米朝首脳会談中止 米外交の何が明らかになったのか

ジョナサン・マーカス BBC防衛・外交担当編集委員

トランプ氏はこのところ、複雑な外交問題について物議を醸す決定を重ねてきた Image copyright EPA
Image caption トランプ氏はこのところ、複雑な外交問題について物議を醸す決定を重ねてきた

米外交にとって極めて大きな局面だったこの6週間は、北朝鮮との首脳会談中止の決定で幕を閉じる。

この展開は、ドナルド・トランプ米大統領の外交方針を理解する手がかりとなった。それは友好国にとっても仮想敵国にとっても、同じくらい気がかりなものかもしれない。

4月中旬にはシリアのアサド政権による化学攻撃疑惑への制裁として、シリア空爆を主導した。

それから1カ月もしないうちに、トランプ大統領は「包括的共同行動計画(JCPOA)」、つまりイラン核合意から離脱すると決定した。トランプ氏はイラン核合意について、米国にとって悪いし、中東地域の友好国にとっても悪い内容だと常に主張していた。

5月中旬には、象徴的な意味合いから在イスラエル米大使館のエルサレム移転を実施し、もう1つの選挙公約も守った。

そして、それから約10日後のこのタイミングで、トランプ氏は北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との首脳会談を中止した

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公約の遵守

トランプ氏が確実に示したことが1つある。2016年米大統領選で掲げた選挙公約を実現しようという意欲だ。

しかし、イラン核合意からの離脱と在イスラエル米大使館の移転という2つの決定はどちらも、広い文脈や、決定の影響をほとんど考慮しない形で決まった。

米大使館のエルサレム移転は、単独の決定だった。イスラエルとパレスチナの和平を進展させる幅広い取り組みの一部とという認識は、まったくなかった。

ガザ地区における緊張悪化の真っ最中に、トランプ政権は大使館移転を決めた。イスラエルの強硬な治安維持戦術や、武装勢力ハマス指導部のシニカルな態度とあいまって、米国の決定が暴力を強く煽った可能性がある。

トランプ政権は、独自の中東和平案を推進するとさかんに喧伝(けんでん)するが、それは影も形もない。

イラン核合意に関しても、明確な戦略的視点は見受けられなかった。離脱によって究極的には、イランの核核発が制限しにくくなるのではないか?  北大西洋条約機構(NATO)加盟国の、特に米国の主要同盟国との関係が、これで一層悪化するのではないか? 中国やロシアなど、国際社会の主要国と米国の間で、さらに緊張の次元が増すのではないか?

これに先立つシリア空爆は、アサド大統領に、これ以上はもうあり得ないという我慢の限界を示すのが目的だったはずだ。

しかしこれもまた、大局的な戦略はどこにあったのか? トランプ氏はシリアから米軍を引き上げたいと発言してきたが、これは政権の別の目標に真正面から矛盾するように思える。トランプ政権は別の局面では、シリアや周辺地域で強まるイランの影響力を封じ込めて制限するという目標を掲げているのだ。

金正恩氏の撮影チャンス

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Image caption 金氏とトランプ氏の間で、昨年のような中傷合戦が復活するのだろうか

そして今回の、首脳会談中止決定だ。トランプ氏は、シンガポールで予定されていた会談に出席しないと発表した。ほかの外交案件とは別の問題があったのだろう。それはつまり、過度な楽観主義と、ただひあすら経験あるいは現実主義が欠けていたのだ。

北朝鮮は間違いなく、相手をしにくい国だ。過去の米政権も、北朝鮮との協定を目指した。2度合意したものの、2度とも決裂した。

米国側は今回の交渉破綻について、合意可能だったかもしれない詳細について北朝鮮側に働きかけたものの、ほとんどなんの反応も得られなかったと説明している。

どうやら、首脳会談は金正恩のための写真撮影の場にしかならなそうで、それは米政権としては全く受け入れられないことだったのだろう。

しかしこの顛末(てんまつ)からは、個人の個性や人間関係に激しく依存し、てんでバラバラな形で外交に取り組むトランプ外交の、別の側面が見えてくる。

首脳会談のアイデアは、ほとんど振って湧いたかのようにどこからともなく出現した。米朝がお互いを核で脅しあい、罵り合いがひたすら悪化していた状況において、それはありがたい解毒剤のように思えた。

けれども、ほとんど死産に近いアイデアだった。準備時間はあまりにも短すぎた。準備作業もほとんどできていなかった。懸案の課題はあまりに複雑で、両国の隔たりはとても埋められないように見えた。

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国務省のあちこちに空席

そもそも、「首脳会談」というアイデアを走らせること自体が大体において、トランプ氏のエゴと、自分は取引の名手だという誇大な確信の表れでしかなかった。しかし、はっきりさせておく必要がある。外交とは、そういうものではないのだ。

米国の外交政策決定は現在もっぱら、大きな空白を抱えた状態で動いている。米国務省内では、あの地域やこの地域について政策の要となるべき次官補がいるはずのフロアが、ほとんどガラガラな状態のままだ。欧米の外交幹部は、よくこの点を指摘する。各地域担当の次官補は単純に、まだ任命されていないのだ。

イラン核合意の後継協定を米側と交渉する欧州各国の政府はだからこそ、自分たちの働きかけが米政府の外交政策決定プロセスをまったく上っていかないことに気づいて、愕然としたのだ。米外交政策を決める仕組みの随所で、不可欠な部品がそもそも欠けていたのだ。

国務省の停滞と士気低下という問題は、新しく米国務長官になったマイク・ポンペオ氏が解消するかもしれない。何はともあれ、やらないよりましだとしか言いようがない。

それでもすでに、とてつもなく重大な外交政策がこの状態で決まってしまった。米国と世界はその結果と共に生きていかなければならない。

(英語記事 Trump and North Korea: What cancelled summit reveals about US foreign policy

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