金正恩氏の新しい写真から、北朝鮮について分かること

朝鮮半島の人々にとって、手をつなぐ行為は親しみと尊敬の意味を持つ

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朝鮮半島の人々にとって、手をつなぐ行為は親しみと尊敬の意味を持つ

北朝鮮の国営メディアは13日、最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、平昌冬季五輪への北朝鮮チーム参加を喜んでいるのを示唆する報道を行った。

報道では、妹の金与正(キム・ヨジョン)氏や金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が金委員長と珍しくリラックスした様子で写った写真が配信された。北朝鮮政府に詳しい米ジョンズ・ホプキンス大学のマイケル・マッデン氏は、この写真から多くのことが読み取れると話す。

正恩氏のほかの記念写真撮影と比べると、この写真は政権幹部たちのかなりリラックスした様子が写っている。

正恩氏の現地訪問や軍事訓練視察中の記念写真には通常、選りすぐられた北朝鮮市民が参加する。写真撮影の瞬間は、市民らが最高指導者に会う唯一の機会かもしれない。ましてや、その近くに寄るとなればなおさらだ。

そのため、北朝鮮の労働者あるいは兵士が畏敬の念から泣き、感極まっているのをよく目にする。写真撮影のときは、直立不動で厳粛な表情をしている。

このような写真はその後、工場ないしは軍基地の「革命の歴史」を展示するための部屋に飾られる。

写真の複製が、撮影現場の労働者あるいは兵士に配られることもある。金委員長と複数回の記念写真撮影に参加した市民らは、その写真を当然、額縁に入れて、自宅の大事な場所に飾る。

目だけで笑う」金与正氏

政府高官たちは、このような写真で緊張した様子を見せることもある。これにはいくつかの理由がある。

一つ目は、場に対する敬意や、金委員長あるいは国営メディアの前で浮ついた様子を見せたくないためだ。

二つ目は、政府高官らは、忙しい仕事のさなかに写真撮影をすることもある。

最後に、正恩氏の現地訪問あるいは視察が何らかの理由で上手くいかず、正恩氏自身から厳しくとがめられる可能性が常にある。

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金与正氏は韓国の平昌冬季五輪から帰国したばかりだ

しかし与正氏は例外で、写真では作り笑いをしたり、目だけで笑ったりするのが分かる。そこから、与正氏の人格や北朝鮮政界における彼女の権威がうかがえる。

しかし、高位級代表団と写る正恩氏の新しい写真に緊張はほとんど見られない。代表団は3日間の訪韓で、文在寅大統領とも複数回やり取りがあったほか、政府高官らとも会合を持ち、帰国したばかりだった。

この写真が撮影されたのは、正恩氏が金永南氏と最側近の与正氏から報告を受けた後のことだ。

撮影場所の会議室は平壌中心部にあり、政府高官らと故金正日(キム・ジョンイル)総書記の会議が多く行われた場所として、北朝鮮の市民にはなじみが深い。

崔輝(チェ・フィ)国家体育指導委員長と李善権(リ・ソングォン)祖国平和統一委員会委員長を詳しく見てほしい。二人とも、手にノートとペンを持ったままだと分かる。

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金正恩の右横には妹の金与正氏、左横には金永南最高人民会議常任委員長が立ち、外側の右に崔輝委員長、左に李善権委員長がそれぞれ立っている

一方では、これを不確実性に備える場面として見ることができる。シャッターが切られた後に正恩氏はさらなる命令や指示を出すかもしれないので、ノートを探し回る混乱を避けたいのだ。

最高指導者が同席するなかで、背後にメモ帳を隠そうと後ろで手を組めば、とても失礼な行為と受け取られてしまう。

他方で、自然発生的な出来事と捉えることもできる。恐らくは、会談が終了した後に即興的に行われた写真撮影で、崔氏と李氏はノートを置く余裕がなかったのかもしれない。

ワインや酒で乾杯するような、和やかな会談だったのかどうかは知る由もない。崔輝氏はリラックスしつつも困惑しているようだが、(元軍情報将校の)李善権氏はあと一歩で微笑みを浮かべるようでもあり、韓国滞在中、常時かなり張り詰めた表情だったこととは対照的だ。

正恩氏の隣にいる金永南氏は、北朝鮮指導者と手をつないでいる。

正恩氏は、金永南氏の腕を組むことで尊敬と敬意を表している。

その反対側では、やはり尊敬の念を表す行為として与正氏は兄の腕を掴み、正恩氏の他の部下と同じようにしている。最高指導者の顔に注目すると、この場面を楽しんでいるようだ。ここにはわずかに透明性が表れている。

今回の写真は、金日成(キム・イルソン)氏の肩に手を回す、正恩氏の叔母、金敬姫(キム・ギョンヒ)氏の写真を思い出させる。

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1970年代の写真には、金日成(写真中央)と金正日両氏と一緒に金敬姫氏が写っている

韓国が南北融和を進めていた1998~2008年の「太陽政策」期に多くの北朝鮮高官が韓国を訪れ、帰国してから金正日氏に報告を行っていた。しかしこれらの会談について、リアルタイムに報道されることは皆無ではないにせよ、まれだった。

金氏の一族内で親愛の情を示す写真が撮られたことは以前にもあり、もちろん検視記録のような写真ではなく、もっと普通の表情で北朝鮮高官が撮影された写真もある。正恩氏は去年、誰かをおんぶする写真さえ撮られている。

正恩氏は、年長の高官やさらには民間人の腕を組んだり手を握ることが以前にもあった。朝鮮の文化では、友情や尊敬を示す行為だ。

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果実農家の男性たちが金正恩氏と腕を組んでいる写真

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当時の指導者、金正日氏と腕を組み感激した様子の少女が写っている

今回公開された写真には、北朝鮮指導部のもっとリラックスした気ままな側面を見せる狙いがある。写真は若き指導者の性格を丸く見せると同時に、正恩氏が自分の役割と立場に自信を付けてきており、韓国と渡り合う準備があるということを示している。

マイケル・マッデン氏はジョンズ・ホプキンス大学米韓研究所の客員研究員で、北朝鮮分析サイト「38ノース」の関連組織、「NK指導部ウォッチ」のディレクター。