中国、20人拘束と 習主席辞任求める手紙めぐり
ジョン・サドワース北京特派員
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賈葭氏の失踪を報じる香港の日刊紙「蘋果日報」。中国メディアは失踪を伝えていない。
中国のウエブサイトが習近平国家主席の辞任を求める匿名の手紙を掲載したことに関連して、中国当局がこれまでに20人を拘束したことがBBCの取材で分かった。
辞任要求は3月4日、政府系のニュースサイト「無界新聞」に掲載された。当局がただちに削除したが、キャッシュされたものがまだオンラインに残っている。
手紙の内容は他のほとんどの国ではありふれた政治論争の域を出ない。
「親愛なる習近平同志、我々は忠実な共産党員だ」と始まる手紙はすぐに、「あなたに党と国家指導者としてのすべての職を辞任してもらうよう、この書簡を記す」と続ける。
しかし中国ではもちろん、特に政府系のサイトとなればなおさら、このような物言いは前例がなく、当局はすでに厳しく対応する兆しを見せている。
「全権を掌握」
著名コラムニストの賈葭氏は、この書簡に関係していると広く伝えられている。
賈葭氏の友人たちは、手紙をネット上で目にした賈葭氏は「無界新聞」の編集長に電話で問い合わせただけだと話す。
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李克強首相(左)と習近平主席
しかしBBCが匿名を条件に「無界新聞」スタッフに取材したところ、ほかにサイト関係者16人が「連れ去られた」という。消息筋によると、16人の内訳は、サイトのマネージャーと編集幹部を含むサイトのスタッフ6人と、関連技術企業の10人。
加えて、米国在住の著名な中国反政府活動家、ウェン・ユンチャオ氏は、広東省に住む自分の家族3人が、辞任要求書簡の関係で拘束されたと話している。ウェン氏は自分に情報を提供させようとする当局が、両親ときょうだいを拘束したが、自分は何も知らないとBBCに話した。
沈黙するマスコミ
辞任要求の手紙は、習主席が一手に「全権を掌握」していると怒り、経済政策や外国政策で大誤算を重ねていると批判。さらに主席が、言論の自由に対する規制を強めることで「国を委縮」させていると攻撃している。
言論の自由規制批判は特に、習主席が2月に国営テレビや新聞のオフィスを鳴り物入りで訪問し、記者としての仕事は何よりも共産党に従うことだと訓示したのを念頭においている。
この書簡はまず最初に、中国共産党の検閲から遠く離れた中国外の中国語サイトに掲載された。最大の疑問は、それがいったいどうやって政府系の「無界新聞」に転載されたのかだ。
中国の編集者が正気のままこのような文書を確信犯的に掲載するとは、とても考えにくい。そのため、一部の中国人記者たちは内々に、「無界新聞」がハッキングされたか、あるいは「無界新聞」が何かの自動記事転載ソフトを使っていたのではないかと推測している。
技術協力会社のスタッフが10人拘束されたのも、この推測と結びつく。
問題の手紙が削除されてからしばらく、「無界新聞」サイトは閲覧できなかったが、今では再開している。
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中国共産党をSNSで批判した任志強氏は、アカウントを削除された
「無界新聞」スタッフによると、残る記者たちは独自記事の執筆を中止。サイトは新華社や人民日報の記事を掲載して続いている。
「無界新聞」はSEECメディア(「財経」誌も発行)と中国電子商取引最大手アリババ、新疆ウイグル自治区の行政府が共同所有する。
手紙が本物かどうか疑いは残るが、外国メディアの注目は集めた。そして予想通り、中国国内では一切報道されていない。
習主席のマスコミ政策については、いくつか表立った批判がされており、これもその一環ではないかという意見もある。
ソーシャルメディアの「微博(ウェイボー)」で大勢のフォロワーがいる中国の不動産王、任志強氏は、自身のアカウントで習主席のマスコミ各社訪問を激しく批判。主席が国民の利益よりも党の都合を優先させていると示唆した。しかしそのアカウントはまもなく削除され、共産党系メディアからは「おぞましい影響を発している」と非難された。
北京大学法学院の張千帆教授は、一連の動きは過去の不穏な時代を連想させると懸念する。
「文化大革命で毛沢東が知識人や政敵に駆使した方法をいくつか使い、時代を逆行させようとする動きが常にある」と張教授は言う。
しかし今は当時と異なり、こうした抑圧に対抗する手段をもつ人の数が増えているとも教授は指摘する。
「人をむりやり黙らせるのは、インターネットが発達するほどずっと難しくなる」
マスコミの綱引き
政府の言論統制に対抗した最近の事例としてはもうひとつ、比較的リベラルな「財新」誌の例がある。
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記事が検閲されたと伝える3月7日付の「財新」記事はそれ自体が検閲されたが、キャッシュを読むことができる
毎年恒例の全人代がものものしく開会した3月初め、「財新」は自社記事をサイトから削除するという政府判断に公然と反抗し、口にテープを張られた写真と共に論説を掲載した。
中国の古い毛沢東的政策と、リベラルな改革推進を支持する人たちとの綱引きはもう長いこと続いている。あまり表だって目立つことはないが、時にはこうして公然と行われる。
とはいえ、国家主席の辞任を声高に要求するなど、誰にとっても異例中の異例だ。
中国当局は紛れもなく、書簡の真相を探るためにあらゆる手を尽くすだろうし、拘束される人数は増えるかもしれない。
しかしその真相が外国にまで伝わることはないのかもしれない。
書簡が本物だろうと偽物だろうと、確かなことがある。習近平主席が規制を強める一方で、それに反対する声は規制を潜り抜ける方法を見つけ出している。