埋め込み医療機器で容体悪化、安全確認に不備 国際調査報道

モーリーン・マクリーヴさんは、新型ペースメーカーを埋め込まれた
Image caption モーリーン・マクリーヴさんは、新型ペースメーカーを埋め込まれた

安全性も試験も不十分な医療機器が、患者の体内に移植されていることが、国際的な調査で明らかになった。

問題のある機器には、心臓のペースメーカー、脊柱矯正に使う棒、ひざや股関節用の人工関節などが含まれる。

国際的な調査報道の結果、実験動物のヒヒを用いた試験が成功しなかった、あるいはブタや人間の遺体での試験しかされなかった移植用医療機器が市場に出回っていることが判明した。

しかし、医療機器業界は、何百万人もの人生を好転させたと主張している。

BBCのドキュメンタリー番組「パノラマ」は、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)、そして英紙ガーディアン医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルを含む世界58のメディア組織と共同で調査を進めた。

自社製品を認可してくれる安全認定機関を見つけるまで、医療機器企業が複数機関を「探して回る」のを、欧州の緩やかな規制制度が許している実態を調査は明らかにした。

また調査では、医師が患者に勧める治療の真の危険性について、医師が情報を知らされないままになっている可能性があることも、明らかになった。

行儀の良い実験動物」だったのか

英東部エセックス出身のモーリーン・マクリーヴさん(82)は、ペースメーカー「ナノスティム」の移植手術を英国で初めて受けた。不整脈が理由だった。

ペースメーカーは、心臓に電気信号を送って心拍を一定に保つ、生命維持に使われる移植用医療機器。

旧式ペースメーカーは、電気信号を送るため、電池から心臓へリード(導線)と呼ばれる電線が走っていた。しかしこのリードが破損する可能性があった。

ナノスティムは、心臓内に植え込む、リードのない初めてのペースメーカーだった。

モーリーンさんは、最初は「大喜び」で、ロンドンの聖バーソロミュー病院で機器の移植を受けた際には「お行儀の良い実験動物」の気分だったという。

「選ばれて本当にありがたかった。あまりに素晴らしい話で」

しかし植え込みから3年後、モーリーンさんのナノスティム内にある電池が切れた。手術でも取り出せなかった。

モーリーンさんは今、旧式ペースメーカーで命を保っている。ナノスティムはいまだに心臓内にある。

「何の効果もない、ただそこにあるだけの金属片や何かが、心臓内に入れられたなんて、考えるのも嫌だ」とモーリーンさんは言う。

被害に遭ったのはモーリーンさんだけではない。ほかにも複数の患者の体内で、ナノスティムの電池が切れた。体内で部品が外れるケースもあった。

ナノスティムは安全上の理由で回収された。少なくとも2人が死亡し、深刻な健康被害も少なくとも90件記録された。

ドイツの認証機関は、証拠不足を理由にナノスティムの認可申請を却下した。しかし、英認証機関の英国規格協会は、ナノスティムを認可した。

どのぐらい大問題なのか

全ての医療機器が危険なわけではない。機器の多くは命を救ったり、あるいは生活の質を劇的に向上させたりする。

しかし調査から、いくつかの機器が患者の体調改善につながっていないことが分かった。主な事例は以下の通り――。

  • 患者の背中で機器が割れた。この機器は、ヒヒを使った試験で失敗していた
  • 避妊用の機器が、体内を傷つけ、出血を引き起こした
  • 植え込み型除細動器が起動しなかった
  • 失禁対策に植え込んだ網目状シートが、腹部の痛みを引き起こした

またBBCの取材で、重度の脊柱側弯症の子供に使われる治療法が、ブタや人間の遺体を使った治験を行っただけで認可されていたことが分かった。

ただ、透明性とデータ収集が不十分なため、医療機器業界全体での問題の規模がどの程度なのか、患者も医師も分からないままだ。

移植を受けた人はどうすべきか

心配な人には、ICIJが共同設立した専門家委員会が助言を提供している。

専門家委員会は、「まずは、あなたの手術を行った医療チームに相談」するようにと勧める。

「もし何らかの理由で当初の医療チームに連絡がとれない場合は、かかりつけ医に相談するべきだ。かかりつけ医は、医療機器やあなたの受けた手術に詳しい専門医を紹介できるはずだ」

ICIJが提供する質問と回答集はこちら(英語)。

英国内の患者は、規制当局に問題を報告することもできる

なぜこんなことに

欧州には、商品化前の医療機器を検査する行政体がない。

一連の医療機器企業は、認証機関にCEマークと呼ばれる基準適合マークの発行を求めたが、このマークはトースターややかんのような機器にも与えられるものだ。

認証機関は欧州に58機関あり、1つの機関が認可すれば、その製品は、欧州連合(EU)各国にアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを含めた欧州経済圏ならどこでも利用できる。

しかし、もしある機関が認可しなくても、企業は他の機関を回り、認証を求めることができる。

認可には証拠が必要では

患者はそう思うだろうが、実際にはそれほどでもない。

そして、非常に強固な秘密主義もある。医療機器を患者に植え込む執刀医でさえ、機器の安全性や効能について証拠を常に参照して手術するわけではない。

英国規格協会は、「守秘義務上の要求」から、ナノスティムに関する証拠については話せないと述べた。

英国の規制当局、英医薬品・医療製品規制庁さえも、「個別機器の対策については守秘義務がある」と述べる。

しかし調査報道の結果、ナノスティムの一般使用が認められる以前に、臨床試験は1度しか実施されなかったことが判明した。このたった1度の試験は、わずか33人の患者を90日間追跡しただけだった。

Image caption リタ・レッドバーグ教授

心臓専門医の世界的権威、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校のリタ・レッドバーグ教授は、「一生植え込むペースメーカーにしては、この臨床試験は非常に少ないと思う」と話した。

「ペースメーカーは10年、20年と使い続けるためのものだ。90日間の追跡調査で得られる情報は限られている」

医療業界の反応は

欧州医療業界を代表する業界団体メドテック・ユーロップは、「何百万人もの人が、医療機器から安全に利益を出ている。より健康に、より生産的に、より自立した人生を、いま生きることができている」と述べた。

「今日、病院や家にある数十万もの医療機器なしでは、生活は想像できなくなっている」

また同団体は、「従業員が持つ専門性、公平性、透明性、独立性により選ばれた」認証機関が認可を与えているとして、現行制度を擁護した。

ナノスティムを製造したアボット社は、多くの患者が同社製のリードなしペースメーカーに助けられており、今後もさらに大勢がこの技術の恩恵を受けるはずだと話している。

アボット社は、「リードなしで心拍を保つナノスティムの仕組みは、強い実績と安全データを基に、欧州のCEマークの認証過程を経て認可された」と述べた。

「加えて、CEマークによる認証だけでなく、欧州での市場展開後の臨床追跡調査でも、ナノスティムは追加評価を受けている」

解決策は

英国の王立外科医師会は、「抜本的な規制改革」を求めている。

同医師会会長のデレク・アルダーソン教授は、「移植可能な機器は全て、有効性と患者の安全を長期にわたり監視するため、登録され、追跡されるべきだ」と述べた。

しかしEUが規制強化を示唆すると、医療業界は「Don't lose the 3(3を失うな)」という運動を開始した。

この運動名は、医療機器の製造企業が、米国よりも3年早く、欧州で患者に新製品を届けられているという事実を基にしている。

新たな医療危機規制は欧州で2020年に発効するが、規制の推進者は、新規制は十分なものではないと話す。

ドイツ出身の欧州議会議員ダグマー・ロス・ベーレント氏はBBC番組「パノラマ」に対し、医療業界による集中的なロビー活動が、提案された改革を骨抜きにしたと語った。

「紛れもなくこれは医療業界にとっての成功で、欧州議会と欧州の患者にとっての失敗だ」

「欧州の患者のため、欧州の患者の安全のためにもっとできなかったのは辛い。私にとって生傷のようなものだ」

(英語記事 Patients given unsafe medical implants

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