パキスタン総選挙 「忍び寄るクーデター」の懸念

M・イリヤス・カーン記者 BBCニュース(イスラマバード)

Pakistani troops from the Special Services Group (SSG) march during the Pakistan Day military parade in Islamabad on March 23, 2018. Image copyright AFP

パキスタンで11回目の総選挙が25日に予定されるなか、完全な民主主義が実現される夢は再び後退しつつあるように見える。

分離・独立から70年余り、パキスタンは擬似的民主主義と完全な軍事政権の間を行ったり来たりしてきた。同国はその過程で、国際紛争の渦中になり、イスラム過激派たちの温床へと姿を変えた。

過去10年間で、パキスタンの民主主義はこれまでで最も完全な状態に近付いていたが、今、一種の「民主主義クーデター」だと一部の人が指摘するような脅威が迫っている。

過去と同様、パキスタンで大きな力を持つ軍上層部が今回も、政治的操作の主要な黒幕とみられる。

軍部は過去に、直接的なクーデーターのほか、自分たちの特権を使って選挙で選ばれた政権を追いやり、それを受けて実施された選挙を操作して同じ政権が再選されないようにすることがあった。

2008年に軍部の特権は廃止され、2013年には初めて、選挙で選ばれた政権が5年間の任期を全うした。

しかし、その後潮目は反転したように見える。軍上層部が力を取り戻そうと、より原始的な戦術に訴えていると批判する声が出ている。

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3つのやり方が指摘されている。

まず、一部の法律専門家によると、裁判所が法律の恣意的な適用を通じて現政権の力をそぎ、対立勢力を有利にしているという。

今月22日には、イスラマバード高等裁判所のシャウカット・アジズ・シディクイ判事が、軍統合情報局(ISI)が司法に介入していると述べ、有罪判決を受け受刑中のナワズ・シャリフ前首相を選挙前に外に出さないよう、他の判事らに求めた。

シャリフ前首相は昨年、疑わしい理由を根拠に最高裁判所によって議員資格を剥奪され、首相から失職。その後、裁判の第1審で10年の禁錮刑を受けた。これについて、ある法律専門家は法曹界として恥ずべき判決だと語った。

地元英字紙ドーンによると、シディクイ判事はラワルピンディ弁護士会で、ISIの権力に歯向かうのを自分は恐れないとし、「暗殺されるとしても怖くない」と語った。

次に、活動が禁止されている武装集団が選挙に参加するのを、当局が見て見ぬふりをするか、積極的に支援している。

3つ目には、選挙日の投票管理で、軍部が不自然なまでに大きな役割を担っていると、多くの人が指摘している。

最初の2つの動きについては、目に見える成果がすでに出始めている。

シャリフ氏が率いる与党・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)の候補の多くは、離党してシャリフのライバルで元クリケット選手のイムラン・カーン氏が率いるパキスタン正義運動(PTI)に入党するか、無党派で出馬するよう説得された。

説得に応じなかった候補が身体的な暴力を受けたり、運営する事業が攻撃されたり、資格を剥奪されたりしているとの証拠がある。

2007年に暗殺されたベナジル・ブット元首相が所属していたパキスタン人民党(PPP)といった、完全な民主主義を求める政党にも脅威が及んでいる。同党はブット氏の夫、アシフ・ザルダリ前大統領が総裁を務め、2人の息子のビラワル・ブット・ザルダリ氏が党の顔となっている。

一部のPPP幹部が、再燃したマネーロンダリング疑惑で名前が挙げられており、現場の当局者が選挙運動を妨害しているとの批難も出ている。同党や他の世俗派勢力は、過激派から攻撃される危険に直面している。

世俗派政党の一つ、アワミ国民党は北部ペシャワールで起きた自爆攻撃で主要な候補を失った。さらに同様の攻撃によって、PTIの候補1人を含む候補者2人が死亡している。

南西部バロチスタン州では、世俗派の候補ギゼン・マーリ氏が外出制限や自宅軟禁に抵抗している一方で、近隣の選挙区では、宗派的な武装勢力「ラシュカル・エ・ジャンビ」(LeJ)とのつながりが指摘されるシャフィク・メンガル候補が自由な選挙活動を許されている。

マーリ候補が訴える州の自治権強化は、中央集権的な考えが圧倒的に強い軍部のアプローチと対立していることが、選挙運動への制限の背景にあるとみられる。

しかし、メンガル候補とLeJとのつながりやバロチスタン州で起きたいくつかの襲撃への関与の指摘は、無視されていると、世俗派政党は話す。メンガル候補が、バロチスタン州自治に対抗する軍部の代弁者となっているためだとみられるという。

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Image caption ハフィズ・サエード氏が率いるJuDは国連のテロ監視リストに載っているが、名前を変えて選挙運動を展開している

6月には、LeJとの関連が指摘される指導者、マウラナ・モハマド・ルドヒアンビ氏がテロ監視リストから外された。名前を変えて活動する集団の選挙運動を、ルドヒアンンビ氏が率いることを可能にするためだったもようだ。

ハフィズ・サエード氏が率いる「ジャマトゥド・ダワ」(JuD)は国連のテロ監視リストに載っているが、別の政党名での候補募集が許可された。

サエード氏は、2008年11月にインドのムンバイで起きた、166人が死亡した連続テロに関与した容疑がかけられている。

より最近では、武装集団「ハルカトゥル・ムジャヒディン」(HuM)を立ち上げたファズルール・レーマン・カリル氏が長らく停止していた活動を再開し、前出のイムラン・カーン氏が率いるPTI党への支持を表明した。カリル氏は米国のテロ関連ブラックリストに乗せられている人物だ。

これらを総合すると、左派あるいは民主主義を擁護する政党が、司法や物理的な方法で脅威にさらされているのが浮き彫りになる。

このためイムラン・カーン氏のPTI党やイスラム原理主義派が、有利に選挙運動を進める状況になっている。

これが選挙の結果を示唆しているとすれば、軍上層部の目的は、特定の政党の政権を明確に選択する形にせず、次の首相の選出で影響力を行使できるようにすることのようだ。

白日の下に晒された動きであるため、特定されていない当局からメディアに対して、一部の選ばれたイベントのみ報道するよう圧力がかけられている。

表面的にはパキスタンは民主主義手続きが存続しているように見えるなかで、実際には民主主義から程遠い状況だと指摘する声が多く出ている。

元上院議員でコラムニストのアフラシアブ・カタク氏は、今の状況を「忍び寄るクーデター」だと呼んだ。

カタク氏は最近新聞に寄稿したコラムで、選挙へのさまざまな介入の動きは「(同氏が軍部を指して言う)国家の深部で受胎し、司法がその産婆役を担っている」と述べた。

カタク氏はさらに、それらの動きが「民主主義的な自由とメディアの『ファシスト的』停滞」をもたらしていると指摘した。

Image caption パキスタンでは1947年の分離・独立以来、文民、軍事政権が入れ替わり立ち替わり統治を担ってきた。(図の左側が文民、右側が軍事政権)

(英語記事 Pakistan election raises fears of 'creeping coup'

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