雄マウスの細胞から卵子を作るのに成功 初期段階の成果を阪大教授が発表

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雄のマウスの細胞から卵子を作り出したと、日本の研究者が8日、遺伝学の主要会議で発表した。
この研究はまだ初期段階だが、今後、男性カップルが自分たちの子どもを持てるようになるかもしれない。
発表したのは、大阪大学の林克彦教授。不妊治療法の開発分野における世界的な専門家だ。
林氏はロンドンのクリック研究所で開かれたヒト遺伝子編集のサミット会議で、作り出した卵子は質が低く、この技術を人間に安全に活用できる段階ではないと述べた。
一方で林氏は、BBCの取材に対し、現在の問題は10年以内に克服し得ると説明。安全性が証明された暁には、男性、女性、同性カップルの不妊治療に使われるよう望んでいると話した。
林氏は「人がそれを望み、社会がそうした技術を受け入れるのなら、私は(不妊治療への使用に)賛成だ」と述べた。
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大阪大学の林克彦教授
今回の研究に関わっていない米ハーヴァード大学医学部のジョージ・デイリー教授は、社会が決断を迫られるのはまだ当分先のことだと述べた。
デイリー氏は「林の研究はまだ(科学誌などに)掲載されていないが魅力的だ。(人間で行うのは)マウスより難しい」、「林の刺激的な仕事をマウスで再現するには、人間の配偶子形成(生殖細胞の形成)の独特な生物学に対する理解がまだ不十分だ」と話した。
林氏は英科学誌「ネイチャー」に、今回の研究を提出している。
幹細胞の性染色体を変える
林氏が発表した技術では、まず雄のマウスから皮膚細胞を採取し、それを幹細胞(別の種類の細胞になることのできる細胞)に変える。
この細胞は雄なのでXY染色体をもつ。その細胞からY染色体を取り除き、X染色体を複製して、2本のX染色体をくっつける。これにより、幹細胞は雌のXX性染色体をもつようになり、卵子になるようプログラムすることが可能になるという。
この技術は、女性が卵子を作れない不妊症カップルの役に立つ可能性がある。しかし、不妊治療法として活用できるようになるまでには長い時間が必要だと、林氏は強調した。
「マウスにおいてでさえ、卵子の質に多くの問題がある。不妊治療法として考える前に、そうした問題を克服しなければならず、それには長い時間がかかるかもしれない」
林氏はまた、男性が自らの精子と人工的に作られた卵子を使って赤ちゃんを作る目的で、この技術を使うことには賛成しないと述べた。
「技術的には可能だ。だが現段階で、それが安全なのか、社会にとって受け入れられることなのかはわからない」と林氏は話した。
性的少数者らに「独自のニーズ」
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で幹細胞を研究するアマンダー・クラーク教授は、今回の技術を生殖に活用することについて、LBGTQ+(性的少数者)コミュニティーが発言権をもつべきだと主張。次のように続けた。
「LGBTQ+コミュニティーには、家族をもつことについて独自のニーズがある。実験室モデルを用いた現在の研究によれば、同性間の生殖は将来、可能になるかもしれない」
「しかし、人間の生殖細胞系列はまだわからないことも多い。基本的な知識のギャップが、この研究を人間に応用するうえでの障壁になっている」
文化の違い
米ウィスコンシン大学マディソン校のアルタ・シャロ教授(法学)は、この技術の使用をめぐっては、各地の文化によって「大きな見解の相違」があるだろうと述べた。
「自分の子どもは、自分と遺伝的なつながりがなくてはならない、絶対的に必要だと考える社会もある。その場合、異性との関係にない人が『これを使うべきなのか』という問題が生じる」
「一方、親子の遺伝的なつながりはそれほど重要ではなく、養子縁組が完全に受け入れられている社会もある。そうした社会においては、家族は生物学的なつながりより、人間関係のほうが重視される」
中国科学院の王皓毅教授は、この技術の臨床使用が検討されるのは、かなり先のことだとみている。
「科学者は絶対にできないとは絶対言わない。原理的にはマウスでできているので、もちろん人間でも可能なのかもしれない。だが多くの困難が予想できるし、それが何年続くかは予測できない」