イクメン――イケテル日本の父親たちが育児を変える

デイヴィッド・ロブソン

新しい「イクメン」は、子供の世話を積極的に楽しむ Image copyright Getty Images

父親業はかっこよくてセクシー――。こうしたイメージを広めようと、日本政府は取り組みを推進してきた。うまくいっているのだろうか?

日本の新聞やファッション誌、漫画に目をやると、新しいタイプの「スーパーヒーロー」に気づくかもしれない。

にこやかでハンサムなヒーローたちは、朝食の席でちゃんばらごっこをしたり、公園で一緒に自転車に乗ったりする。子供とお揃いのおしゃれな服を着ることもある。思いやりがあり理解も深く、料理や家事を進んでする。

つまり、「イクメン」だ。「育児」と「イケメン」を組み合わせた造語で、以前の日本の父親像とは正反対だ。かつての日本の父親像といえば、家族と交わらない仕事中毒のことだったので。

「イクメン」という言葉は、広告代理店の営業マンが2000年代に作りだしたもので、2010年には厚生労働省が全国規模で「イクメンプロジェクト」を立ち上げた。父親がもっと家族の暮らしに関わるように、政府が促したのだ。

「イクメン」の発想はすぐに広まり、今では日本のポップカルチャーのあらゆるところでイクメンを目にする。しかしこの流行は本当の意味で、男女平等の躍進を表しているのだろうか? それとも、イクメンの華やかな写真は、単に表面的な態度の変化をキラキラ飾っているだけで、家の中のことは今でも女性が責任のほとんどを背負っているのだろうか?

一家を養うこと。これがかつては、日本の父親の主な役割とされた。給料を稼ぐ人間、つまり「サラリーマン」は、会社に身を捧げ、出世階段を上るために長時間働き、家庭に経済的安定を提供した。

「仕事に全身全霊を注ぐことこそ、男らしさの究極の形だった」。研究者のハナ・ヴァサロさんは、英ケンブリッジ大学がまとめた文化人類学的論文集「Cool Japanese Men(かっこいい日本男性)」で書いている。

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「地震、雷、火事、親父」

こうした父親像は当然ながら、日本だけのものではない。しかし日本では1980年代になっても、平均的な男性が平均的な平日に子供とやり取りする時間は、40分足らずだった。しかもそのほとんどが、食事中の関わりだった。

かつての日本では、一部の男性は妻が手伝わないと、お茶も入れられない、自分の服がどこにあるかも分からないという研究もあった。そしていざ父親が子供と関わるとなると、冷ややかでよそよそしく、子供から敬われるどころか場合によっては怖がられる存在だった。それゆえに、「地震、雷、火事、親父」という表現がよく使われたのだ。

こうした父親の態度のせいで、深刻な反動があったのは言うまでもない。例えば、このせいで女性は出産後にキャリアを続けるのが非常に難しく、結婚という概念に幻滅する女性がどんどん増えていった。その結果、多くの女性が結婚を先延ばしにするか、全く結婚しないようになり、現在の悪名高い日本の出生率低下につながった。

1980年代に子供の自殺率が上昇したのも、父親が家庭に関わらないことの影響ではないかという意見もあった。

それでも、変化はなかなか訪れなかった。たとえば育児休暇だ。子供の誕生後に育児休暇を取った男性は、2002年になっても有資格者のわずか0.33%だった。2008年調査によると、子供ともっと一緒に過ごしたいが、仕事を休むことを上司は良く思わないだろうと心配する男性は3割に上った。

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日本政府の「イクメンプロジェクト」は、「社会全体で、男性がもっと積極的に育児に関わることができる一大ムーブメント」を作り出し、この状況を是正しようとした。討論会やワークショップを開催し、職場と家庭からの相反する要求をやりくりするために、父親たちには「父親の仕事と育児両立読本~ワーク・ライフ・バランス ガイド~」などの資料を提供した。

日本で父親の家庭参加を増やすための取り組みは、前からあった。しかし、「イクメンプロジェクト」はそれと異なり、父親をヒーローとして描き、男らしさと性的魅力を強調した。スーツとワイシャツの下から、スーパーマンのように赤地に白く「育」と書かれたロゴを見せる男性のポスターも登場した。「社会にイクメン力を」というスローガンつきだ。つまり、こうした「ヒーロー」たちは単に自分の家族を守っているだけではなく、次世代の働き手を育むことで、国を助けているのだという意味合いがこめられていた。

イクメンはイケメンだというイメージが伝わり、イクメンという言葉はおおむね好意的に受け止められた。「日本の誰もが、イケメンという言葉をよく知っていたはずで、そこからイクメンという言葉が生まれ、広まったのだと思います」とヴァサロさんは言う。「優しい父親を意味する表現は日本に前からありましたが、イクメンの方がずっと響きがいいので」。

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今では「FQジャパン(Father's Quarterly、父親のための季刊誌)」のような雑誌もあり、有名人のインタビューのほかに、父と子のお揃いファッションや家族写真の広告が載っている。ミスター・イクメンのコンテストも開かれた。

ほかにもテレビでは思いやり深いイクメンがロマンティックコメディの主人公になり、漫画の世界でもイクメンが主人公の「イクメン!」がある。働く妻を持つ専業主夫の緑川洋哉(21)が娘を育てるなかで直面する、さまざまな試練を描く作品だ。

昔かたぎのサラリーマンとは全く対照的に、主人公の洋哉は娘との関わりにやりがいや自分の存在価値を見出す。さらに、イクメンだからこそ、無職の男に押される社会的不名誉の烙印(らくいん)から守られている。

漫画の中では、イクメンが子供たちと遊ぶ姿に、洋哉やその友達と親しい女性たちが、うらやましそうに頬を赤くする姿も描かれる。

イクメンプロジェクトはマーケティングとして大成功し、父親の描かれ方についても重要な議論に火をつけた。「認識されるようになりました」とヴァサロさんは話す。

その一方で、それなりに批判もされている。例えば、かなり日常的な作業を、やって当然な分だけやっただけで男性は英雄扱いだと、多くの女性が不満を抱いている。女性たちは「イケメンよりもイクメン」と繰り返し、思いやり深い父親に会えば褒め称えるだろうが、同じことをしている自分たちの努力がなぜ同じように認められないのか、首をかしげているのだ。

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「最初はみんな、流行りに乗ったのだと思います」とヴァサロさんは言う。「その後になって(一部の人)、特に日本の女性たちが、『こういう父親たちをどこまで崇め奉るべきなのか、少し落ち着いて考えてみよう』と考え始めた」。

家事のほんの一部をやっているだけなのに、自分はイクメンだと主張する男性も中にはいる。その一方で、男性の中には「イクメン病」にかかっていると不満を漏らす人もいる。職場と家庭で高い期待に応えようとして疲れ果ててしまうのだ。こうした男性たちは個人的には進歩的な考え方を持ってはいるものの、献身的な父親が仕事を休むと、新しいやり方を理解できない古い考えの上司から罰せられるのではないかという恐れが存在するのだ。

さらに、イクメンプロジェクトがあるからといって、男女平等の進展を遅らせかねないような、社会の幅広い構造上の問題を覆い隠すべきではない。例えば、前述の「Cool Japanese Men」を編集したケンブリッジ大学のブリギッテ・シテーガ博士は、日本の法律がいまだ離婚時の両親を対等に扱っていないと指摘する。多くの父親は扶養手当の支払いを義務付けられていないし、その一方で「子供と良好な関係にあったとしても」、離婚後も子どもに会える保証がない。

そして全般的に、経済協力開発機構(OECD)による職場での男女平等ランキングで日本の順位はいまだに非常に低い。

それでも、目に見えるポジティブな変化の兆しはある。父親による育児休暇の取得率は、いまだ少ないものの、イクメンプロジェクトの開始以降、大きく増加している。例えば2012年は1.9%だったが、2017年には7%になった。そして「男性は働き、女性は家にいるべき」との考えを支持する人は今や45%未満だ。60%が伝統的なジェンダー規範を支持した1992年と比べると、15ポイント低い

さらに一般論として、献身的な父親の姿は前よりずっと日常的に目にするようになった。「子供を連れた父親を多く見かけるようになりました。特に週末や都市部では。そして多くの父親が子供たちと非常に温かい関係を持っています」とシテーガ氏は話す。

ヴァサロ氏も、本当の意味で行動が変化するには時間がかかると同意する。その一方で、自分が取材した父親たちはそれぞれ独自の道を切り開き始めていたとも言う。

ヴァサロ氏が話を聞いた父親たちは、典型的なイクメンの英雄的なイメージにはそぐわないかもしれないし、中にはイクメンという言葉を使うのを恥ずかしがる父親もいる。それでも、子育てを楽しみ、他の親たちとフェイスブック上でアドバイスし合い、定期的にPTAの会合に参加している。

「仕事と家族にどう接するか、健全な関係性を模索しているんだと思いました」とヴァサロ氏は言う。「おかげで、とても前向きな気持ちになれました」。

(英語記事 Ikumen: How Japan's 'hunky dads' are changing parenting

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