【解説】米中、追加関税の発動猶予で合意 貿易戦争の勝者はどちらなのか

カリシュマ・ヴァスワニ BBCアジアビジネス担当編集委員

Chinese President Xi Jinping and U.S. President Donald Trump on 9 November Image copyright Getty Images

数カ月におよぶ脅し合い、そして報復関税合戦の末、ついに米中両国からクリスマス・ギフトがもたらされた。来年1月1日からの新関税がなしになるという形で。

両国の和解によって、市場と投資家は間違いなくいくらかホッとできるはずだ。

投資家たちは、2019年初めから長期的な貿易戦争が始まるのではと懸念していた。それだけに今回の緊張緩和で、3日のアジア株式市場は上昇した。

当然のことだ。世界最大の経済大国2国による貿易戦争は今年、アジア太平洋地域各国の経済予測を脅かした。投資家にとっては、大きなリスク要因だった。

世界中が注目した両首脳の夕食会を前に、暗い見通しも出ていた。私もその1人だ。しかし、ドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は、お互いにウマが合ったのか、2人の間の化学反応が接着剤となって、正反対の立場だったはずの両国は合意に至った。

しかしいつもながら、「悪魔は細部に宿る」のだが、実際この合意について詳細はほとんど明らかになっていない。

そこで、合意の中身を点検してみよう。

国内を意識

合意した米中両国は2国とも、自国内での高評価が必要だった。それだけに、合意したようだという最初の兆候が中国メディアから出てきたのは興味深いことだった。

中国の英字紙チャイナ・デイリーと国営テレビ局CGTNの2社は、トランプ大統領と習主席が、来年1月1日からの新関税を発動しないことで合意したと伝えた。

習主席にとって、減速する中国経済は難題のひとつだ。中国の製造業者へこれ以上痛みを与えないような合意を母国に持ち帰る必要があると、習氏には圧力がかかっていたというのが専門家たちの見方だ。

Image copyright AFP
Image caption 米中2大超大国は、国内市場が好調だという印象を外に与える必要がある

貿易戦争で中国企業がいくらかの痛みを感じている証拠はあるものの、現時点では、追加関税が10パーセントの水準であれば対処可能だ。関税が25パーセントに増えると、事態は劇的に変化する。

トランプ大統領にとっても同様だ。米国のロビー団体は、中国との揉めごとは棚上げするよう大統領に圧力をかけてきた。関税がさらに上がれば、米国の製造業者にとってコスト上昇を意味するし、転じて米消費者にとって物価上昇を意味するのだからと。

米国内でのこうした懸念をトランプ氏はこれまで、表立って無視してきた。しかし今回の合意によってトランプ氏は、国内的に自分の強さを示すと同時に、米企業には時間的余裕を与えた。次の一連の関税がいざ発効するとして、どう対処すればいいか考える時間を、大統領は米企業に与えたのだ。

米国が得るものは

今回の合意は一見、米国にとって有利な内容だ。

中国政府のビジネス手法について米政府が問題視するいくつかの重要な点について、中国から対話姿勢を引き出した。さらに、「相当」量の米国製農産物とエネルギー、そして工業製品を購入するという合意も、中国から引き出した。

また、貿易戦争の偶然の被害者となった、米クアルコムによるオランダのNXPセミコンダクターズ買収に関する取引もあった。この買収は今年7月、中国政府の承認が得られなかったことで1度失敗に終わっていたが、習主席が承認に「前向きだ」と発言した。

Image copyright Getty Images
Image caption 中国のビジネスの手法の一部が、米国で問題になっている

今後12週間の協議がうまくいけば、この買収が承認される可能性もあると専門家は指摘する。

トランプ大統領は、北朝鮮関係でも中国を称賛した。北朝鮮関係はトランプ氏と習主席との関係において重要な要素で、両首脳は朝鮮半島の非核化に向けて協働することで一致した。

しかし、中国が意図したとおり、今回の合意で用いられた言語は不明瞭で、拘束力もない。つまり、中国政府がどの程度市場を開放するか、あるいは米国からどれぐらい製品やサービスを購入するかは不透明だ。

タイミングが全て

米中は強制的技術移転、知的財産保護、非関税障壁、電子空間上での不法侵入や窃盗、サービスや農業などで、構造的な変化についての交渉を直ちに開始すると合意した。交渉期間は今後90日という。 ここが合意の重要な部分だ。

もし両国が合意に達しない場合、関税は10パーセントから25パーセントに引き上げられる。中国の旧正月後が交渉期限で、基本的に両国陣営にさらに多くの時間を与えるものだ。

米国は中国に対し、強制的技術移転の中止を求めているほか、中国市場への米国市場の参入機会を拡大するよう求めている。

Image copyright AFP
Image caption 90日の発動猶予により、中国は旧正月を追加関税なしで迎えられることとなる

市場参入拡大が何を意味するのか、中国と米国の定義が同じなのかどうか。それ次第で協議成功の見極めが変わってくる。しかし、少なくとも中国共産党の代弁者とみなされることが多い英字紙グローバル・タイムズの社説に言わせると、中国政府内の事情は変わっている。

2日付のグローバル・タイムズ社説は、習氏とトランプ氏の休戦について、「中国の発展に資するあらゆる決定は正しい」と書いている。

自国利益からすると、関税の一時的な発動延期という今回の合意は、犠牲に値する成果だったのかもしれない。

ただ、今回の合意が単なる一時的な休戦以上のものになるか、あるいは長く続く、決定的な米中関係の書き直しになるかについては、中国がどれぐらい犠牲を払うのかが鍵となる。

興味深いことに、90日という交渉期限は、中国メディアではあまり多く言及されなかったようだ。今回の合意は単なるクリスマス休戦ではなく、習主席の完全勝利だという印象を国民に与えたかったのかもしれない。

ツイッターでの丁々発止や追加関税の脅しはもうおしましだ。少なくとも今のところは。しかし、中国から具体的で本気の譲歩がない限り、3カ月後にはこれまでと同じ敵対関係に逆戻りしてもおかしくない。

そして次にそうなった場合こそ、対立は本物だ。影響は貿易以外にも及ぶ。

トランプ政権による中国人学者や学生へのビザ発行制限については、すでに不満の声が出始めている。今回の関税発動猶予は、ここ数カ月の対立関係から距離をおくための良い小休止かもしれないが、もし両国が確かで実質的な合意に達さなければ、事態は将来、もっとずっと悪いものになる可能性もある。

(英語記事 Trade war truce: A win for the US or China?

この話題についてさらに読む