ビットコイン発明者は「44歳のオーストラリア人」と米誌

  • デイブ・リー
  • 北米テクノロジー担当記者
ビットコイン

画像提供, Getty Images

仮想通貨ビットコインを発明したのは米ロサンゼルス近郊に住む64歳の日系米国人だと伝えて世界的に話題になった米誌ニューズウィークの記事を覚えているかもしれない。

ニューズウィーク記事は、ビットコイン生みの親とされた「サトシ・ナカモト」なる謎の人物を発見したと報道したのだが、この「スクープ」は間違いだった。ドリアン・ナカモト氏(出生時の名前がサトシだった)は後に、記事のせいで自分の生活は大混乱に陥ったとして、同誌を訴えている。

あの騒動がまだ記憶に新しいだけに、米誌「WIRED」のこの記事を共有するのも慎重になっている。記事によると、ビットコイン発明者「サトシ・ナカモト」は、44歳のオーストラリア人で暗号専門家のクレイグ・スティーブ・ライトという人の偽名だと言うのだ。

WIRED記事の筆者、アンディー・グリーンバーグ氏とグウセン・ブランウェン氏は「(ライト氏は)ビットコインを発明したか、あるいは私たちをだまそうと必死な、見事な詐欺師だ」と書いている。

ビットコインは、複雑な暗号プロトコルと、どのコインを誰が使ったか管理・認証する世界的なコンピューター・ネットワークからなる仮想通貨だ。誰がビットコインを使ったか記録をたどるのが極めて困難な匿名性ゆえに、犯罪活動によく使われる。

ビットコインの発明者(もしかすると複数かもしれない)も同じくらい、たどるのが難しい。

WIRED記事によると、リークされた文書にはライト博士と弁護士のやりとりが含まれており、ライト博士はそのなかで「自分が2009年以来ビットコインを運営してきた事実を精一杯隠してきた」、「最終的にはどうせ世界の半分には知られるんだろうし」などと発言しているという。

私はライト博士に接触を試みたが、うまくいかなかった。WIREDが記事を発表して間もなくブログは削除され、鍵つきだったツイッター・アカウントも削除されてしまった。

オンラインに残っているプロフィールによると、博士は「代替通貨」を専門に扱う豪シドニー拠点の「デモルガン」社の経営者だという。

ライト博士についてWIREDが調べた内容の全容はWIRED記事を読むようお勧めするが、その要点は以下の通りだ――。

- ビットコイン運用開始のかなり前に掲載した複数のブログ記事で、疑似通貨開発について専門家の助言を求めている。

- 「サトシ・ナカモト」を名乗る人物に関係する暗号パスワードを使って、自分のメールを送るよう呼びかけている。

- ビットコイン開始を発表する投稿は後に削除され、「一番うまい隠れ方は誰もが見える場所にいること」と代わりに書いている。

WIRED記事はさらに、ライト博士が大量のビットコインを所有し、その一部をビットコイン銀行設置に投資したと書いており、流出したメールや会話の聞き取り記録がこれを裏付けている。

しかし(そしてこれはとても大事な「しかし」なのだが)、WIREDは自分たちの主張の問題点を潔く認めている。大がかりなでっちあげかもしれないというのだ。

「流出した文書の真偽は未確認で、すべて、あるいは一部が偽造という可能性はある」と同誌は認めた上で、「けれどもこれははっきりしている。もしライト氏が『ナカモト』とのつながりを偽造しようとしているなら、そのでまかせは、ビットコインと同じくらい大胆なものだ」と付け加えている。

同誌が提示した一連の証拠には説得力があるし、「サトシ・ナカモト」の真相解明を自認する他の人たちがつぶしきれなかった穴をいくつも埋めている。そして「サトシ・ナカモト」は今や、デジタル世界におけるルーカン卿のような存在になりつつある。

(訳注・「ルーカン卿」とは1974年にロンドン自宅から失踪したまま行方不明の英国貴族。自宅では乳母が殺害され、別居中の妻が殴打され重傷を負っていた。「ルーカン卿の謎」は英国で広く注目され、世界各地からの「目撃証言」が頻繁に取りざたされてきた)