インドの強姦対策は折り返し地点に達したのか
- ジャスティン・ロウラット
- 南アジア特派員

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インドでは強姦事件が国民的問題になっている。写真は相次ぐ事件に抗議するニューデリーの女性たち(18日)
新聞の見出しから判断すると、インドは強姦危機の渦中にあるようだ。
このところインドでは子供が被害者という恐ろしい強姦事件が2件続いたのに加え、昨年デリーで乗客を強姦した罪でウーバー・タクシーの運転手が有罪となった。
インドは、ほかの多くの国と同じように、女性や子供に対する性的虐待の問題を抱えている。それは間違いがない。しかしインドは実は、この問題において重要な折り返し地点を通過したのだ。
統計は逆のことを示している。それは認める。公式データによると、強姦の発生件数はむしろ増えている。

インドで警察通報のあった強姦事件の件数(インド警察資料より)

インドで警察通報のあった強姦事件の件数(インド警察資料より)
そして残念ながら、強姦の実際の発生件数は公式統計が示すよりもはるかに多いのだ。
しかし強姦件数の増加は実は、インドがついに真剣に対策を取り始めたことを示している。
警察の変化がその一部だ。警察は前よりも被害届をきちんと受理して、性的虐待事件として記録を残すようになった。
しかし何より大きい変化は、被害者の側にある。被害に遭った人が進んで通報しようと思うようになったのだ。
強姦被害者に対するインド社会の偏見は、いまだに強烈だ。そのため多くの被害者は、自分や家族がひどい恥辱を受けることになるからと、なかなか被害届を出そうとしない。
名乗り出た被害者が、強姦した側よりされた側の方が悪いと非難されることも珍しくない。
しかし問題に取り組む人たちは、事態は変わりつつあるという。そして変化が始まった日を、正確に特定できるのだと。
インドで性的虐待に対する態度が変わり始めたのは、2012年12月16日だという。
デリーで起きた悪名高いバス強姦事件の日だ。町の南で23歳の医学生がバスで集団強姦された。学生はその時に受けたけががもとで、2週間後に死亡した。
インドでは、強姦被害者の実名報道が禁じられている。そのためこの学生は「恐れを知らない」という意味の「ニルバヤ」として呼ばれるようになった。

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女性や子供を守る政府の安全対策が不十分だという抗議がインド各地で繰り返されている。写真は、4歳児の事件に抗議してデリーで13日に開かれた集会。
「ニルバヤ」の強姦を機に、インドではかつてないほどの怒りと悲しみが国民の間から噴出した。女性や子供を守る政府の安全対策が不十分だという大規模な抗議が各地で相次ぎ、暴動と化したものもあった。
人気タレントだったジミー・サビルが長年にわたり多くの子供を性的に虐待していたと明るみに出たことを機に、イギリスで児童性的虐待について国民的議論が巻き起こったと同じように、「ニルバヤ」強姦事件を機にインドでは女性への犯罪について国民的議論が起こり、多くの人が自分の問題としてとらえるようになった。
最近の事件が大きく報道されていることからも、国内の議論が続いているのが分かる。
だからといって解決にはまだほど遠い。デリーの強姦事件で確かに性的暴力取り締まりの新法が施行されたが、その一方で政府は今年3月、この事件に関するBBCドキュメンタリーの放送を禁止した。インドの変化はまだ不十分なのだ。
それでも物事が良くなるにはまず、問題があると認めなくてはならない。インドはその大事な一歩を前に進んだのだ。

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