。

バイデン氏はケンタッキー州での連邦災害発生を宣言した。これによって連邦政府は、災害対応を財政支援する。

大統領は15日にもケンタッキー州を訪れ、被害状況の調査や連邦政府の対応を監督する方針という。

ケンタッキー州政府は連邦政府の対応の速さを評価。米共和党幹部のマコネル上院少数党院内総務は、バイデン氏が「お役所仕事」を省略したと称賛した。

バイデン氏は環境保護局（EPA）に対し、気候変動が竜巻にどのような影響を与えたのか調査を要請する方針だとしている。

これまでアメリカで最も長い距離を移動した竜巻は、1925年3月にミズーリ州を襲ったものだった。約352キロを移動し、695人の死者を出した。

これほどの深刻な竜巻被害の発生は春や夏に多く、冬に起きるのはきわめて異例。

（英語記事　Kentucky tornadoes spawn 'unspeakable trauma'）