【Q&A】 北アイルランド国境をめぐる「バックストップ」を解説

ジョン・キャンベル、BBCニュース北アイルランド経済・ビジネス編集長

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イギリスの欧州連合(EU)離脱をめぐる交渉で鍵となったのは、英・北アイルランドとアイルランドの国境問題だ。

イギリスとEUは11月に離脱協定をとりまとめ、この国境の扱いについても合意した。

双方とも、ブレグジット(イギリスのEU離脱)後にこの国境に検問所などを置く厳格な国境管理は避けたい思惑だ。

そこで「バックストップ(防御策)」が登場する。

では「バックストップ」とは?

バックストップは、英国がブレグジット後の移行期間にEUと包括的な通商協定をまとめられなかった場合、アイルランド国境を開放しておくための最終手段だ。

現在、北アイルランドとアイルランドの間で取引されるモノやサービスにはほとんど制限が設けられていない。

現時点では英国もアイルランドもEUの単一市場および関税同盟の一員なので、製品の税関検査もない。

しかしブレグジット以後は、これが変わるかもしれない。

アイルランドと北アイルランドは別々の関税・規制体系となるため、製品は国境で検査を受ける必要が出てくる。

英政府はこれを望んでいない。EUも、国境管理を厳しくしたくないと表明している。

しかし、英国が関税同盟と単一市場からの撤退を固持している以上、これは非常に難しい。

摩擦のない国境確保には

セーフティーネットを張ろうとすることもできる。

バックストップはセーフティーネットだ。ブレグジット後、包括的な協定や技術的な打開策で現行のような摩擦のない状態を保てない場合、アイルランド国境に適用される。

バックストップについて合意するのは重要だ。EUはバックストップの担保がないままでは、移行期間の設置も、中身のある通商交渉にも応じないはずだ。

11月以前のバックストップ合意は

英国とEUはどちらもバックストップが必要だとしている。両者は2017年12月の時点でこれに合意している。

また、国境を越えた協力、アイルランド島全体の経済支援、英国とアイルランドが1998年に結んだベルファスト合意の保全などで一致した。

しかしそれ以外については、双方は大きく食い違っている。

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Image caption EUのミシェル・バルニエ首席交渉官

バックストップについてEUは

バックストップを最初に提案したのはEUだった。北アイルランドをEUの関税同盟と単一市場の大半、そしてEUのVAT(付加価値税)体系の内に留めておくことが目的だった。

EUのミシェル・バルニエ首席交渉官は繰り返し、バックストップは北アイルランドにだけ適用されると強調している。

それが英国では問題に?

問題どころの騒ぎではない。

バックストップが北アイルランドだけに適用されれば、関税や規制上の国境は、アイルランド島とグレートブリテン島を分けるアイルランド海に引かれることになる。

そうなると、英国各地から北アイルランドに入る製品は、EU基準に見合っているかどうかの検査を受けなければならない。

北アイルランドと、それ以外のイギリス各地の地位にそうした差が生まれれば、連合王国全体としての一体性を損なう恐れがあるとみられている。

テリーザ・メイ英首相が、EU提案はイギリスの本質的な一体性を脅かすものだとして、繰り返し拒否してきたのはこのためだ。

メイ首相は代わりに、2020年以降もイギリス全体がEUの関税同盟に残るという別のバックストップ案を提示した。

6月に発表されたメイ氏の提案は、単一市場の規制問題については何も言及していなかった。

ただ、国境管理のない状態維持には、関税同盟よりも単一市場の方が重要かもしれない。

この提案に対するEUの反応は?

EUはこれを懐疑的にとらえた。バルニエ氏は、規制提携について言及がない以上、これはバックストップさえならないと指摘した。

一方で、英国と何らかの長期的な関税関係を結ぶことについては否定しなかった。

アイルランドのリオ・バラッカー首相は、バックストップに期限があってはいけないと発言した。

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ブレグジット用語解説:バックストップとは?

そこから突破口が見えた……ような?

数カ月にわたる行き詰まりの後、2018年11月14日、メイ首相はバックストップを含む英・EUの離脱協定を内閣が承認したと発表した。

この協定では、ブレグジット後の移行期間が終わる2020年12月までに別の解決策が見つけられなかった場合、北アイルランドはEU単一市場の一部ルールに従うことが定められた。

つまり、北アイルランドに入ってくる製品はEUの基準に見合っているか検査されることになる。

またこのバックストップでは一時的な単一関税区域が設けられるため、実質的には英国全体がEUの関税同盟に残ることになる。

また、英国とEU双方が合意しなければバックストップからは脱却できない。

EUの反応は?

11月25日、EU加盟国首脳はブリュッセルで開かれた首脳会議でこの協定を承認した。

ジャン=クロード・ユンケル欧州委員長は、英下院議員がこの協定を否決すればEUがより良い条件を出すだろうと思っているイギリス人は「がっかりするだろう」と話している。

バラッカー首相は、この離脱協定は英国がEUに残留するという選択肢の「次に最上の結果」だと述べ、秩序を保った離脱を可能にすると説明した。

これで問題解決?

いいえ、まったく。

メイ首相は下院で議員らから反発にあい、閣僚数人がバックストップに抗議して辞任した

政権と閣外協力している北アイルランドの民主統一党(DUP)も、政府に「バックストップを破棄する」よう警告し、重要な予算承認の場で投票を棄権した。

DUPは、北アイルランドのみの検査は絶対に認めないと繰り返してきた。北アイルランドとグレートブリテン島で差異がでれば、それが連合を脅かすと懸念している。しかし、北アイルランドの企業や農産物団体などは、政府の計画を支持するようDUPに圧力をかけている。

他党のEU離脱派も、バックストップについては懸念を表明している。何かアクションを起こさない限り、イギリスが永続的にEUの規則に縛られることを危惧している。

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Image caption 英国もEUも、アイルランド国境に国境管理は設けたくない

法的観点からは?

英下院が12月4日、離脱協定について政府の説明が不十分だとして内閣による議会侮辱動議を可決。これを受けて英政府は5日、バックストップに関して法務長官が示していた法的助言の全容を公開した。

法的助言の大部分は、離脱協定の草案が公表されたときに示されていた内容の繰り返しだった。

しかし、ジェフリー・コックス法務長官はこの中で、バックストップの条件下では北アイルランドだけがEU関税同盟に残る可能性があると指摘。この協定を結ぶかどうかは、「政治的判断」になると述べていた。

協定に反対する議員らは、法務長官の助言全文は自分たちの懸念を裏づけるものだと主張した。

しかしメイ首相は再びこの協定を擁護し、バックストップは北アイルランド紛争に関するベルファスト合意で、英政府が北アイルランドと交わした約束を守る「最終手段」として必要だと訴えた。

これから何が起こる?

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Image caption メイ首相は、バックストップなしの離脱協定はありえないとしている

メイ首相は今でもなお、離脱協定の議会承認を獲得しなくてはならない。

採決は12月11日に行われる予定だったが、下院での否決は確実と見たメイ首相は、採決を延期した。

保守党党首として不信任投票を生き抜いたメイ首相は、EU首脳会談でバックストップに関する合法的な言質を取るためにブリュッセルへ旅立った。

EUは再交渉の可能性を否定しているが、バックストップはあくまでも一時的なものだという保証を、より明確に提示する用意はあるかもしれない。

究極的には、バックストップが通らなければ離脱協定はなくなり、移行期間もなくなる。つまり、おそらく混乱だらけの合意なしブレグジット、ハード・ブレグジットだ。

そうなればEUとアイルランドは、北アイルランドとの国境がどうなるのか、単一市場へ出荷されるアイルランド製品がどうなるのかについて、難しい決断をいくつか迫られることになる。

(英語記事 Q&A: The Irish border Brexit backstop

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