【寄稿】 米朝首脳会談はなぜ破綻したのか

アンキット・パンダ 全米科学者連盟(FAS)非常勤シニア・フェロー

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米国と北朝鮮はここ数週間、強い調子でお互いを批判し合っていた。ドナルド・トランプ米大統領による首脳会談の中止通告は、その挙句のことだった。外交専門誌「ディプロマット」編集者で全米科学者連盟(FAS)上級研究員のアンキット・パンダ氏が解説する。


米東部時間24日午前に公表した書簡で、ドナルド・トランプ米大統領は、6月12日にシンガポールで予定されていた米朝首脳会談を中止すると宣言した。実現していれば、前代未聞の歴史的な会談となるはずだった。

大統領は、北朝鮮の「強烈な怒りとあからさまな敵対心」を理由に、中止決定を正当化した。これは、北朝鮮の国営・朝鮮中央通信(KCNA)が24日に伝えた、崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官の発言を念頭に置いたものと思われる。

外務次官は、マイク・ペンス米副大統領を「愚か」、「政治的なまぬけ」などと非難した。もし金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が米国との取引に応じなければ、攻撃も辞さないという、トランプ氏の以前の発言を、副大統領は繰り返した。それに対する北朝鮮の強烈な反応だった。

しかし、首脳会談が破綻したきっかけは、究極的にはジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)にあった。米国が北朝鮮からどれほどの譲歩を期待すべきか、ボルトン氏は期待値を成層圏レベルにまでとてつもなく高めることに、精力を費やしていた。

ボルトン氏は「非核化」目標を最大化させた。北朝鮮はシンガポールで、核兵器だけでなく、生物化学兵器を含むあらゆる大量破壊兵器を手放すべきだと、期待値を高めたのだ。

そうしながらも、ボルトン氏はおそらく一度たりとも、北朝鮮に対する外交手続きの成功を本気で期待したことはなかったはずだ。


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トランプ大統領の国家安全保障問題補佐官になる数週間前、当時は民間人だったボルトン氏は、直接会談を求める金委員長の呼びかけにトランプ氏が応じたことについて、会談に至るプロセスの目標は、「自分たちが求める結果を決して生まない交渉に、無駄に費やす時間を、あらかじめ短縮すること」に他ならないと発言していた。

北朝鮮との交渉で米国が何を求めるべきか。ボルトン氏の最大化構想は後に、「リビア方式」と呼ばれるようになった。これは、2003年にリビアのカダフィ政権が制裁解除と引き換えに大量破壊兵器を手放した経緯を指す。リビアではこの後、2011年に政権が崩壊し、最高指導者のカダフィ大佐が殺害された。北朝鮮はかねてから、リビアとの一切の比較を嫌悪し、最近の相次ぐ発言でそのように言明していた。

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Image caption リビアのカダフィ政権は2011年に崩壊した

崔外務次官は、リビアとの比較に激しく反発し、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルに熱核兵器(水素爆弾)を搭載できる完全な核保有国だと指摘した。それに比べればリビアは、核開発の端緒に着いたばかりの、国際社会のつまはじき者に過ぎず、「道具をいくつか導入し、いじっていただけだ」と外務次官は嘲笑した。

首脳会談の開催が絶望的になったのは、報道陣を前に即興で話していたトランプ大統領が、2003年のリビアの核放棄(いわゆる「リビア方式)を、2011年のカダフィ政権破綻とごっちゃにした瞬間だった。米国主導の欧米諸国が介入した2011年、欧米が支援する反政府勢力がカダフィ大佐を殺害したのだ。

これこそ金委員長がリビアの経験から学んだことだった。米国の働きかけによる核放棄に応じるなどしたら、遅かれ早かれ、自分自身がおしまいだと。

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北朝鮮は事実上、トランプ氏の発言を脅しだと受け止めた。ペンス副大統領が別のインタビューであらためてこの大統領発言を繰り返したことで、大統領のその場の勢いの発言があたかも、熟慮された米国の外交方針のように見えてしまった。つまり、金委員長がシンガポールを訪れて、万が一にも米国の要求に応じないようなことがあれば、米国の軍事行動が待っていると受け止められたのだ。

複数の関係者が明らかにするように、一方のトランプ政権は、北朝鮮が明らかにしていた交渉方針をまじめに受け止めなかった。(トランプ氏自身の書簡によると)会談中止の直接原因となった崔外務次官発言の前にも、北朝鮮はボルトン発言に不快感を示し、さらには核攻撃能力のある爆撃機を含む米韓合同空軍演習に反発していた(北朝鮮はかねてから、米韓合同軍事演習を威圧的だと批判している)。

それでもなお北朝鮮の不快感が伝わっていなかったとしても、北朝鮮は今月初めにシンガポールで開かれた実務者級協議を事実上すっぽかしたと言われている。

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Image caption 韓国には約3万人の在韓駐留米軍がいる。写真は2017年4月、ソウル近郊撮影
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Image caption 2017年12月の米韓合同軍事演習

さらに深刻なのは、首脳会談中止に至る交渉過程で、米政府は何の費用も負担していないし、何も譲歩していないというトランプ政権の発言だ。これは事実と異なる。韓国政府はトランプ氏による会談中止発表に完全に不意を突かれた様子で、これはのるかそるかの大事な時期に、米国にとって重要な同盟関係にストレスを与えた。

第2に、北朝鮮が核実験場廃棄の公約を履行したかに見えたそのわずか数時間後に、会談を中止したのは、国際社会に対する米国のイメージにとってマイナスだった。

これでは、まるで米政府が扱いづらいわがままな交渉当事者に見えてしまった。北朝鮮外務官僚がきつい言葉を使ったからといって、有望な外交プロセスを進んで台無しにしたのは、米国の方だという風に見える。

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今後の展開としては、トランプ氏が北朝鮮は不誠実で嘘つきだと非難しはじめることも十分可能だ。自分をだまし、自分がノーベル平和賞を受賞するチャンスを駄目にしたのだからと。

しかし、北朝鮮の交渉姿勢は常に一貫していた。金委員長が中国の習近平・国家主席と2度にわたり会談しても変わらず、4月27日の南北首脳会談を経ても変わらなかった。

金委員長が会談実現に取り組みたい場合は、トランプ氏の書簡はそのための筋道を用意してあるようにも見える。トランプ氏は委員長を「閣下」と呼んで同輩として扱い、そして「なにより大事なこの首脳会談について、もし考えが変わるようでしたら、ぜひ遠慮なく私に電話するなり手紙を書くなりしてください」と結んでいるのだ。

しかし、金委員長がこの申し出に喜び勇んで応じることはないだろう。首脳会談から北朝鮮が得るものは多いが、仮にドナルド・トランプ氏に会うことにした場合、どういう展開が待ち受けるかほとんど予想できない。北朝鮮政府はそのことを理解したのだろう。

北朝鮮のこの見方は正しい。トランプ政権は、北朝鮮を相手にした極めてリスクの高い外交交渉で、自分たちが何を求めているのか、はっきり分かっていないのだから。

(英語記事 Kim Jong Un-Trump summit: How did it all fall apart?

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