アマゾン、世界初の時価総額1兆ドル超え目前 ベゾス氏成功の軌跡

ナタリー・シャーマン・ビジネス担当記者(ニューヨーク)

アマゾンが上場した1997年当時のベゾス氏 Image copyright Getty Images
Image caption アマゾンが上場した1997年当時のベゾス氏

アマゾンの創業者兼最高経営責任者(CEO)、ジェフ・ベゾス氏は未来を教えてくれる水晶玉を持っていたのかもしれない。

約20年前にベゾス氏は、クリック一つでペットフードからキャビアまで何でも手に入り、モールが人気を失って、小売店は生き残りのために娯楽、あるいは便利さで勝負するようになる社会を頭に描いた。

そして、彼はそのイメージを元に帝国を築いた。

1994年に設立されたアマゾンは今、世界初の時価総額1兆ドル(約111兆円)超えを目前にしている。中古本の販売からスタートしたアマゾンは、あらゆるサービスを展開する世界的な企業に変貌した。

しかし、いまや世界一の富豪となったベゾス氏は、目指しているのは、単なる世界の小売業の変革ではないと主張する。

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Image caption ベゾス氏は2000年に航空宇宙企業ブルー・オリジンを立ち上げた

ベゾス氏は自己資金で米紙ワシントン・ポストを所有している。彼の航空宇宙企業ブルー・オリジンは来年、宇宙旅行の販売を開始する予定だ。今年の夏には、慈善事業の計画を明らかにすると示唆してもいる。

何年も前になるが、ベゾス氏の高校時代のガールフレンド、アースラ・ワーナーさんは米誌ワイヤードとのインタビューで、彼がいつか大金持ちになるとずっと思っていたと語り、小さなころからの宇宙探検の夢がやる気の源泉になっていると指摘した。

「お金そのものじゃなく、そのお金で何をするか、未来を変えることが彼にとって重要だった」とワーナーさんは話した。

スペース・コロニー

ベゾス氏の野望の兆しが現れたのは、何十年も前もことだ。

10代で親となった両親が離婚した後、母親のジャッキー氏と義理の父、マイク・ベゾス氏に育てられたベソス氏は、主にテキサス州とフロリダ州で育った。10代のときにフィデル・カストロ政権下にあったキューバから亡命したマイク・ベゾス氏は、石油会社エクソンモービルの幹部だった。

ベゾス氏は幼少時からエンジニアリングや科学への興味を示したという。2013年に出版された、ベゾス氏の半生について書かれたブラッド・ストーン氏の著書「The Everything Store: Jeff Bezos and the Age of Amazon(邦訳:ジェフ・ベゾス 果てなき野望)」では、ベゾス氏が3歳のときに自分のベビーベッドをねじ回しで解体してしまったエピソードが紹介されている。

高校の卒業式のスピーチでベゾス氏は、スペースコロニー(宇宙植民地)を作る将来ビジョンについて語った。

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Image caption ベゾス氏と妻のマッケンジー氏は、2人がヘッジファンドで勤務していたころに出合った。2人の間には4人の子供がいる

プリンストン大学に進学したベゾス氏は、エンジニアリングとコンピューター・サイエンスを専攻。大学で学んだ知識がいかし、ニューヨークで複数の金融機関で勤務した。

ヘッジファンドのDEショーに勤務していたときに、妻のマッケンジー氏と知り合った。マッケンジー氏は現在、小説家として活動している。

30歳になったベゾス氏は、インターネットの急成長を示す統計を知り、金融機関からの退職を決意した。

2010年に母校プリンストン大学で行った講演でベゾス氏は、米西部に移住しアマゾンを立ち上げるという「より不安定な道」を選んだときのことを振り返った。

「やってみるしかないと決めた。努力して失敗しても後悔しないだろうと思った。全くやってみようとしなかったら、それはずっと心に重くのしかかるんじゃないかとも思った」

「ネット商取引の王様」

自己資金や家族からの借金で集めた10万ドル以上をつぎ込んだベゾス氏の賭けは、すぐに元が取れた。

ストーン氏の本によると、アマゾンは1995年に創業してから1カ月以内に、全米50州、世界45カ国からの注文に応じた。

創業5年で、顧客アカウントは18万件から1700万件に急増し、売り上げは51万1000ドルから160億ドル以上に急拡大した。

当時、インターネット・バブルが最初のピークを迎えるなか、著名な投資家が集まった。1997年に上場したアマゾンは、5400万ドルを調達。本の梱包を手伝うこともあったベゾス氏は、35歳になる前に世界有数の富豪になっていた。

1999年にベゾス氏は、米誌タイムの「ピープル・オブ・ザ・イヤー(今年の人々)」の一人に選ばれた。最も若い選出者の一人になったベゾス氏のことを、タイムは「ネット商取引の王様」と呼んだ。

実験的

厳しい上司として知られるベゾス氏は、同氏が言うところの長期戦略と「こうべを垂れる」顧客第一主義の下で、アマゾンの成長をけん引してきた。

ベゾス氏の方針を現実に応用することは、お金を生み出すためにお金を使うことを意味した。価格を下げ、郵送代を無料にし、電子書籍のキンドルといった新しい機器の開発に何年もかけるなどし、23年間で利益が出なかったのは10期におよんだ。

しかし、財布のひもが締められるときも、ためらいはしない。本社の社員たちに駐車場の料金を課し、サプライヤーとけんかをし、倉庫で組合結成の動きに反対し、節税にも可能な限り取り組んだ。

会社の初期に投資し、最終的に損失が出た「Pets.com」といった失敗も経験している。しかし、そういったことも今では、容赦ない競争心や実験的な取り組みをする姿勢を表す実例のように思える。

今年6月末までの四半期でアマゾンの売上高は530億ドル近くに上り、最終利益は過去最高の25億ドルとなった。

調査会社のイー・マーケターによると、アマゾンは今年、米国中のネットショッピング売上高のおよそ半分、小売全体の売上高の5%近くを占めると予想されている。

アマゾンの被雇用者数57万5000人以上は、ルクセンブルクの全人口にほぼ匹敵する数だ。

同社のサービスは流通から、倉庫、ローン、何十万もの出品者のネット店舗の提供に及び、幅広い企業がデータ・サーバー機能を頼るクラウド部門もある。利幅の大きいクラウド部門は同分野で世界のトップだ。

新たな事業機会への渇望はなくなっていない。

アマゾンは昨年、高級食品スーパーのホールフーズを買収した。今年は、ネット薬局の買収を発表した。同社幹部は、他にも買収できるものがないか探し回っていると話す。

反発

小売業界のかつての大手、シアーズやトイザらス、バーンズ・アンド・ノーブルが苦戦するなかでのアマゾンの隆盛に、同社の独占的立場や、税対策や労働慣行を懸念する人々が批判の声を上げている。本社を置くシアトルで住宅価格の上昇をもたらしているという批判さえもある。

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Image caption ドイツでアマゾンへの抗議デモを行う労組の組合員たち

北米にもう一つ主要な拠点を作る計画が昨年発表された際には、候補地に選ばれたい自治体がこぞって手を挙げた。誘致のため、世界有数の好業績企業に税優遇策が提示されるとの見通しに、腹を立てた人々から反アマゾン運動が持ち上がったにもかかわらずだ。

批判を集めるなかで、ベゾス氏はツイッターでの発信に力を入れるようになった。同氏は両親の写真やノルウェーでそりを引く犬たちの動画などを投稿してきた。

アマゾンは批判に対抗するためお金も使っている。選挙資金の調査などを行うウェブサイト、オープンシークレッツによると、同社が昨年ロビー活動に使った額は、2014年比で2倍以上の約1300万ドルに上ったという。

ツイッター標的

アマゾンのこのような努力の前に、著名な批判者が立ちはだかっている。ドナルド・トランプ米大統領だ。トランプ氏は、アマゾンが米国の郵便局に不当に低い配送費を受け入れさせていると非難し、ツイッター上で、独占企業として規制をかけると脅しをかけている。

またトランプ氏はよく、アマゾンの事業活動をワシントン・ポストの報道に結びつけようとする。ベゾス氏は2013年に自己資金で、ワシントン・ポストを従来の事業とは独立した形で買収している。

現在54歳のベゾス氏の総資産は約1500億ドルに上るが、これまでの慈善活動が比較的限定されていたことを疑問視する向きもある。

ベゾス氏は今月、寄付を今後増やす考えを示唆し、今年の夏に計画を発表すると明らかにした。

「明日でちょうど1年になるが、慈善活動のアイデアや意見を募集するツイートを投稿した。学ばされる内容で、思慮深く、有用で、ありがたい反応が集まった。提案をしてくれた人々に、非常に興味のある2つの分野を選択済みで今年の夏が終わる前に発表すると、お伝えしたい。運が良ければ、その際に幾分か新たな雇用も発表できるだろう。それではまた……ありがとう!」

アイデアを昨年募集した際、ベゾス氏はアマゾンの事業とは別のやり方で慈善活動に取り組みたいと語り、長期的な結果よりも、すぐに分かるような結果に注力すると表明していた。

新たな戦略も同様に成功するのか、世界が注目している。

(英語記事 How Jeff Bezos took Amazon to the top

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