世界を揺るがす――空へ高く、高く  完全電化や自動化の空飛ぶ近未来 

ライト兄弟の時代から100年以上がたった。しかし人類はいまだに、鳥のように自由に飛びたいと夢を見続けている。


人類は年間合計40回、空を飛ぶ。それでも人は、もっと便利に、もっと速くと飽くなき欲求を抱いている。その要求と、そして気候変動の要請から、電気推進や自動操縦の空中タクシーなどを含む、斬新な最新技術が生み出されている。

空を自由に飛びたいと願う人の探求心が、新たな革命を呼び込んでいる。

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世界を揺るがす――人間は常に空を目指した

航空が世界を揺さぶる

ギリシャ神話によると、発明家のダイダロスは柳の枝と鳥の羽根を蝋(ろう)で固めて翼を作り、息子とともに牢から逃げようとした。

脱出には成功したが、息子のイカロスは野放図な性格で、興奮のあまり太陽に近づきすぎた。蝋が溶け、イカロスは海に落ちて死んでしまう。

これは人類の傲慢に対する警鐘だったのか。それとも、人がいくら空を制しようとしてもこの帰結は免れないという予言か。

Image caption 墜落するイカロス

前者だったとしても、人類はその警告を聞き入れなかった。

人は常に、空を飛びたいと願ってきた。レオナルド・ダビンチは15世紀の時点で、発案した「空圧ねじ」を図解している。しかし、夢が現実になる兆しが見えたのは、オービルとウィルバー・ライト兄弟が1903年に世界初の有人動力飛行を成功させたからだった。

未来都市の想像図には、空飛ぶ車や飛行機がつきものだ。人は平面だけでなく上下にも移動するという暮らしが、長く予想されてきた。

Image caption ダ・ビンチの「空圧ねじ」

英作家オルダス・ハクスリーはディストピア小説「すばらしい新世界」(1932年)で、遺伝子的に「純粋」な統治者たちが空飛ぶ機械で上空へと垂直に移動する様子を描いた。

1930年代と40年代にジェット・エンジンが発明され、大西洋間の飛行機旅行はとてつもなく豪華でぜいたくなものに変わった。世界は狭くなり、行き来しやすい場所になった。少なくとも、一握りの金持ちにとっては。

やがてターボファン・エンジンが登場し、航空機の製造が効率化されると、費用は下がり、一般大衆も飛行機に乗ることができるようになった。

コンコルドのような超音速飛行機は今でも、豪華な長距離移動の名残をとどめているが、大勢は常に空の民主化に向かって動いた。ライアンエアー、イージージェット、エアアジア、サウスウェストといった航空各社は、ほとんど誰でも乗れるような格安の近距離便を提供した。

飛行機に乗るのはバスに乗るのと大差ないことに変わった。乗客の数は膨れ上がった。

さらに最近では、気候変動の問題が顕在化し、騒音や二酸化炭素排出量を減らさなくてはならないという環境上の命題が、優先され始めた。

ニューヨーク~シンガポール間を普段の15時間ではなく2時間で移動するなどといった超音速飛行の夢は、徐々に消えていった。

英クランフィールド大学の航空学部長、イアン・グレイ教授は、「新素材が出現している。自律的飛行をめぐり新技術が登場している。人工知能が初めて、航空の世界で使われ始めた。電気推進の分野でも、本当に画期的なことが起きている」と話す。

Image caption 航空旅客者数の推移(2017年IATA統計より、単位10億人)。紫の縦棒は将来見通し

タクシーが空を スマートな都市

寒い曇天の日にドイツ南部ドナウベルトで滑走路に立ち、エアバス社の縮尺型オクトコプターが離陸するのを見ていると、この試作機が(そして他の類似機が)都市交通にどういう画期的な変化をもたらすのか、なかなか想像しづらい。

しかし、このシティ・エアバス計画の主任技師、マリウス・ベベセル氏は、無人で飛ぶ完全電化された「垂直離着陸(VTOL)」空中タクシーが今から5年もしない内に、世界各地の大都市と最寄り空港を結ぶようになるはずだと確信している。定員は4人だ。

予約はスマートフォンでタクシーを予約するのと同じくらい簡単になるはずだと、ベベセル氏は言う。シームレスに統合された交通ネットワークの中で、シティ・エアバスは一つの構成要素に過ぎないと。

専用の空中交通管理システムが安全を確保するので、利用者はすぐに自律的な飛行機とそのメリットを受け入れるはずだとベベセル氏は話す。メリットとはこの場合、便利な上に、公害と渋滞も減るという側面だ。

ベベセル氏によると、シティ・エアバスは通常のヘリコプターよりも機械としてはるかに簡便で、時速60キロから120キロの速度が出せるようになる。電池は15分ほどで充電できるという。

長い滑走路はいらず、とても狭い場所や高層ビルの屋上にも着陸できる。

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世界を揺るがす――空飛ぶ無人タクシーこそ渋滞解消の決定打?

しかし、無人飛行機に乗ってもいいと思えるほど、利用者の信頼を獲得できるのか。

「当初は利用者に受け入れやすいよう、そのためだけに機内に操縦士を待機させる」とべべセル氏は言う。とはいえ、非常事態になれば空の交通を集中制御する管理システムが操作を代行するため、機内の操縦士が実際にすることはほとんどないのだという。

むしろ、操縦士を排除し、それによって人的ミスの可能性を排除する方が、安全性の向上につながるという考えだ。

これにはイアン・グレイ教授も同意する。

「操縦士がいない方が、遠く、速く、経済的に飛べる。空を飛ぶ機体の自動操縦技術は40年前から存在する。あとは単に、航空管制システムをいかに無人機に対応させるかだ」

安全が確保できていると長期的な成果を社会に見せることができれば、信頼は得られるはずだとグレイ教授は考えている。

Image caption ボロコプター

シティ・エアバスの親会社、航空機大手エアバスはベベセル氏のチームに数千万ユーロの開発費を注ぎ込んでいる。その支援を受けて、ベベセル氏たちは目指す大きさの試作機の飛行を2018年末までには実現したい意向だ。

一方で、独ドナウベルトから数百キロ離れたブルクサルでは、ベンキャー企業ボロコプターが「世界初の完全電化空中タクシー会社」になろうと取り組んでいる。

フロリアン・ロイター最高経営責任者が実用化に取り組むボロコプターでは、2人乗り操縦室の上に18個のプロペラが円形に配列されている。

「安全性がすべて」とロイター氏は言う。「プロペラが9つしか動かなくなったとしても、機体は飛び続ける」。

市内の短距離飛行用に設計されたボロコプターは、電池を動力に、16~32キロの距離が飛行可能だとロイター氏は言う。こちらもやがて、社会が安全性を信頼するようになれば、完全に自律的な無人飛行が可能になる。

しかしこれは決して、同社創業者のアレクサンドル・ツォゼル氏が思い描いた夢物語ではない。ボロコプター社は高級車メルセデス・ベンツの親会社で独自動車大手のダイムラーや、テクノロジー大手インテルなど、大物出資者から3000万ユーロという本格的な資金を集めている。

ボロコプターは2017年9月にドバイで初の完全無人飛行試験を実施した。「史上初」の飛行実験だったと言うロイター氏は、5年以内に商業生産が開始できると見ている。

ほかにも多くの会社がドローン(無人機)タクシーの開発に取り組んでいる。中国の億航智能技術(イーハン)や、配車サービス大手ウーバー、米カリフォルニア州の無人機メーカー、ビマナなどだ。

しかし、こうした都市交通の未来想像図は、膨大な規制障壁を乗り越えることができるのだろうか。

グレイ教授は、いずれはそうなると話す。

「規制が技術に追いつけば、10年以内には小型の空中タクシーが実現するかもしれない。空中交通の管制技術を最適化するには、人工知能がとても大きい役割を担うことになる」

その一方で、もっと慎重な意見もある。

「2022年までには確かに、空中タクシーで移動する人も出るだろう。少なくとも、救急医療搬送はそうなる」

「けれども、自動車のタクシーはそうそうすぐになくならない。航空管制にはあまりに規制が多い。何機の飛行機やヘリが同時に空を飛んでいても大丈夫かの規制も、とても厳しい」と、英ランカスター大学のエネルギー部長、ハリー・ホスター教授は言う。

電池式の空中タクシーを使えば、地域の公害は減り、大都市部の交通渋滞も緩和されるかもしれないが、利用者が増えれば消費エネルギーの総量はむしろ増加するかもしれないし、事故の件数も増えるだろうと教授は指摘する。

空中タクシーは電気自動車のおそらく倍は電力を消費するのに対し、移動可能距離は半分しかなさそうだとホスター教授は言う。全電源が再生可能エネルギーがそれでも問題はないが、路上や空中で全ての電化乗り物を充電するとなると、電力系統に膨大な負荷をかけるかもしれない。

さらには、騒音の問題もある。電気エンジンは間違いなく火力エンジンよりは静かだが、たくさんのスマート・ヘリが空を飛び交うようになれば、全体としてその騒音はかなりのものとなり、世論の反発を招くかもしれない。

空は電気

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世界を揺るがす――電池で飛ぶ飛行機を目指し

「こいつら頭がおかしいと思われたみたいだ!」 。ハイブリッド飛行機を開発する米ベンチャー企業、ズナム・エアロの共同創業者で最高経営責任者のアシーシュ・クマル氏はこう言う。

2013年に同社を立ち上げた当時は、今と比べれば確かにハイブリッド飛行機という発想は突拍子もないものだったかもしれない。しかし今とはっては、電気エンジンを使う旅客機という発想を、業界は実に真剣に受け止めている。

国際航空運送協会(IATA)統計によると、地球全体の人間による温室効果ガス排出総量のうち、2%が民間の航空業界によるものだ。欧州委員会は同業界に対して、2050年までに二酸化炭素排出量を60%、亜酸化窒素を90%、騒音を75%、それぞれ削減するよう要請している。

これは現行の技術では無理だというのが、大方の専門家の総意だ。

そこでズナムは、ボーイング・ホライゾンX、ジェットブルー・テクノロジー・ベンチャーズ、ワシントン州クリーンエネルギー基金からの出資を得て、短距離フライトにつきものの費用と騒音と公害を必ず減らす電気エンジンの開発に取り掛かった。他にも複数の企業が、同様の新しい電気エンジンを作ろうとしている。

スロベニアの小型飛行機メーカー、ピピストレルや独シーメンスなどが作る、2人乗り電気飛行機は一般的になりつつあり、有望視されている。

ピピストレル社はドイツ設計の水素燃料電池式4人乗り「HY4」の製作にも関わっている。

しかし課題となるのは、多数の乗客を乗せられ、商業的に成立する電気飛行機の開発だ。

ズナム社は現在、2022年の実用化を目指して、12人乗りのハイブリッド電気飛行機の開発に取り組んでいる。それに対してイスラエルのエビエイション社は、9人乗りの電気飛行機を開発している。

ジェット燃料とは完全におさらば? いや、まだ完全にそういうわけにはいかない。

クマル氏は、非常事態に備えて45分飛行するための備蓄燃料を航空規制当局が義務付ける限り、通常のガス・タービンは必須だと認める。

電池の限界ゆえに、電気飛行機は従来のものより低い高度を、ゆっくりと飛ぶことになるが、その分だけ整備補修がそれほど必要ではなく、高く速く飛ぶよう設計された機体ほどには強度や重量を必要としない。

軽量の熱プラスチック素材を使えば、電気飛行機の製造費は安く押さえられ、操作もしやすくなる。

「少なくとも燃料費の8割は削減できると見ている」とクマル氏は話す。IATA資料によると、航空業界は2018年に1500億ドル以上を燃料費に使う。航空会社の運営予算の約2割が燃料費だと思えば、燃料費の節約は魅力的なはずだとクマル氏は期待する。

電気飛行機が着陸すれば、整備チームは空になった電池を、充電済みのものと交換すればそれで澄む。

乗客100人以上を乗せられる大型機は、17~20メガワット級の電池を必要とする。「それは大変な挑戦だ」とクマル氏は言う。

Image copyright Wright Electric
Image caption ライト・エレクトリックは翼に多数の小型エンジンを設置する設計を検討している

カリフォルニア州にあるライト・エレクトリックのジェフ・エングラー氏は、まさにその課題を克服しようと取り組んでいる。約180人が乗れるA320機級の電気旅客機を、10年以内に造るのが目標だ。

飛行距離約540キロの短距離フライトならば、電気旅客機でも十分可能なはずだと、エングラー氏は考える。

エンジニアリング会社のライト・エレクトリックは現在、9人乗り飛行機のための電池を開発している。しかし「今ある電池では不十分だ。重すぎるし、熱くなりすぎるし、発電量が足りない」とエングラー氏は認め、技術革新に期待しているのだと話す。

「10年か20年に一度のペースで、新しい化学反応が登場する。たとえば、リチウム・イオンがニッケル・カドミウムに取って代わったように。次のステップは固体電池なのかもしれないが、まだそれには10年はかかるだろう」

電気エンジンの利点は、「5~10個の小型エンジンは1個の大きいエンジンと同程度の働きをする」ところだと、エングラー氏は言う。その分、機体の設計士には工夫の余地が与えられる。たとえば、タービンを翼の一部にしたり、機体後方の翼の上に置いたりと、選択肢は様々だ。

ただし、電池技術に抜本的な技術革新がない限り、電気のみを動力とする飛行機が長距離を飛ぶのは、不可能なままかもしれない。

格安航空会社イージージェットは、多くの同業他社と同様、燃料費と二酸化炭素排出量の削減方法を模索しており、ライト・エレクトリックと正式な取り決めは交わしていないものの、協力し合っている。

さらに、航空業界大手のエアバスやシーメンス、ロールスロイスはこのほど、ハイブリッド・エンジンを共同開発し、2020年までにBAEシステムズのBAe146型の短距離機に搭載するという合同事業を発表した。「E-Fan X」と呼ぶ新型機によって、ハイブリッド技術の有効性を示し、航空各社の採用を促すのが狙いだ。

通常のターボファン・エンジン3台に加え、機体後方に設置するガス・タービンが発電機を動かし、その発電機が電気ファンエンジン1台を動かすことになる。余剰電気は電池で備蓄し、これを離陸や上昇時に使う。

エアバス社は、こうしたハイブリッド方式によって燃料燃焼量を10%減らせるし、離着陸の騒音は大幅に減り、局所的な公害も減ると話す。

シーメンス社のe航空機計画の責任者、フランク・アントン博士は、「私たちは航空の新世界へと扉を開いている。1940年代のガス・タービンや1960年代のターボ・ファンと同じくらい、世界を揺るがす技術だ」と話す。

車が飛ぶとき

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世界を揺るがす――電池で飛ぶ飛行機を目指し

人間が1人で空を飛ぶという夢は今でも、多くの発明家をとりこにしている。空飛ぶ自転車を追求する人もいれば、背負う式のジェットパックに資金をつぎ込む人もいる。

しかし、空飛ぶ自動車こそ、人が空を自由に移動する究極の象徴であり続けた。

1940年に米発明家のヘンリー・フォードはこう言った。

「私の言葉を覚えておくといい。飛行機と自動車の合体したものがいつか登場する。そうやって笑うかもしれないが、必ず登場する」

その9年後に米発明家のモールトン ・テイラーが、「エアロカー」を設計して飛ばしてみせた。フォードの概念の有効性を立証したのだ。しかし実際に作られたのは、3台にとどまった。

それ以来、空飛ぶ自動車は映画に出てくるチティチティ・バンバン(チキチキ・バンバン)並みの絵空事だった。

Image copyright Getty Images
Image caption テラフジアの空飛ぶ自動車

しかし最近では、複数の企業が道路を走行すると共に、空を飛べる試作機を作り出した。スウェーデンのボルボを持つ中国・自動車大手の吉利汽車が最近買収した、米ベンチャーのテラフジア社。ジャイロコプターを開発するオランダのPAL-V社。スロバキアのアエロモービル社。いずれも、空飛ぶ自動車の開発に取り組んでいる。

加えてエアバス社が検討している近未来的な部品コンセプトは、路上を移動する車体から分離された客席カプセルを、クアドコプター(回転翼4枚のヘリコプター)が回収していくというものだ。

しかし各社のどの発案もすさまじく高コストで、路上と空中の両方の規制基準を満たさなくてはならず、2種類の制御装置が必要で、複雑な折りたたみ式の翼やプロペラを要し、しかも滑走路から離陸しなくてはならない。

そのため、実現したとしてもどれも大衆のための実用的な移動手段というよりは、金持ちのおもちゃにしかならない。

「ロンドンのその辺の通りから離陸して、どこかその辺の道に着陸する自動車というのは、おそらく実現しない。空飛ぶタクシーのほうがあり得る」とグレイ教授は言う。

それでも発明家たちは、新しい空の飛び方を夢想し続けるし、時に荒唐無稽な自分たちのアイディアに出資者の支援を取り付けようとする。

民間航空の世界は揺るがされている。揺るがしているのは、速度やロマンスやぜいたくといった昔ながらのものを求める人たちではなく、環境の変化に人間はなんとしても対応しなくてはならないという強力な要請だ。

人工知能と自律的システムが合わさった新しい電気エンジンは、より効率的に統合され、公害と騒音も少ない新しい交通システムの実現を助けるだろう。

この展望は決して詩的とは言えないかもしれないが、「自分がどこかに旅行するとき、旅が終わる時には出発したときよりも気分が良くなっているという、そのアイディアが好きだ。今の旅行では、まったくその逆なので」とグレイ教授は言う。

確かに、それが実現できれば、かなりの飛躍だ。


<英語記事 Up, up and

(DXCテクノロジーと共同企画記事)

記者:マシュー・ウォール

シリーズ・プロデューサー:フィリパ・グッドリッチ

ビデオ製作:エイドリアン・マリー

ビデオ編集:サラ・ヘガティー

オンライン製作:ハープーン・プロダクションズ

編集:ロブ・スティーブンソン

製作責任:メアリー・ウィルキンソン

プロダクション・チーム:

  •  ハンス・ショイエルテ(ドイツ)
  •  トレイシー・ラングフォード、スティーブン・ロジャース(英国)
  •  イアン・カートライト、モニカ・コーエン、ゾーイー・トマス、ジェイムズ・クック(米国)

グラフィック・アーティスト

  • スー・ブリッジ

写真

 BBC、ゲッティ・イメージズ、ボロコプター、テラフジア、エアバス

○ BBC「世界を揺るがす」シリーズ これまでの記事

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