米朝首脳会談の議題にならないこと たとえば人権問題

In a photo taken on November 21, 2017, children stand besides a railway track in the industrial city of Chongjin on North Korea's northeast coast. Image copyright Getty Images
Image caption 北朝鮮の子供の多くは基本的な教育は受けるが、早い時点で学校に行けなくなる子供も多い。写真は2017年11月、北部・清津市で

もし歴史的な米朝首脳会談が実現すれば、ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長はシンガポールで12日、面と向かって対面することになる。

国連は北朝鮮の住民が「広範かつ体系的で深刻な人権侵害」が続く社会で、生活を余儀なくされていると非難する。しかし、米朝の両首脳が会談しても、人権問題はおそらく確実に、議題にならない。

今のところは後回しにされた議題はいくつかある。

完全統制

世界から隔絶された状態で、北朝鮮は金一族が3世代にわたり支配してきた。住民は金一族と今の最高指導者、金正恩氏に絶対忠誠を誓わなくてはならない。

国家が何もかも統制し、巨大な監視網を使って積極的に国民の動向を偵察している。

経済も厳しく統制され、国内各地で食料や燃料をはじめ生活必需品が大幅に不足しているにもかかわらず、政府は資金を核・ミサイル開発につぎ込んでいる。

国際人権団体「ヒューマンライツ・ウォッチ」(HRW)アジア局長のブラッド・アダムズ氏はBBCに、莫大な資金のかかる核開発計画を北朝鮮が進めてこられたのは統制国家だからで、そうでなければ不可能だったと話す。しかも、「北朝鮮の飢えた国民から食料を奪って」初めて可能だったと。

報道統制

北朝鮮はおそらく、世界で最も報道機関を厳しく統制している国と言えるだろう。「国境なき記者団」(RSF)の世界報道自由ランキングでは、世界最下位だ。

住民に届くニュースと娯楽と情報の全ては国営メディアが提供するもので、国営メディアは国の指導部をゆるぎなく賛美し続ける。

RSFによると、国際メディアのコンテンツを視聴したり読んだだけで、国民は刑務所に入れられることがある。

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Image caption 国営朝鮮中央通信(KCNA)のウェブサイト。世界はもっぱらこの「窓」から北朝鮮の中の様子をうかがっている

携帯電話は普及しているが、国際電話をかけるのは大変だと、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの研究者、アーノルド・ファン氏はBBCに説明する。

「闇市場で中国製の携帯電話を手に入れて、中国国境まで行かないとならない。それでも途中で、公安警察に止められるかもしれない」

首都・平壌で比較的豊かに暮らすエリート層は、インターネットも使える。それ以外の国民の使用は制限されている。国内には独自のイントラネットがあるが、機能は限られている。

国民のほとんどはおそらく、オンライン状態にまったくならない。

信仰の自由

憲法は「信仰の権利」を保障している。国内には仏教やシャーマニズム、天道教の信者がいる。国立のキリスト教教会もある。

しかしファン氏によると、どれも見せかけ上のものに過ぎない。

「実際には信仰の自由などない。金一族を崇拝するよう全員が教え込まれている」

2014年国連報告によると、国立教会以外でキリスト教徒が信仰活動を実践した場合、「迫害され厳罰を受ける」。

外国人宣教師も厳しい扱いを受ける。韓国系米国人の宣教師、ケネス・ベ氏は、伝道目的の北朝鮮ツアーを運営したが、2013年に「反政府」罪で重労働を伴う懲役15年を言い渡された。ベ氏は2014年、健康を理由に釈放された。

強制収容所

HRWのアダムズ氏は、「北朝鮮は世界最大の開放型強制収容所だと言われることがある。それは決して的外れではないと思う」と話す。

米国務省報告によると、8万~12万人が刑務所に収監されている。

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Image caption 北朝鮮の第25強制収容所の衛星画像。農作業(agriculture)部分や火葬所と思われる建物(reported crematory)、鉱山と思われる場所(probably mine)など、様々な施設が敷地内にあるように見える

政治犯として有罪になると、収容所で苛烈な強制労働を強いられ、森林伐採や鉱山採石などの重労働を科せられることが多い。

アムネスティ・インターナショナルによると、収容所の状況は「耐え難いほど過酷」で、収容者は看守に拷問されたり殴られたりする。特に女性は性的に虐待され、性行為を強要される危険が高い。

収容される全員が、犯罪者というわけではない。北朝鮮は連帯責任制を取り入れているため、家族の一員が有罪となれば家族全員が処罰されることもある。

北朝鮮では死刑がさかんに活用される。公開処刑も行われているという。

外国人拘束

北朝鮮では複数の外国人が逮捕され、長期間拘束されてきた。政治目的のため捕らえられ、タイミングを見計らって外交の道具に使われることが多い。

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Image caption 2016年に観光目的で北朝鮮に入った米国人学生オットー・ワームビア氏は約1年半にわたって拘束され、昨年6月に解放されるも帰国直後に死亡した

反政府活動などを理由に逮捕され、強制収容所に入れられた米国人3人は5月9日、首脳会談に向けた友好姿勢の表れとして解放された。しかし、2016年に観光目的で北朝鮮に入った米国人学生オットー・ワームビア氏は、政治宣伝ポスターを盗もうとしたとして約1年半にわたり拘束され、昨年6月に解放されるも帰国直後に死亡した。

今も韓国人6人が拘束されているとみられている。

さらに北朝鮮は1970年代と1980年代に、日本語と日本の習慣をスパイに訓練させるため、多数の日本人を拉致した。北朝鮮は13人の拉致を認めたものの、実際の被害者数はそれよりも多いと考えられている。

ほかにも韓国から数百人が拉致されている。1978年には女優の崔銀姫氏と元夫で映画監督の申相玉氏が拉致され、プロパガンダ映画の製作を強制された。2人は1986年に脱出に成功した。

強制労働

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北朝鮮の隠された奴隷たち BBCパノラマが取材

HRW報告によると、相当数の国民が何らかの時点で無償の強制労働をさせられている。

脱北した複数の元学生がHRWに、学校から毎年2回の農作業を無償で強制されたと話した。植え付け時期と収穫期の年2回で、それぞれ1カ月ずつに及んだという。

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Image caption 解放された米国人の一部も、農作業を強制されたと話す。写真は2004年6月、板門店に近い畑で働く北朝鮮の人たち

北朝鮮はさらに何千人もの人々を安い労働力として外国に派遣する。その多くは、奴隷のような状態で働かされている。

派遣先は中国、クウェート、カタールなど多数だ。しかしほとんどの国は、北朝鮮の核・ミサイル開発に対する国連制裁に従い、北朝鮮労働者への就労ビザ発行を停止している。とはいえ、制裁にも関わらずいまだに北朝鮮労働者が外国で使われているという報告も出ている。

HRWのアダムズ氏は、「外国労働者の多くは監視付きの寮で暮らし、行動の自由がない。要するに囚人の状態だ」と話す。

建設現場や港湾施設で働く労働者たちは行動が制限され、稼ぎのほとんどは政府の収入になる。北朝鮮にとっては重要な外貨獲得手段だ。

女性の権利

女性差別も厳然としてあるが、「男女の賃金格差など不平等を計る手段が北朝鮮の場合はない」とアムネスティ・インターナショナルのファン氏は言う。

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Image caption 軍隊で女性は日常的に性的暴力を受けているという話もある

北朝鮮は自分たちの社会は平等だと主張するが、女性は教育や就職の機会を与えられていないと言われる。

アダムズ氏は「女性はい本当に弱い立場にある。性的暴力はあるが、女性は襲われても、不平を訴える場所がない」と話す。

さらに、収容施設で女性が拷問され、強姦など性的に虐待されるケースが多く、軍隊でも女性兵士に対する性的暴力が多発していると言われる。

子供の栄養失調

北朝鮮の子供は教育を受けるが、家族の家計を支えるために早くから学校に行けなくなる子供もいるとファン氏は言う。

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Image caption 国連食糧農業機関(FAO)が提供したビタミンとミネラル豊富な栄養食を食べる子供(2004年、平安南道西北部・文徳郡の病院)

ファン氏によると、教育内容のほとんどは国の政治目標に関する内容で占められ、子供たちは「非常に幼いころから、狭い知識しか与えられていない」。

ユニセフ(国連児童基金)によると、北朝鮮では約20万人の子供が急性栄養失調状態にあり、そのうち6万人が「重度の栄養失調」になる恐れがある。

北朝鮮政府は、人権状況を非難されては反論を繰り返してきた。いわく、国民は「世界でもっとも進んだ人権制度を誇らしく思っている」のだと主張し、逆にほかの国々の人権状況を非難してきた。

しかし、HRWのアダムズ氏は、北朝鮮の人権状況は「底なし沼」の課題だと話す。

首脳会談は実現するかもしれないが、関係者は「誰もが自分の利益を優先している。北朝鮮の住民のためを思っている人は誰もいない」とアダムズ氏は言う。

(英語記事 North Korea's human rights: What Trump and Kim won't talk about

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