「悪党」を弁護する パリ連続襲撃容疑者の弁護人

スベン・マリー氏

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自分は「権力の乱用」との戦いに突き動かされているというスベン・マリー氏

スベン・マリー氏は「avocat des crapules(悪党の弁護士)」というあだ名で知られる。ベルギーで悪名高い犯罪者の弁護を次々と担当してきたからだ。

その名は今やベルギーだけでなく、世界的に知られることになる。パリ連続襲撃のサラ・アブデスラム容疑者の担当弁護士として。

マリー氏はかつて、ベルギー有数のサッカークラブ「アンデルレヒト」のユース選手だった。負傷でサッカーから退いた後、プロ選手としての闘争心を弁護活動に注ぎ込んでいるようだ。

「誰かが『世間の最大の敵』と呼ばれているなら、私はそのような権力の乱用と戦いたい」とベルギーのメトロ紙記事で、マリー氏は話している。

そしてマリー氏は戦いから逃げるような人ではない。弁護士になるための学生時代、最初の1年を3回もやり直さなくてはならなかったが、やがてベルギーで最も優れた法曹家のひとりと評価されるようになったのだ。

これまで担当してきた中には、フアド・ベルカセム被告がいる。ベルギーにシャリア(イスラム法)の導入を求める「シャリア4ベルギー」を設立し、聖戦主義の戦士をシリアに派遣した罪で有罪となった。

ベルギーの連続殺人犯で児童性愛者マルク・デュトルーの共犯、ミシェル・ルリーブルの弁護も担当した。

マリー氏は今年1月の時点ですでに、アブデスラム容疑者の弁護を請け負う用意があると発言していた。ベルギーのル・ソワール紙によると、逃亡中の容疑者に近い人物が、マリー氏に連絡を取ったのだという。

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仏警察のサラ・アブデスラム容疑者指名手配写真

アブデスラム容疑者はブリュッセルで18日、劇的な強制捜査の末に逮捕され、今ではフランスの身柄引き渡し請求と戦っている。

昨年11月のパリ連続襲撃の現場に自分がいたことを、アブデスラム容疑者は否定していない。むしろ、そのような弁護方針は「不快に思う」だろうし、そのつもりもないとマリー氏は仏紙レキスプレスに話している。

代わりにマリー氏は捜査・訴訟手続きを争点にし、ベルギー外相が政治介入していると批判。またフランス当局による容疑者の身柄引き渡し請求は、法的越権行為だと戦う姿勢を示している。

マリー氏はベルギー紙ラ・デルニエール・ウールに対して、「フランスでの襲撃についてベルギー国内にうかがえるこの罪の意識、フランスにひざまずいてしまっているこの感じを、止めなくては」と話した。

マリー弁護士はさらに、パリのフランソワ・モラン検事を訴える方針だ。モラン検事は、アブデスラム容疑者が連続襲撃で自爆する予定を変更したと供述内容を明らかにしており、弁護士はこれを捜査上の守秘義務違反だと批判している。

その一方でマリー氏によると、容疑者は黙秘せずに当局と協力している。またマリー氏は、容疑者はフランス送還に抵抗しているものの「フランスに行くはずだ。行かない理由になるものは何もない」と話している。

原理原則に欠けると批判される弁護士はマリー氏が最初でもなければ最後でもない。しかし「悪党の弁護人」は公平なのだろうか?

その行動は特定のテンプレに当てはまらない。恐ろしい硫酸攻撃の被害者を支援したこともあれば、極右関係者の弁護を断ったこともある。

どれほど恐ろしい犯罪だろうと、すべての被疑者には弁護人による弁護を受ける権利がある。これは公平な裁判を確保するための基本的要素だ。

とはいえもちろん、単に職務を果たしているだけだと誰もが納得しているわけではない。ソーシャルメディアでは「人でなし」「無神経」などと批判されているし、パリの悲劇をシニカルに自己PRに利用しているだけだという批判もある。

マリー氏自身は「不問にされる権力の乱用」との戦いが自分の行動原理だと話す。

ル・ソワール紙にこう語っている。

「襲撃の後に昼でも夜でも生中継された連邦検事たちの記者会見を覚えているか? 人の恐怖を利用して自分の権力を拡大しようとするあの様子に、吐き気がしたんだ」