米シリコンバレーに性差別問題は存在するのか

ウーバーは今、公にされ目を集めるセクハラ問題の渦中にある

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ウーバーは今、公にされ注目を集めるセクハラ問題の渦中にある

タクシー配車アプリのウーバーはこのほど、職場でのセクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ、セクハラ)の苦情について、「緊急調査」を行うことを約束した。同社では女性嫌いがはびこっており、女性が大量に退職しているという女性エンジニアの発言を受けたものだ。

ソフトウェア・エンジニアのスーザン・ファウラーさんは先ごろ、「ウーバーでのとんでもなく風変わりな1年」というブログを書いた。

ファウラーさんのブログによると、正式な出勤初日に、恋人とは互いに縛り合わない関係だからというメッセージをマネージャーがファウラーさんに送ってよこし、自分とセックスしようとしたという。

これは、シリコンバレーにおける「男性優位文化」の象徴的存在として知られるようになったウーバーに向けられた批判の一つにしか過ぎない。

しかしウーバーは本当に、シリコンバレーのテクノロジー系大手他社以上に性差別主義的なのだろうか?

「業務遂行に影響」

ファウラーさんの主張は、テクノロジー業界で働く多くの女性の間で共感を呼んだ。調査によると、ファウラーさんの経験は珍しいことではないようだ。

2016年に行われた調査によると、シリコンバレーで勤務する女性の60%が、望まない性的誘いを受けた経験がある。

カリフォルニア州サンフランシスコと近隣地域を指すベイエリアで働く女性を主に調べた「エレファント・イン・ザ・バレー」という調査では、回答者の女性220人のうち87%が同僚から屈辱的な言葉を言われた経験があった。

職場で嫌がらせを受けたことがあると答えたうち40%近くの人が、自分のキャリアに傷がつくのを恐れ、状況を報告しなかった。

調査に回答を寄せた1人は、「社会に出たばかりのころ、採用候補者になった会社で採用マネージャーに性的に誘われた」と書いている。

「彼と寝たら、彼が会社で出世する際には必ず私を彼の"副官"に昇進させてくれるとはっきりと言われました」

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レディットの元CEOのパオさんはファウラーさんに関する記事が出た後、ファウラーさんを支持するコメントをツイッターに投稿した

別の女性は、最高経営責任者(CEO)と初めて出張に行った際、CEOから性的に誘われ、断ったと述べている。

この女性は、「その後、CEOと出張に行くよう指示されることは絶対ありませんでした」と話している。「これが職務遂行に影響しました」。

この調査は、ネット掲示板サイト「レディット」(Reddit)の元CEO、エレン・パオ氏が2015年に起こし注目を集めた性差別裁判を受けたものだ。パオ氏は、ファウラーさんがウーバーに立ち向かったことを賞賛している1人だ。

パオ氏はファウラーさんのブログについて、「テクノロジー業界の現状が1人の女性の物語を通じて表現されている。多くの企業における多くの女性、多くの人の物語でもある」とツイッターで述べた。

「判断の誤り」

差別を数値化するのは困難だ。被害者が口を開きたがらない場合は、特にそうだ。

しかしパオ氏のケースに加え、テクノロジー業界ではここ数年で、注目を集めた訴訟や突然の退任となったケースが複数存在する。

・2014年、出会い系アプリ「ティンダー」(Tinder)の元幹部ホイットニー・ウルフ氏が同社を訴えた。同社のマーケティング責任者ジャスティン・マティーン氏から「尻軽女」や「売春婦」と呼ばれ、さらに、ウルフ氏が正当に持つべき共同創業者という肩書きを女性という理由から拒否されたというのが、その理由だった。ウルフ氏はその後、和解金として約100万ドル(約1.13億円)を受け取っている。

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ウルフ氏はティンダーに対する訴訟の後、ライバル会社「バンブル」を立ち上げた

・ソーシャル・コーディング・サイト「GitHub」(ギットハブ)の創始者トム・プレストン・ワーナー氏は、セクハラ調査を受けて2014年、辞任した。法的な不正行為は見つからなかったものの、同社は「間違いや判断の誤りがあった証拠」があったとした。

・グーグルでソフトウェア・エンジニアとして4年以上勤務したケリー・エリス氏は2015年、同社の先輩がエリス氏の外見についてプロ意識に欠ける発言をして嫌がらせをしたという衝撃的な主張をして、同社をツイッターで非難した。発言には、ハワイ州マウイ島に社員旅行に行った際、上司がエリス氏に対し、「(エリス氏を)わしづかみしないように、ありったけの自制心を使っている」と言ったことなどが含まれているとされた。

テクノロジー業界と他業界の比較

さまざまな設問によるさまざまな研究結果を比較するのは難しいところだが、シリコンバレーが問題を抱えていることを示すいくつかの手がかりがそこにはある。

セクハラに関する統計はものにより大きく異なるが、1992年に米国で実施された大規模な国民調査によると、女性の41%がセクハラを経験していた。国連によると、欧州連合(EU)域内では約40〜50%の女性が経験している。

いずれの数字も、シリコンバレーでの調査の60%と比べるとそれでも低いことが分かる。

米国の主要国民調査である2016年版「職場における女性たち」調査によると、テクノロジー業界の経営幹部における女性の割合は19%だった。金融やマスコミ、専門的なサービスの業界と大まかに一致している。

同調査ではまた、全業界において、昇進や昇給を交渉した女性のうち30%が「偉そう」、「攻撃的」、「威圧的」だと言われたという。

「エレファント・イン・ザ・バレー」調査では、攻撃的だと言われた女性の割合は84%に急増する(ただし、質問内容は特に交渉時に言われた言葉に限定していない)。

性別のバランスを保つために何がなされているのか?

世界最大級のテクノロジー企業各社は、社内が白人男性で占められていることを自覚しており、多くはそれに対処するための取り組みに資金を提供している。

多様性と包括性に関する年次報告書でアップルは、給与や賞与、株式付与を分析し、過去1年間における賃金格差を埋めたと述べている。

フェイスブックは、若い女性や過小評価されているマイノリティ(少数者)にコンピューター・コードの書き方を教えている非営利団体「Code.org」に、1500万ドル(約17億円)を提供すると公約している。

2015年にグーグルは、職場の多様性への取り組みに対して、2014年の1億1500万ドル(約130.7億円)から増額となる1億5000万ドル(約170億円)を投資すると、米紙USAトゥデイで表明した。

現在、アップルの技術系社員のうち23%が女性だ。グーグルは19%、フェイスブックは17%にとどまっている。

この規模の企業では変化に時間がかかるため、道のりは長くなる可能性がある。

しかしそこで働く資格のある人材の幅を広げることで、シリコンバレーは現状を変えたいと願っている。