【米大統領選2016】クリントン氏の副大統領候補はスペイン語を話す中道派

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バージニア州で並んだクリントン氏とケイン氏
米大統領選で民主党候補になる見通しのヒラリー・クリントン前国務長官は22日夜、共に本選に臨む副大統領候補に58歳のティム・ケイン上院議員(バージニア州選出)を選んだと発表した。中西部出身で、激戦州バージニア州の元知事として人気が高く、スペイン語が流暢な中道派のケイン氏は、豊かな行政経験のほかに本選での勝負強さを期待されているもようだ。
ケイン氏はホワイトハウスでも人気が高く、2008年大統領選ではバラク・オバマ氏の副大統領候補として最後まで名前が挙がっていた。今回ケイン氏を強く推したのは、クリントン氏の夫ビル・クリントン元大統領だと言われている。
2012年に連邦議会上院に初当選。それ以前は、民主党全国委員会の委員長、バージニア州知事、同州副知事、同州リッチモンド市長などを歴任。共和党支持者の多い保守地区でも支持を得た実績がある。
知事としてのケイン氏は、幼児教育の機会拡大、歴史資料のデジタル化、禁煙対策、銃規制強化などに取り組んだ。上院では、軍事委員会、高齢化特別委員会、予算委員会、外交委員会で委員を務めてきた。
政界入りする前は居住権専門の弁護士だった。その前にはハーバード・ロースクールを1年休学し、カトリック教会のイエズス会宣教師として中米ホンジュラスで活動。流暢なスペイン語を話すようになった。ヒスパニック系の有権者が増えているだけに、ケイン氏のスペイン語力も期待要素のひとつとされている。
近年のバージニア州は、2004年の大統領選までは共和党地盤だったが、2008年と2012年には民主党のオバマ=バイデン陣営が勝利した。現知事のマコーリフ氏も民主党。今回の大統領選でも、勝敗の趨勢に大きく影響する激戦州とみられている。ケイン氏は、このバージニア州で人気が高い。
さらにケイン氏は、中西部ミネソタ州セントポール生まれで同ミズーリ州カンザスシティー育ちのため、中西部工業地帯のいわゆる「ラスト・ベルト(さび地帯)」で労働者層に支持されるのではないかと、クリントン陣営は期待しているとみられる。

「生涯かけて人のために闘ってきたティム・ケインと共に本選を戦います。発表できて興奮しています」とクリントン氏はツイートした。

「ヒラリーとの電話が終わったところです。一緒に大統領選に臨むことができて、光栄です。あしたマイアミで遊説を始める。待ちきれない!」とケイン氏はツイートした。
一方で、ケイン氏は自由貿易協定を支持し、地方銀行の金融緩和を推進してきたため、民主党内の急進左派の間では人気がない。
カトリック信者で、個人的には人工中絶に反対している。ただし、女性の人工中絶権は憲法で保障されていると連邦最高裁が判断した「ロー対ウェード」判例は基本的に支持し、これを無効にしようとする動きには反対する。その反面、十分な事前情報提供を重視し、母体に危険がある場合を除き「部分出産中絶」禁止を支持している。
共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏は支援者たちへのメールで、オバマ大統領とクリントン氏、ケイン氏は「究極のインサイダー」だと批判。「オバマに3期目を与えないでほしい」と訴えた。
クリントン=ケイン陣営が本選で勝利した場合、マコーリフ知事が暫定的な上院議員代行を任命し、2017年に補選が行われることになる。
正副大統領候補を正式指名する民主党全国大会は25日~28日にかけて、ペンシルベニア州フィラデルフィアで開かれる。
<解説> キム・ガッタス、ワシントン
クリントン氏は、派手さよりも内実を選んだ。党の支持者を煽り興奮させる人物ではなく、手堅い安全な候補を選んだ。
中道派の副大統領候補を選ぶことで、無党派層だけでなく、トランプ氏を不快に思う共和党穏健派さえも取り込み、支持基盤を拡大しようという狙いかもしれない。党内左派の支持は自分が引きつけておくから大丈夫だという、自信の表れだろうか。
クリントン氏が今後4年か8年、一緒に仕事をしたいと思えるのは、実務能力のある人だ――。ほとんどのスタッフはそう言っていた。ケイン上院議員の市長や知事としての経歴は、まさにそれにぴったりだ。しかも、選挙に負けたことがないのだ。
一部のリベラルは、ケイン氏の自由貿易協定支持にがっかりするだろう。その主張は今後、抑えていくに違いない。
共和党全国委員会は、クリントン=ケインのコンビを「失敗した民主党の現状維持」と一蹴した。しかし実は共和党の中でさえケイン氏の評価は高く、アリゾナ州選出のジェフ・フレイク上院議員は「まったくのナイスガイだ」と呼ぶ。
さらにクリントン氏は、ケイン氏は揺るぎなくとことん楽観的な人だと評価。トランプ氏が繰り返す言動のため、暗く否定的だとしばしば言われる今年の大統領選で、その明るさは非常に必要なものだとクリントン氏は称えている。