なぜ人は大量殺人を犯すのか 

フランク・ガードナー、BBC安全保障担当編集委員

南仏ニースのトラック襲撃など最近の無差別殺人事件は、個人の犯行と組織的テロ攻撃の境界線をあいまいにした

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南仏ニースのトラック襲撃など最近の無差別殺人事件は、個人の犯行と組織的テロ攻撃の境界線をあいまいにした

南仏ニースで84人が無差別に殺害されて間もなく、ドイツ南部でも無差別攻撃が相次ぎ、各地の対テロ捜査当局は共通点を見出そうと苦慮している。こうした攻撃に何か一つの決定的な特徴はあるのだろうか。今後の類似事件防止につながるような、何か共通項はあるのか。

一見すると、そのような共通点はなさそうだ。ニースのトラック運転手は、精神的な問題を抱え、いきなり怒り出すなどの傾向があったというが、それでも犯行計画を何カ月も隠していられるくらいの明晰な判断力があった。

ニースの事件については後に、過激派勢力のいわゆる「イスラム国」(IS)が自分たちによるものだと宣言した。ドイツ南部の列車でアフガニスタン出身の少年が乗客をおので襲った事件も、南部アンスバッハで自爆犯が野外音楽祭を狙った事件も、同様にISが犯行声明を出した。

一方で、ミュンヘンのショッピングモール乱射事件は当初、IS関連かと疑われたものの、詳しく見ていくとむしろ実行犯の個人的な、政治とは無関係の恨みつらみが動機らしいと判明した。この大量殺人事件はむしろ、何か強い不満を抱く米国の若者が大学キャンパスで銃を乱射する事件と酷似している。

同様に、独ロイトリンゲンでシリア難民がポーランド人女性を殺害した事件も、テロとは無関係だと捜査当局は断定した。

「鍵がパンと開くように」

ピーター・エイルワード氏はロンドン警視庁刑事として長年勤務した後、ブロードムア刑務所精神病院の法医心理分析官となった。そのエイルワードさんは、相次ぐ無差別攻撃の犯人の過去に共通項を見出すことは可能だと言う。

「精神医学の問題だ。(ニースやミュンヘンの事件のように)周到な準備があったのは、人格障害を示す。このような計画性の裏に、大規模なテロ攻撃を実施したいという意志の裏には、復讐願望がある」

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ミュンヘン乱射事件のダビド・アリ・ソンボリー容疑者。イラン人両親のもと、ミュンヘンで生まれた。

しかし、精神病を患う人は大勢いて、ほとんどの人は他人を傷つけたりしない。精神疾患が背景にあるとしても、無差別殺人は比較的少ない。

その理由についてエイルワード氏は、「犯人の過去を詳細に見ていくと、いくつかの要因が見て取れる。その要因が、ダイヤル式の鍵を開ける番号のようにピタッと揃った時、鍵がパンと開くように、人を攻撃して殺してしまうのだ」と話す。

ただし、事件の兆候を特定し、未然防止につなげるには、まだまだ研究が必要だとエイルワード氏は言う。

「より大きな大義」

次の大量殺人を防ごうとする欧米の政府当局や情報機関にとって、これは大問題だ。精神疾患は通常、捜査機関や情報機関の守備範囲ではないからだ。

西側各国の対テロ担当者が最近、ワシントンで会合を開いた際には、ISのような思想的組織と戦う実力のある政府機関は、個人的な憎悪や怨恨から無差別殺人を行う単独犯の摘発に不向きだという結論で一致した。

さらに、精神疾患があり不安定な個人をテロ組織が冷徹に勧誘し利用するような場合、思想犯罪と精神疾患による犯罪の区別があいまいになり、捜査当局の対応はさらに難しくなるという。

米中央情報局(CIA)および米国家安全保障局(NSA)の長官だったマイケル・ヘイデン将軍は、「本当に深刻な問題を抱えて、周囲に危害を及ぼし得る人間が、より大きな大義を手に入れると、社会から孤立する自分の存在に意義を見出してしまう」と話す。

テロ組織が自分たちの目的のために不安定な人を獲物にして利用するという考えは、新しくはない。しかし最近の難民移動の巨大な規模や、シリア、イラク、アフガニスタンで続く紛争の規模を思うと、テロ組織はおそらく今後も不安定な人たちを悪用しようとし続けるだろう。だからこそ、最も弱い立場にいる人たちが悪用されないよう、守る必要があるのだとエイルワード氏は言う。