カショジ記者失踪、サウジ「殺人部隊」と言われる15人はどんな人物か

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トルコ当局がサウジアラビア人記者ジャマル・カショジ氏失踪に関与したとみているサウジ国籍の男15人について、トルコ・メディアは身元を特定したと報じている。カショジ記者はサウジ政府に批判的で、2日にトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館に入ったのが確認されたのを最後に、行方が分からなくなっている。
男15人のほとんどは、カショジ記者が書類手続きのためサウジ総領事館を訪れる数時間前に自家用機でイスタンブールに到着した。その日のうちに同じ飛行機に乗ってサウジアラビアの首都リヤドに戻ったという。
トルコ当局は15人がサウジ政府職員と情報部員だとみている。自由に閲覧可能な公開情報から確認できることだという。
一方で、サウジ政府はカショジ氏失踪について関与を全否定している。カショジ氏は必要な書類を取得後、間もなく総領事館を出たと同政府は主張している。
トルコで報じられている15人の人物像をまとめた。
サラー・ムハメド・A・トゥバイジ氏(47)

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サラー・ムハメド・A・トゥバイジ医師は法医学者だ。英スコットランドのグラスゴー大学で修士号を取得したほか、2015年にはオーストラリアのビクトリア法医学研究所に3カ月滞在した。
トゥバイジ医師はツイッターのプロフィール欄に、法医学の教授でサウジ法科学学術会議の議長だと記載している。トゥバイジ氏のアカウントにはサウジ内務省へのリンクも貼られていた。
英ロンドン拠点のアラビア語新聞アシャルク・アル・アウサトは2014年、トゥバイジ医師がサウジ内務省の公安総局法科学部で働く中佐だと書いた。
総領事館に入ったまま行方不明に サウジ記者失踪のこれまで
アシャルク・アル・アウサトのインタビュー記事には、軍服を着たトゥバイジ医師の写真も含まれる。インタビューでトゥバイジ医師は、法医学者が検視をわずか7分で行えるという、自ら設計した移動実験室について語っている。メッカ巡礼時に死亡したイスラム教徒の死因を素早く見極めるために設計したという。
トルコ当局によると、トゥバイジ医師は現地時間1日、自家用機HZSK2便でサウジアラビアの首都リヤドを出発。2日午前3時13分、トルコ・イスタンブールのアタチュルク空港に到着したとみられる。トルコ当局はトゥバイジ医師が同便で到着時、骨用のこぎりを持っていたとも述べた。この自家用機は航空会社スカイ・プライム・アビエーション・サービシズ所有で、同社は昨年、反汚職運動の一環でサウジ政府に差し押さえられたと言われる。
トゥバイジ医師は在イスタンブールのサウジ総領事館から0.5キロ西に位置するホテル・モーベンピック・イスタンブールに滞在し、2日午後10時54分に到着時と同じHZSK2便でイスタンブール・アタチュルク空港を出発した。同便はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイを経由し、3日夜にリヤドに到着した。

サウジ自家用機のイスタンブール到着便とイスタンブール出発便それぞれの航路

匿名のトルコ当局筋によると、カショジ氏が失踪した当日にサウジ総領事館内で録音されたという音声で、トゥバイジ医師の声が確認できる。この音声はカショジ記者がサウジアラビアの工作員部隊に拷問、殺害され、体を切断される様子を収めたものとされる。工作員らは民間機でサウジ国内に戻ったという。
トゥバイジ医師はコメントしていない。ただ、同医師のおじを名乗る男性は10日、トゥバイジ医師が「このような犯罪行為」を決してしていないとツイートした。
マヘル・アブドゥルアジズ・M・ムトレブ氏(47)

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マヘル・アブドゥルアジズ・M・ムトレブ氏は、在ロンドンのサウジ大使館で2年間働いてきたと考えられている。英政府の2007年文書には、1等書記官としてムトレブ氏の名前が記載されている。
CNNはムトレブ氏を知るロンドン在住のサウジ人情報筋の話として、ムトレブ氏がサウジ情報機関の大佐だと報じた。一方、アラブ圏で利用者が多い発信者ID通知アプリ「MenoM3ay」では、ムトレブ氏はサウジ王室に仕える大佐と記録されている。

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マヘル・ムトレブ氏とみられる男は、今年3月にムハンマド・ビン・サルマン皇太子が米マサチューセッツ工科大学を訪問した際の写真右端に確認できる
また、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が2018年3月から4月にかけて海外を歴訪した際、少なくとも3カ所で撮影された写真にムトレブ氏と見られる男が写っている。このことから、ムトレブ氏が警護関連の役目を担っていたことがうかがえる。
政府寄りのトルコ紙サバハは18日付の紙面で、ムトレブ氏と見られる人物が2日午前9時55分にイスタンブールのサウジ総領事館に入る監視カメラ映像から切り取った画像を公開した。カショジ記者が総領事館に到着するわずか3時間前の様子だ。またこの男は、午後4時53分に近くの総領事公邸にいるところも監視カメラに収められている。

カショジ氏が最後に確認された監視カメラとサウジ総領事館の位置関係(上図)。下図はイスタンブールのサウジ総領事館と総領事公邸、「殺人部隊」とみられる男らの滞在したホテルの位置関係

ムトレブ氏はトゥバイジ医師と共に自家用機HZSK2便でイスタンブールに到着し、同じくモーベンピック・ホテルに滞在したと、トルコ・メディアは伝えた。
トルコ・メディアによると、ムトレブ氏はスカイ・プライム・アビエーションが所有する別の自家用機HZSK1便で、2日午後6時40分にイスタンブールを出発したという。
アブドゥルアジズ・モハメド・M・アルハサウィ氏(31)

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米紙ニューヨーク・タイムズはサウジ王族に仕えたフランス人「専門家」の話として、アブドゥルアジズ・モハメド・M・アルハサウィ氏がムハンマド・ビン・サルマン皇太子の外遊で警備チームの一員だったとみられると伝えた。
また、アルハサウィ氏と同名の人物が、MenoM3ayでサウジ王室警備隊の一員と登録されている。
失踪の記者、サウジ総領事館に入る映像
アルハサウィ氏とみられる人物は民間機でイスタンブールに到着し、2日午前1時43分に入国審査を通過した。
同氏はサウジ総領事館から南に約1キロのウィンダム・グランド・イスタンブール・レバント・ホテルに滞在し、HZSK2便でトゥバイジ医師と共にイスタンブールを出発した。
タール・ガレブ・T・アルハルビ氏(39)

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昨年10月、サウジアラビア西部ジッダにおいてムハンマド皇太子宮殿を勇敢に警備した功績を理由に、王室警備隊のタール・ガレブ・T・アルハルビ氏と同名の人物が少尉へと昇進している。同宮殿では昨年10月、銃撃犯が王室警備隊員2人を銃殺。他に隊員3人もけがをした。銃撃犯は警備隊により射殺された。
アルハラビ氏は自家用機HZSK2便でイスタンブールに到着、モーベンピック・ホテルに滞在した。自家用機HZSK1便で出国したという。
モハメド・サアド・H・アルザフラニ氏(30)

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トルコ・メディアはアルザフラニ氏が民間機でイスタンブールに到着し、ウィンダム・グランド・ホテルに滞在した後、自家用機HZSK2便で出発したと伝えた。
しかし米紙ワシントン・ポストは、MenoM3ayの登録番号に電話した際に応じた男が、カショジ記者失踪時にトルコにいたことを否定したと報じた。
ハリド・アエド・G・アロタイビ氏(30)

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ハリド・アエド・G・アロタイビ氏と同名の男が、MenoM3ay上で王立警備隊として登録されている。
ワシントン・ポストは、サウジ国籍のパスポートを所有する同名の男が、サウジ王家メンバーによる3度の訪米と同時期に米国に入国したと報じている。
ハリド・アロタイビ氏は民間機でイスタンブールに到着、ウィンダム・グランド・ホテルに滞在した。出発前、午後8時28分にイスタンブールの空港で出国審査を通過している。
ナイフ・ハサン・S・アラリフィ氏(32)

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ナイフ・ハサン・S・アラリフィ氏と同名人物のフェイスブック・アカウントが、サウジ特殊部隊の記章付き制服を着た人物の写真を公開していると、サウジ出身のシリア人起業家クタイビ・イドルビ氏が明かしている。イドルビ氏は米ワシントンに拠点を置いており、カショジ記者とも面識があったという。
アラリフィ氏はMenoM3ayにもその名前が記載されており、皇太子事務所の職員と登録されている。
アラリフィ氏は民間機でイスタンブールに到着し、午後4時12分に入国審査を通過した。ウィンダム・グランド・ホテルに滞在し、自家用機HZSK2便でトルコを出国した。
ムスタファ・モハメド・M・アルマダニ氏(57)

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アルマダニ氏はHZSK2便でイスタンブールに到着し、モーベンピック・ホテルに滞在した。民間機でトルコを去る前、3日午前0時18分にイスタンブールの空港で出国審査を通過している。
メシャル・サアド・M・アルボスタニ氏(31)

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フェイスブック上のメシャル・サアド・M・アルボスタニ氏と同名のアカウントは、自分をサウジ空軍の少尉だとしている。
イドルビ氏によると、MenoM3ayではアルボスタニ氏は王室警備隊の警備員と書かれている。
アルボスタニ氏は2日午前1時45分にイスタンブール空港で入国審査を通過。ウィンダム・グランド・ホテルに滞在した。自家用機HZSK2便でイスタンブールを発っている。
トルコ政府寄りのイェニ・サファク紙は18日、アルボスタニ氏が「疑わしい自動車事故」によりリヤドで死亡したとの情報があると報じた。ただ、詳細は明かさなかった。
ワリード・アブドゥラー・M・アルセフリ氏(38)

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アルセフリ氏はHZSK2便でトルコに到着。モーベンピック・ホテルに滞在した。HZSK1便でトルコを出国した。
マンスール・オスマン・M・アバフサイン氏(46)

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2014年の地元紙記事では、アバフサイン氏と同名の男が、民間防衛隊総局の大佐と紹介された。
アバフサイン氏は民間機でイスタンブール空港に到着。ウィンダム・グランド・ホテルに滞在した。HZSK2便でトルコを出発した。
ファハド・シャビブ・A・アルバラウィ氏(33)

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アルバラウィ氏は自家用機のどちらかで到着し、モーベンピック・ホテルに到着した。HZSK1便で出国した。
バドル・ラフィ・M・アロタイビ氏(45)

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バドル・アロタイビ氏はHZSK2便でイスタンブールに到着。モーベンピック・ホテルに滞在した。HZSK1便でトルコを発った。
サイフ・サアド・Q・アルカフタニ氏(45)

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ワシントン・ポストによると、サイフ・サアド・Q・アルカフタニ氏と同名の男が、ムハンマド皇太子に仕えているとMenoM3ayに登録されている。
アルカフタニ氏は自家用機HZSK2便でイスタンブールに到着し、モーベンピック・ホテルに滞在した。3日午前0時20分にイスタンブールの空港で出国審査を通過した後、民間機でトルコを出国した。
トゥルキ・ムセレフ・M・アルセフリ氏(36)

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トゥルキ・ムセレフ・M・アルセフリ氏はHZSK2便でイスタンブールに到着し、モーベンピック・ホテルに滞在した。HZSK1便でイスタンブールを出発した。