英与党・保守党、200年近く維持した選挙区の議席失う 野党・自由民主党が補選で圧勝

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開票結果が発表される投票所に到着した自由民主党のヘレン・モーガン氏(中央)は拍手で迎えられた(17日未明、シュルーズベリー)
イギリスのボリス・ジョンソン首相に近い与党・保守党の下院議員が議会規則に違反するロビー活動で辞職した問題で、空席になった議席の補欠選挙が16日に行われた。保守党は200年近く維持してきた牙城ノース・シュロップシャー選挙区の議席を争い、野党・自由民主党に敗れた。
この補欠選挙は、関連企業に便宜供与したロビー活動が議会規則違反にあたると指摘されたオーウェン・パターソン下院議員の辞職に伴うもの。
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投票率46.28%の補選で、1万7957票を獲得した自由民主党のヘレン・モーガン氏(46)が、得票率47.14%で保守党から議席を勝ち取った。保守党候補(得票数1万2032票、得票率31.59%)との票差は5925票だった。公認会計士のモーガン氏は、2019年12月の総選挙にも同じ選挙区から出馬したものの、その時の得票率は10%にとどまった。
モーガン氏はノース・シュロップシャーの有権者が「自分たちの代表として私に信頼を置いてくれただけでなく」、「私たちのコミュニティがこのひどいパンデミックを乗り切れるよう、過去2年間にわたり努力と犠牲を払ってくれた」と感謝した。
さらにモーガン氏は、「ノース・シュロップシャーの人々は今夜、イギリス国民の代わりに声を上げた。大きな声ではっきりと、『ボリス・ジョンソン、パーティーはおしまいだ』と告げた」と述べた。
「うそをつき、大騒ぎしながら突き進むジョンソン政権は、その責任を問われることになる。精査され、挑戦される。(ジョンソン政権を)倒すことはできるし、倒されるはずだ」
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開票結果の発表後、勝利演説をするモーガン氏
自由民主党の党首、サー・エド・デイヴィーは補選勝利について、「この国の政治にとって分岐点となる瞬間だった」と述べ、「何百万人もの人は、パンデミックの最中にずっと指導力を発揮しないボリス・ジョンソンに辟易(へきえき)としている。ノース・シュロップシャーの人たちは昨晩、その全員を代弁した」と強調した。
自由民主党の元党首、ティム・ファロン下院議員も、ノース・シュロップシャーの有権者はイギリス全体を代弁したと歓迎し、「結局のところ、無能でうそをつく人間が、周りの人を見下したりすれば、その代償を払うことになるというわけだ」と述べた。国内の数百万人が「今朝、暗闇に少し光が差したと感じながら、目を覚ました」とも話した。
一方、保守党のオリヴァー・ダウデン委員長は、「ノース・シュロップシャーの有権者は現状にうんざりしていて、我々をこらしめたかった。それは分かる。そのメッセージははっきりと聞こえた。しかし、これが潮目の変化になるとは思わない」と述べた。
しかし、保守党の下院議員、サー・ロジャー・ゲイルは、今回の結果はジョンソン首相の最後通告に等しいとBBCラジオに述べた。「あと1回ストライクを取られれば、アウトだ」とゲイル議員は述べ、今回の補選は「首相の働きぶりへの信任投票だったと見なくてはならない」と批判した。
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ノース・シュロップシャー選挙区の投票率は46.3%だった。写真はオスウェストリーの投票所前
難問山積
ジョンソン首相はこのところ様々な難題に直面しており、補欠選挙の大敗で1週間を締めくくることとなった。
英下院では14日、イングランドでの新たな新型コロナウイルス対策案の採決が行われたが、保守党議員100人近くが反対票を投じ、ジョンソン政権下では最大の造反となった。
これに先立ち、昨年の厳しい感染対策中に首相官邸でクリスマスパーティーが開かれたことや、ジョンソン氏がスタッフ相手にオンラインで行われたクリスマス・クイズに参加していたことが明らかになった。
4月には、首相官邸ダウニング街の改修費用の支払いをめぐる疑惑が浮上。保守党に罰金が科せられることとなった。
次々と発覚する昨年の英与党関係者のクリスマスパーティー、相次ぐ謝罪
自由民主党に2度目の敗北
保守党の選挙区が補選で自由民主党に奪われたのは、2019年の12月の総選挙以来、2度目となる。
今年7月に南東部チェシャム・アンド・アマーシャム選挙区で行われた補選では、自由民主党の候補が得票率で25ポイントの差をつけて、保守党候補を下した。
今月初めには、ロンドン郊外オールド・ベクスリー・アンド・シカップ選挙区の補選で議席を維持したものの、2位の労働党との票差は大きく減り、4478票の僅差となった。
今回の補選はなぜ
今回のノース・シュロップシャー選挙区の補選は、閣僚経験もあるパターソン議員の議員辞職に伴うもの。
ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)などについてジョンソン首相の盟友だったパターソン下院議員について、関連企業に便宜供与したロビー活動が議会規則違反にあたると議会基準委員会が報告。30日間の議員資格停止処分を勧告した。
すると政府と与党は11月3日、議員行動を審査する同委員会の手順が不公平だとして、手順そのものの見直しを議決した。しかし、政権に近い議員を身びいきしてルールを変えるのかと与党内からも強い反発が起こり、ジョンソン政権は急きょ方針を転換。パターソン氏は翌日、議員辞職に至った。
パターソン氏は1997年からノース・シュロップシャー選挙区選出の下院議員だった。この選挙区は1832年の成立以来、常に保守党が議席を維持していた。
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16日の補選には14人が立候補した。
保守党候補だったニール・シャストリ=ハースト医師は1万2032票(得票率31.59%)を獲得したものの、議席を守ることはできなかった。労働党のベン・ウッド候補は3686票(同9.68%)だった。
開票結果の発表前、自由民主党のクリスティーン・ジャーディン財務報道官は、「余裕」で勝利するはずだと自信を示していた。