男女の賃金格差解消は118年後=世界経済フォーラム

  • ナオミ・グリムリー
  • 世界問題担当編集委員
通勤でロンドン橋を渡る人々(写真は2015年4月撮影)

画像提供, Reuters

女性の平均賃金が男性と同じ水準になるには、あと118年かかるとの試算が明らかになった。ダボス会議で知られる世界経済フォーラムが19日発表した「男女格差報告書」が推計を示した。

報告書によると、現在の女性の平均賃金は男性であれば2006年のレベル。働く女性が増えるなかで格差の縮小が近年滞っているという。

10年前と比べると、働く女性は全世界で2.5億人近く増加している。

調査対象となった国の一部では女性の大学進学率は男性を越えているものの、必ずしも管理職や熟練を要する職での女性の数を増やす結果になっていない。この差異は重要だ。

報告書は、健康と教育、職場への進出、政治参加の4分野で各国の男女平等がどの程度進んでいるのかをまとめている。

男女格差の解消への取り組みでは、北欧諸国は依然としてトップを走る。145の対象国の順位は、1位アイスランド、2位ノルウェー、3位フィンランド、4位スウェーデンと、上位4カ国が北欧地域で占められている。

報告書の主執筆者サーディア・ザヒディ氏は北欧諸国について、「家族政策は世界で一番良い」と述べ、「保育制度や、育児・家族休暇に関する法制度が最も進んでいる」と指摘した。

ただ、報告書のランキングではアフリカのルワンダが6位に付けており、米英よりも順位が高い。これは国内で活動する女性政治家の数が多いためだ。

90年代にルワンダで起きた大虐殺の後、女性の政治参加を促す努力が続けられた。現在では国会議員の64%を女性が占めるまでになった。ルワンダでは勤労者数で男性を女性が上回っている。

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報告書が調査した145カ国のうち、働く女性の数が男性を上回るのは4カ国のみ

組織のトップを目指す

過去10年で最も大きな変化があったのは教育分野だ。実際に報告書では、高等教育で格差が男女逆転しつつあり、98カ国で大学で学ぶ女性の数が男性を上回った。

ザヒディ氏によると、カタールでは女性の教育を推進する取り組みが進んでおり、大学で学ぶ女性は男性の6倍。バルバドスとジャマイカでは、大学で学ぶ女性は男性の2.5倍に上っている。

高等教育への女性の進学率が向上するに伴い、教育に見合った賃金を求める声も高まっている。68カ国で、医師、教師、弁護士など熟練を要する職にある女性が男性を上回っている。

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指導的立場にいる女性の数が男性を上回るのはフィリピン、フィジー、コロンビアのみ

しかし、それにもかかわらず、企業や政治、公共機関のトップでは、男性との格差が依然としてあるようだ。世界経済フォーラムによると、指導的な立場にある女性が男性を上回っているのはフィリピン、フィジー、コロンビアの3カ国のみ。

サウジアラビアは報告書で134位に付けたが、ヨルダンやレバノンよりも順位が高いことに驚く向きもあるかもしれない。だが、ザヒディ氏は同国では表向きには分からない変化が起きていると考えている。

ザヒディ氏は、サウジアラビアについて「過去10年で最も進歩した国のひとつ」と指摘する。「働く女性を増やすという、かなり明確な労働省の戦略がある」という。

カルチャーを変える

世界的にみると、格差解消が着実に進んでいるとは言い難い。報告書の指標では、ヨルダン、マリ、クロアチア、スロバキア、スリランカで格差が拡大している。

報告書の執筆者たちは、格差解消の足踏み状態が過去数年「顕著」であることに失望していると話す。

報告書が集めたデータによると、女性の平均賃金は男性の10年前の水準に留まっている。女性の賃金の世界平均は7300ポンド(約138万円)だが、男性の平均は1万3500ポンドだ。

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過去10年で向上が著しかったのがボリビアとニカラグワ、後退が目立ったのはクロアチアとスリランカ

ザヒディ氏は、この結果はデータ収集が向上したせいかもしれないと語る。「問題意識はかなり高まっていて、改善措置が一部とられているが、まだ具体化していないのかもしれない」という。

ならば、男女平等の取り組みは今後何に注目すべきだろうか。ザヒディ氏によれば、次は家庭だという。政府や大企業だけが問題ではないと。

「家庭内の役割分担のカルチャーを変えることを始めなければ、女性が余計な負担を負い続ける」と同氏は指摘する。「それでは女性の職場進出を高水準に維持し、女性が中間管理職から上級職まで務められるようにはならない」。