【寄稿】歴史的な南北会談、恒久的な平和に結び付くか?

ジョン・ニルソン=ライト博士、ケンブリッジ大学および英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)

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金正恩氏歓待 儀礼に彩られた首脳会談の1日を振り返る

27日に行われた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の劇的な会談は、少なくとも両国が和解したというイメージと、韓国社会に気分の高揚を与えたという点では、実に明白な歴史的突破口を提示したと言える。

一方で、この会談で発表された共同宣言――朝鮮半島の平和と繁栄、そして統一をうたった新たな板門店宣言が実際には何を提示しているのか、南北両国や、より広範囲な国際社会を恒久的な平和へと推進させる確固とした方策があるのかについては、疑問が残ったままだ。

1953年に朝鮮戦争の休戦協定が結ばれて以来初めて、北朝鮮の指導者が韓国に入ったことの象徴的な意味を過小評価することはできない。

金委員長が、名目上とはいえ敵地に堂々と入るという決断をしたことは、この若い独裁者の自信と政治舞台における鋭い嗅覚、そして巧みなタイミング操作の表れと言える。

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金正恩委員長、韓国入りの瞬間

彼が文大統領を一瞬だけ北側に招き、共に南側へと戻った一連の仕草は器用で、その場で考えついたかのように見えた。両国とその指導者が対等だと世に示すにはきわめて優れた方法だった。

さらに言えば、南北間の国境をあいまいにすることで、両国が長らく模索してきた統一というゴールを示唆したことにもなる。

この日は最後まで、史上初の場面と注意深く計画されたイメージの連続だった。両首脳は青空の下でざっくばらんに、そして親しげに会話を交わした。北朝鮮と韓国が自らの運命を決めるための新たな力強い文脈を、慎重にではあるが、一歩先に進めた格好だ。

朝鮮半島は古くは中国や日本、そして冷戦中には米国や旧ソ連といった超大国の利益に振り回されてきた。今回の会談で交わされた握手と大きな笑顔、抱擁は、2カ国がこうした過去の記憶を相殺し、自らの未来を決定しようというメッセージを強調した。

Image copyright Reuters
Image caption 金委員長と文大統領は、「敵対行為」の停止を明らかにした

国際メディアの前で行われた共同声明もまた、金委員長にとっては自らに対する先入観に挑戦する完璧なタイミングだった。

報道陣に対して自信と落ち着きに満ちた発表をする様子は、彼の世間から離れた頑固で横暴な指導者というイメージを、平和と国家の和解のために働こうとしているごく普通の人間的な政治家に、一気に変化させた。

懐疑派はこれを、金氏の安易なプロパガンダの勝利と見るだろう。あるいは、北朝鮮が「段階的な(中略)非武装化」の名の下に勝ち取ってきた核とミサイルによる優位性を確固たるものにする策略と取るかもしれない。北朝鮮はこれまで段階的な交渉が必要だと強調しながら、事態が急激に進展するという期待を意図的に避けてきた。

今回の共同声明は、統一や敵対行為停止を盛り込んだこれまでの共同宣言を踏襲したものとなっている。南北首脳は過去、1991年、2000年、2007年にそれぞれこうした条約を取り交わしている。

過去の宣言には共同連絡事務所の設置、軍部の対話や信頼構築に向けた対策、経済協力、両国の市民の接触拡大などが盛り込まれていた。

しかし今回の板門店宣言では、その内容がより具体的になった。例えば、「地上と海上、空中をはじめとするすべての空間で(中略)相手に対する一切の敵対行為を全面中止」することを約束したほか、両国による信頼構築に向けた施策をいち早く実行するため、さまざまな期日を設定した。

これには、5月1日から軍事境界線上の非武装地帯における「全ての敵対行為」を停止すること、5月に二国間の軍事協議を行うこと、2018年のアジア大会に共同で参加することなどが含まれる。離散家族の再会事業は8月15日までに開始される見通しだ。

そして何よりも重要なのは、今秋にも文大統領が北朝鮮を訪問することが決まったことだろう。

平和に向けて最初の、しかし少し大きな一歩を踏み出そうというこの宣言は、両首脳が抗えない勢いと切迫感を生み出そうとしていることに起因しているようにも思える。

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共同宣言はさらに、中国と米国のどちらか、もしくは両方が参加する、将来の平和協定に向けた対話の対話をうたった。

拘束力のある外部アクターを、重要な問題を前に進めるための、確実ながら変化していく行程表に加えることの必然性は、半島内での紛争のリスクを低めることにある。韓国と北朝鮮の両国が避けようとしてきたリスクであり、「炎と激怒」などのドナルド・トランプ米大統領による過去の敵意に満ちた言葉も、その恐れを裏打ちしていた。

文大統領が任期5年の序盤にいることを考えれば、時間稼ぎは実行可能な選択肢だ。これは2000年と2007年の南北首脳会談と著しく異なる。当時それぞれ韓国の指導者だった金大中(キム・デジュン)元大統領と盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は、いずれも既に大統領任期のかなり後期だった。

なので、文氏は金氏との繰り返しの会合や、文氏と金氏の2人ともが対話の定例化と宣言に含まれた広範囲な取り組みの進展に本心から興味を示していることに期待することができる。

首脳会談における金氏自身の声明も、アイデンティティ・ポリティクス(属性に基づいた政治)を支持する口頭での主張だった。声明では「一つの国家、一つの言語、一つの血」が強調され、両国間における将来的なあらゆる紛争の否定が繰り返された。この2つの主題は、必ずしも極端ではないものの自信に満ちた愛国主義に従来から共感しやすい韓国の世論にうまく作用するだろう。

Image copyright AFP
Image caption トランプ大統領は北朝鮮に最大限の圧力をかけ続けると表明した(27日)

声明で韓国と北朝鮮が共通の未来への決意をどんなに強調しても、米国の決定的な重要性からは逃れられない。

大きな期待を集めるトランプ米大統領と金委員長の首脳会談は5月か6月初めに開催される予定で、紛争の平和的解決に対する北朝鮮の約束の誠意を試す決定的な機会になる。

北朝鮮政府が公言する「非核化」への約束は、米政府が要求する「包括的で、検証可能で、付加逆な」核兵器放棄とは非常に異なる可能性が高い。

米朝首脳会談はこの問題に関する米国と北朝鮮の距離を測る手段であるだけでなく、北朝鮮との意見の隔たりを縮めるための戦略を米国がどの程度作り出せたかを評価する重要な機会にもなる。

文大統領はおそらく、トランプ大統領の自尊心を高めることが戦争の危機を最小化し、トランプ氏に北朝鮮との会話に関わらせ続ける最も良い方法だと認識した上で、韓国と北朝鮮間の関係の飛躍的前進にトランプ氏が大きな功績を果たしていると自認することを許してきた。

板門店での首脳会談の長期的、実質的な成果が何であれ、この出来事は両首脳の政治的な抜け目なさ、外交的な機敏さ、そして戦略的視野を記憶に残る形で示した。

27日の劇的な出来事は、人間性やリーダーシップが歴史的な変化に影響しする主要因になり、時には比較的小さな国がより大きな、強い影響力を持つ国と利害を競いながらも、自らの利益を上げることができることの証左だ。

ジョン・ニルソン=ライト博士は、英シンクタンク「チャタムハウス」(王立国際問題研究所)北東アジア担当上級研究員、およびケンブリッジ大学日本政治東アジア国際関係上級講師

(英語記事 Will historic Koreas summit lead to peace?

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