世界を揺るがす――スマート・エネルギーの新風

トム・エスピナー

エネルギー業界に新風が吹き、世界が揺るがされている。

人は命と情報、そしてより良い生活の質を求める。それには、エネルギーが必要だ。

気候変動対策の数値目標が導入され、再生可能エネルギーの需要が高まるにつれ、その新しいエネルギーをいかに賢くさばくかが課題となっている。そしてそこに、企業の競争機会が生まれている。


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世界を揺るがす――電気をためる

先進国の大半の場所では、スイッチひとつで電気がつくし、洗濯機やテレビやコンピューターがつく。それが当たり前のこととなっている。

そして発展途上国の多くの場所では、エネルギーの需要は高まる一方だ。電力系統の恩恵をいくらかでも受けている人たちは、停電に巻き込まれたくないのだ。

あらゆる電力供給は多かれ少なかれ、断続的なものだ。しかし、再生可能エネルギーの発電量はその性質からして、瞬間瞬間の需要に対して過不足が出る。

それゆえに、再生可能エネルギーの拡大は、蓄電システムの需要急増につながると期待されている。蓄えた電気があれば、電力供給の過不足を平準化し、安定供給を実現できるからだ。

「電力を作り出すのがどれほど大変なことか理解すれば、蓄電の必要性が浮き彫りになる」。英サセックス大学のベンジャミン・ソバクール教授(エネルギー政策)はこう指摘する。

「というのも、それはつまり稲妻を瓶詰めするようなものなので。それに、とてつもなく複雑な作業だ。供給が即座に需要にマッチしなくてはならないという、非常に独特のものだ」

世界中で176カ国ほどがクリーンエネルギー政策を取り入れているが、それでも世界はいまだに石油やガス、石炭といった化石燃料に依存している。一方で、国連の気候変動専門家たちは、私たちが化石燃料を使い続ければ「人類と生態系に深刻で、絶え間なく不可逆な影響を与える」と結論している。

科学界の先駆者で、強烈に世界を揺るがしてきたジョン・グッドイナフ教授(95)は、人類はエネルギーの製造と貯蔵方法を根本的に考え直さなくてはならないと言う。

「現代社会は、化石燃料に蓄積されているエネルギーを動力源にして動いている。その依存性は、持続不可能だ。なので私たちはきわめて近いうちに、太陽からエネルギーを採取し(大型)電池に貯蔵する方法を見つけなくてはならない」

1970年代にリチウムイオン電池を発明したグッドイナフ教授は、今もテキサス大学オースティン校で電池技術の研究を続けている。

Image caption ジョン・グッドイナフ教授

「太陽光発電電池よりも良いものを作れると期待している。まだ少し高値だが、研究は着々と進んでいる。太陽からエネルギーを収穫できるようになる」

「ただし、太陽光エネルギーを電力に転換後、それを蓄電できるようにしないと、増減する需要に対応できない」

さらに、グッドイナフ教授が指摘するように、大型のリチウムイオン電池には欠点もある。

「かなりの注意が必要だ。大型電池を作ったら、たくさんのセル(単電池)を管理しなくてはならない。たとえばテスラの電気自動車は7000個のセルを使う。その全てをしっかり管理する必要があるが、(テスラ社創業者のイーロン・マスク氏は)よくやっている」

テスラは自社の電気自動車用に電池技術と製造に投資を続けてきた。今では、停電問題を抱えてきた地域に大規模蓄電システムを設置する事業に取り組んでいる。最近では、南アフリカ・ホーンズデールで世界最大のリチウムイオン電池を稼働させた。

Image caption デンマークの公益事業法人、フレデリクスベア・フォルシュニンは日産のオール電化ワゴン車を採用し、特別の「双方向」充電スポットを10カ所設置した

動くストレージ

電気自動車そのものも、蓄電装置として使える。自動車のバッテリーから電力系統に電力を供給する、いわゆる「V2G」(Vehicle to Grid=自動車から電力系統へ)は、要するに電気自動車を動く電池として扱う発想だ。

日産やBMW、ホンダといった自動車メーカーは、このV2G技術の可能性を電力会社やソフトウェア会社と一緒に模索しているところだ。

日産はデンマーク・フレデリクスベアで地元の公益事業法人、フレデリクスベア・フォルシュニンや米ソフトウェア会社のヌービー、イタリアの大手電力会社・エネルギー会社のエネルと提携している。

フレデリクスベア・フォルシュニンは、多数の車両を日産のオール電化ワゴン車に交換し、特別の「双方向」充電スポットを10カ所設置した。エンジニアたちは朝に事業用車両を充電スポットから外して市内各地の作業に向かい、午後には充電スポットに車を戻す。

電気自動車の電池はその後、電力系統が活用する。

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世界を揺るがす――自分の自動車で発電と蓄電

米デラウェア大学が開発したヌービーのソフトウェアは、電力系統に接続し、どれだけの電力が必要かを常にモニターする。供給量が乱れれば、ただちにシステム上に多数ある電池に働きかけ、数秒以内に平準化する。

「私たちはこれを、バーチャル発電所と呼んでいる」。ヌービーの欧州事業を統括するマーク・トラハンド最高執行責任者(COO)はこう言う。「大量の小さい電池をすべて合わせれば、大型発電所に匹敵する。それを電力系統に接続して稼働させることができる」。

しかしその場合、エンジニアたちが朝の現場へ向かうため充電スポットに着いてみたら、電力系統がバッテリーから電力をすべて「盗んで」しまっている、電池は空っぽだ――という事態にならないためには、どうすればいいのか。

「毎日の稼働が何より大事だ」。フレデリクスベア・フォルシュニンの人事・戦略責任者、クリスティアン・バイヤー氏はこう言う。社員は各自、車の電池量を管理できるアプリを使っているという。試行錯誤の末、朝の時点で電池にどれだけの電力量が必要かを割り出した。

電気自動車は電力系統の需要が高い時に役立つだけでなく、風のよく吹くデンマークで発電過剰になっている時にも有効だと、バイヤー氏は話す。

「発電されている時に蓄電すればするほど、インフラを有効活用できる。せっかく作られた電気を無駄にしていることがあるので、それを溜めて使った方が、発電所を作ったりするよりよほどいい」

V2G方式では、電気自動車の持ち主が車を電力系統に提供することで、報酬が得られる仕組みだ。

しかし、V2Gに詳しい英ウォリック大学のコタブ・ウディン博士(OVOエネルギーの蓄電事業責任者)は、V2G技術が商業的に成立するには、V2Gで自動車バッテリーが摩耗することはないと自動車オーナーを安心させなくてはならないと指摘する。

バッテリーから電力を取り出し、充電を繰り返する場合、充電中の周辺気温や自動車の利用状況によっては、バッテリーの消耗につながる。

こうした問題に対応するには、賢い充電が答えだとウディン博士は言う。

「インテリジェントなシステムを使えば、消耗度を最小化し、電池寿命をむしろ伸ばすV2Gが可能だ」

電力の地産地消

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世界を揺るがす――電力系統のないところで電気を確保

発展途上国には現在、電力が使えない人が10億人以上いると言われる。

国際オフグリッド照明協会(GOGLA )の代表責任者、コーエン・ピーターズ氏は、これに加えてさらに10億人が、電力供給が不安定な地域に暮らしていると話す。これはつまり、オフグリッド(電力系統から外れた独立型)の再生可能エネルギーの需要がそれだけあるということで、巨大市場になり得るとピーターズ氏は言う。電力系統につなぐための施設整備の費用が経済的に成立しない地域では、特に重要が見込めると。

「市場としての見込みをまだ探り始めたに過ぎない」

集約型のエネルギー供給システムを経由せず、地域独自でエネルギーを貯蔵するという取り組みに、関心が高まっているのは明らかだ。GOGLAによると、オフグリッド(独立型)太陽光発電システムの需要は2010年以降、6割ほど伸びている。

業界大手のM-Kopa Solar、アズーリ、D.light、 BBoxxといった各社は、この需要を踏まえて、アフリカ各地やアジアの一部で家庭用ソーラーパネルや照明、電池の売り込みに力を入れている。

各社が住宅に設置するソーラーパネルによって、日中に電池を充電する。利用者は電池にたまったエネルギーを、夜間の照明や携帯電話の充電に使える。

Image caption 太陽光発電からためた電気で夕食の食卓にも灯りがついた

ほかにも、視聴分だけ料金を払う仕組みの衛星テレビ・ラジオといった、オプションもついてくる。

Bboxxのルワンダ責任者、モニカ・ケザ・カトゥムウィン氏は、利用者の必要容量を遠隔モニターできるのが自分たちの会社の特徴だと話す。

「ほとんどの人は子供の頃、電力系統から電気を得ていた。(中略)今では、電力の受け取り方を変えようとしている。電力を同じように使うにしても、電線や電柱などの装備が不要な状況を目指している。電力系統と同じサービスを提供しながら、物理的にはつながっていない、なにもかも遠隔操作されている仕組みだ。電力の供給方法を、それだけ揺るがそうとしている」

カトゥムウィン氏によると、料金の95%は通信会社との合意のもと、電子決済で支払われる。月単位で払うこともできる。銀行での前払いも可能だ。

同業各社と同じようにBboxxも、利用者への融資も提供する。そのメリットは「明らかだ」とGOGLAのピーターズ氏は言う。支払いが分割できれば、より大勢が、この発電システムで電力の恩恵を受けられる。

ただしその反面、融資する側の負担も大きく、その費用は結局は利用者に降りかかるという問題もある。

「発展途上国で融資を提供するのは、非常にコストがかかる」とピーターズ氏は言う。そのせいで、製品価格が「かなり跳ね上がる」。

それでも、問題よりもメリットの方がはるかに大きいとピーターズ氏は話す。

「こうした(発電)サービスを使えるようになれば、生活の質はとてつもなく変わる」

GOGLAによると、オフグリッド太陽光発電に対する投資家の関心も2014年以降、高まりつつある。しかし、業界の拡大を特に妨げる要因のひとつが、資金不足だとカトゥムウィン氏は言う。

「太陽光発電の技術はまだ比較的新しい。まだあまり経験や業績の蓄積がない分野なので、投資してくれる人を見つけるのが大変だ」と

Bboxxや同業各社は、個別世帯の民生需要を取り扱っている。しかし、太陽光や水力、バイオマスなどの発電力と安定性を拡大するには、ミニグリッド(小規模電力網)にしてつなぎ、地域の電力需要に対応させるのも、一つの方法だ。

国際環境開発研究所(IIED)のミニグリッド専門家、サラ・ベスト氏は、「ありとあらゆる」組織が提供できるミニグリッドを使えば、地域社会に大いに役立つと話す。ミニグリッドが生み出す電力は、溶接や大工道具に使える。そうすれば、地域住民が個人事業主になる一助にもなる。

大きく考える

Image caption スイス・アラカエスは山の斜面に蓄電用の空気を貯蔵している

世界人口の増加に伴い、世界のエネルギー需要は2040年までにとりわけインドと中国、そしてアフリカ諸国で伸びると予想されている。

これによって、再生可能エネルギーの対応能力も、特に都市部で拡大しつつある。

私たちはもはや、化石燃料には頼れない。気候変動対策の規制は過去20年の間に20倍に増えた。そのひとつの到達点が、2015年のパリ協定だった。

だとすると、再生可能エネルギーの供給拡大や効率化と平行して、大規模な蓄電システムを確保するには、どのような画期的な方法があり得るのか。

現在は、水を低位置の貯水池から高位置のダムに汲み上げておき、電力が必要な時に下へ落として発電する揚水式発電が、世界の蓄電の約95%を占める。19世紀末に最初に実用化したこの技術は、成熟技術と言えるだろう。

技術的に確立しているこの蓄電方法は今後も伸びるだろうが、今の圧倒的な地位は2030年までには下がり、地球の半分でしか今ほど使われなくなるだろうと言われている。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、それまでに他の蓄電技術が追いつくからだ。

再生可能エネルギーの専門メディア、グリーンテック・メディアの蓄電責任者、ラビ・マンガーニ氏は、他の蓄電方法も検討に値すると話す。

「圧縮空気も、面白い技術だ。大量保存の方法として使えるかもしれない」

冷気圧縮蓄電の可能性を調べている会社のひとつが、スイスのアラカエスだ。山の斜面にドリルで穴を開け、タービンの動力となる空気を貯蔵している。

「特定の地理的条件が必要なのが、この技術の欠点だ。地下洞窟が必要で、それ自体がすでに技術の応用を制限している」とマンガーニ氏は言う。

冷気圧縮などの新しい技術は、「確立された既存の技術と同じくらい信用できる」と市場を説得しなくてはならない。

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世界を揺るがす――冷気で電気をためる

しかし、2005年に英国で設立された「ハイビュー・パワー・ストレージ」は、冷気圧縮技術の可能性を確信している。このため同社は、世界初だという独自の冷気技術を開発中だ。この技術は「ほとんどどこでも」使えるのが特徴だという。

同社は冷却装置によって空気を零下196度にまで冷やし、液化したその空気を低気圧状態で保管する。

液化空気はすでに確立した技術だが、ハイビューは別次元の応用に取り組んでいる。

同社は英北部マンチェスターに近いバリーにあるピルズワース蓄電施設に、模擬発電所を作った。埋立地の余剰ガスを燃やして作る熱を使い、液化窒素を膨張させ直すのだ(窒素は大気の約8割を占める)。液化窒素をタービンを通して気体に戻すと、タービンが回って発電し、電力系統に電力が供給されるという仕組みだ。

この計画は今後数カ月の内に、英国の電力系統に組み込まれる予定だ。

Image caption ハイビュー・パワー・ストレージは冷気による蓄電技術を開発している

同社の技術責任者、スチュワート・ネルムズ氏は、蓄電市場は「まだまだ発展途上段階」にあると話す。

「脱炭素の未来を目指すなら、本格的な供給網の規模と長期的な蓄電技術が必要だと、世界は気付き始めている。この技術は鍵となるものだ」

液化空気の技術を使うと、大量のエネルギーが長期的に保管できる。

「一番に使うのは今後も電池だ。誰にとっても電池はおなじみだし、小型化できる。けれども液化空気はかなり変わった技術で、これこそが業界を揺るがすものになる。市場のなかで、すでに確立した主要技術に変わるものにしなくてはならない」

まだ本格的に実用されていない蓄電技術に、首をかしげる専門家もいる。

ソバクール教授は、液化空気貯蔵(LAES)には一定の期待が持てるが、まだ疑いの目を向けている。教授はそもそも、「技術的にはあり得るが、まだまだ途上段階にある」技術に懐疑的なのだ。

「今のところ当面は、そしてパリ協定の合意と惑星の健康のためには、この当面の近い将来こそが大事なのだが、この間に経済的ないしは社会的に実用可能な大規模蓄電システムといえば、揚水発電や圧縮空気蓄電しかないだろう。もしかすると、フライホイール蓄電もあり得るかもしれない」

どの技術の有効性が実証されるにせよ、エネルギーの地平は変化しつつある。そして、電力や自動車、データなど各分野の企業が、一緒になって答えを模索している。

「一発必中」の技術はない。それだけに蓄電技術の問題は、個人やベンチャー企業、地域社会や市町村がそれぞれの形で、解決に向けて取り組んでいる。これまでエネルギー市場を独占していた巨大企業に、様々な当事者が挑戦することで、答えが見つかっていくのだろう。


<英語記事 The Disruptors: Smart Power

(DXCテクノロジーと共同企画記事)

記者:トム・エスピナー

シリーズ・プロデューサー:フィリパ・グッドリッチ

ビデオ製作:エイドリアン・マリー

ビデオ編集:サラ・ヘガティー

オンライン製作:ハープーン・プロダクションズ

撮影チーム:

  • ハンス・シャウエルテ(デンマーク)
  • ニック・ウーリー(英国)
  • ジャンレナード・カルランガ、イーブ・バクヤナ(ルワンダ)

編集:ロブ・スティーブンソン

製作責任:メアリー・ウィルキンソン

写真

 BBC、ゲッティ・イメージズ、ジョン・グッドイナフ、MKopa

グラフィック・アーティスト

  • アオイフェ・マッケナ

○ BBC「世界を揺るがす」シリーズ これまでの記事

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