ネアンデルタール人は美術作品を作っていた

ポール・リンコン、BBCニュースサイト科学編集長

Cave art
Image caption スペイン西部のマルトラビエソ洞窟では、ネアンデルタール人が壁に赤い顔料を吹きつけて手形を描いていた

ネアンデルタール人は野蛮人のようにこれまで思われてきたが、実際は芸術家だったようだ。22日付の米科学誌サイエンスに掲載された論文で明らかになった。

研究によると、ネアンデルタール人は現生人類が欧州に進出する2万年前の時点ですでに、スペインの洞窟で壁画を描いていたと分かった。また、彩色した貝殻を宝飾品として使っていたようだ。

芸術表現はこれまで、現生人類(ホモ・サピエンス)に特有のもので、ネアンデルタール人などの旧人類にはない行動だと考えられてきた。

しかし、スペインのラ・パシエガ洞窟、マルトラビエソ洞窟、アルダレス洞窟の3カ所で、壁面にネアンデルタール人の手形や幾何学模様、赤い丸などが描かれている。それぞれの洞窟は最大700キロ離れている。

調査チームは、壁画の正確な年代特定のため、ウラン・トリウム法と呼ばれる年代測定法を使った。壁画の表面に含まれるウランの放射性物質を測定する方法だ。

その結果、壁画が描かれたのは少なくとも6万5000年前だと判明した。対して、現生人類が欧州に現れたのは約4万5000年前のことだ。

このことから、この旧石器時代の壁画は、当時欧州にいた唯一の人類でホモサピエンスに「近い」ネアンデルタール人が描いたものだと明らかになった。ただし、今のところ見つかっているネアンデルタール人による芸術表現は、抽象的なもののみだ。

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Image caption ラ・パシエガ洞窟のこのはしご模様の壁画は6万4000年以上前のもの。赤い平行線と垂直線が描かれている

調査論文を共同執筆したサザンプトン大学のアリスター・パイク教授は、「19世紀に最初の化石が発見されて以来、ネアンデルタール人は粗野で未開で、芸術や象徴的表現能力がないといわれてきた。その見方が今でも残っている」と語った。

「ネアンデルタール人の行動がどこまで人間に近かったかは、盛んに議論されている。我々の発見は、その議論に大きく貢献するものとなる」

今回の調査には参加していない、ロンドン自然史博物館のクリス・ストリンガー教授は、今回の調査結果による年代特定の正確さに注目する。

「ネアンデルタール人が象徴的表現をしていたという主張は以前からあったが、年代特定が不明確だった。あるいは、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが同時に存在したとされる、4~6万年前のことだと言われてきた。つまり、発見された象徴的表現は現生人類のものかもしれない、あるいは現生人類に影響されたネアンデルタール人によるものかもしれなかった」

ストリンガー教授は、今回の新発見でネアンデルタール人には象徴的表現、あるいは芸術的表現能力があったと認められたと言う。「疑いが完全に払拭されたようだ」。

教授はさらに、「これで、ネアンデルタール人と現生人類を分けるとされてきた行動のギャップも、さらに狭まる」と説明した。

しかし教授によると、動物や人など実際の対象を描く具象芸術については、ネアンデルタール人にその表現力があったと言える明確な例はまだ見つかっていない。

サザンプトン大のパイク教授はBBCニュースに対して、「『ネアンデルタール人は具象絵画を作ったのか?』が次の大きな疑問点だ。手形はある。赤い点はたくさんある。線も見つかった。けれども、たとえば自分たちが狩っていた動物の絵はあるのか。それが知りたい」と話した。

「意味のある」表現

スペイン北部のラ・パシエガ洞窟では、はしごのような形の絵が見つかっている。研究チームは、少なくとも6万4800年前のものと年代を特定した。しかし、同じ洞窟内の他の絵は、最大8万年前のものもある。

さらに、はしご状の枠の中に動物が描かれた絵もあるが、まだ年代は特定されていない。他のものより新しい可能性もある。

「現代でも色々な人が色々な方法で芸術に取り組んでいる。なので、自分が描くシンボルが何を意味するかが大事だ」とパイク博士は言う。「動物を描かなかったからといって、動物が描けなかったとは限らない」。

初期の壁画の年代特定は、顔料のついた首飾り用の穴の開いた貝を使う。調べた4標本のうち2つは約11万5000年前のもので、欧州に現生人類が現れるはるか前だ。

調査結果について、ジブラルタル博物館のクライブ・フィンレイソン教授はBBCニュースに、「非常に優れた研究だ。特定された年代に疑問はない」と話した。

「欧州内外で従来知られていた全てのものより、はるかに古いもののようだ」

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Image caption 古代のハッシュタグ? ジブラルタル・ゴーハム洞窟で2014年に見つかったこの刻印は、ネアンデルタール人が刻んだ可能性がある

フィンレイソン教授と研究チームは2014年、ジブラルタルのゴーハム洞窟で、ネアンデルタール人が刻んだかもしれない刻印を発見した。最新の調査結果とあわせて考えると、私たちの進化上の「いとこ」にあたるネアンデルタール人の知的能力を、人間は過小評価してきた可能性がある。

「厳密に解釈するなら、壁画はネアンデルタール人によるものだというのは、年代からの推定に過ぎない」と教授は指摘する。当時のイベリア半島に他の人類がいたという直接証拠は見つかっていないが、ネアンデルタール人の絵だと断定するにはまだ早いのではないかと、フィンレイソン教授は慎重だ。

「おそらくかなりの確率で、ネアンデルタール人のものだろう。しかし知る限り、3つの洞窟からネアンデルタール人の遺体の一部は一切見つかっていない」

アフリカでは、7万年前にさかのぼる原始的な象徴的遺物が発見されているが、いずれも現生人類と関係している。

ダラム大学の考古学者ポール・ペティット教授は、「西欧の他の洞窟にある類似の壁画も、ネアンデルタール人によるものかもしれない。かなりの可能性がある」と話す。

パイク教授は「洞窟内の特に暗い部分に描かれた壁画もある。たまたま描いたというわけにはいかない。光源を持って通路を歩き回り、顔料を用意しなければ描けない」と話す。

さらに、「ラ・パシエガの壁画は、石筍質の岩層に両側を囲まれた、とても滑らかな壁面に描かれている。前に立って鑑賞したくなるような壁画だ」という。

「(壁画に)どのような意味があるのか、私たちは永遠に分からないままだろう。けれども、有意義なものだ。それは喜んで断定できる」

(英語記事 Neanderthals were capable of making art

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