英で新年にブレグジット・ドラマ放送、カンバーバッチ主演 タイミングで議論も

ニール・スミス、エンターテインメント担当記者

Benedict Cumberbatch in Brexit: The Uncivil War Image copyright Nick Wall
Image caption 英俳優ベネディクト・カンバーバッチは、2016年6月の国民投票で重要だが世間にはあまり知られていない役割を果たした人物を演じる

イギリスが1年半前に国民投票で欧州連合(EU)を離脱すると決めて以来、ブレグジット(イギリスのEU離脱)関連の報道がされない日はほとんどなかった(文中敬称略)。

毎日のように新しい動きがあり、新しい障害が出現し、議論はますます激しくなる。イギリス国内がこれほど割れてもめた問題は、これまでそうそうなかった。

この国のニュース速報や新聞や世間の議論は、ブレグジット一色だ。それだけに、2016年6月の国民投票を描くテレビ・ドラマは、いまさら余計だと思えるかもしれない。

しかし、脚本家はそうは思っていない。新年に英テレビ局チャンネル4が放送するドラマ「 Brexit: The Uncivil War」(編注:「The Uncivil War」は「ぶしつけな戦争」の意のほか、「civil war=内戦」の反語)は、「VoteLeave」(離脱投票)運動がいかに成功したかを描く。

そして、脚本家ジェイムズ・グレアムは、何がどうしてこうなったのかを理解するには、ドラマは重要な役割を果たすと主張する。

「この混沌(こんとん)とした修羅場は、驚きの連続だ」と、グレアムは言う。グレアムは、ロンドンで昨年上演された「Labour of Love」など英政治を題材にした様々な作品で高く評価され、英演劇界の最高の栄誉とされるオリヴィエ賞も受賞している、人気戯曲家だ。

「なぜこれほど混沌として激しい戦いが繰り広げられているのか、その起源、そもそもを理解する手助けとなるのが、このドラマの役割になる」

「ニュース速報やツイッターのタイムラインは、そのレベルではこちらを満足させてくれない。ニュースもツイートも絶え間なく続くし、あまりに果てしなく、途切れないので」

「ドラマなら、いったん立ち止まることができる。視点を定めて、長いスパンで物事を見ることができる。暗中模索している状態の私たちには必要なことです」

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Image caption 離脱運動の支援者となったボリス・ジョンソンは俳優リチャード・グールディング(中央)が演じた

ボリス・ジョンソン、ナイジェル・ファラージ、デイヴィッド・キャメロン前首相といった面々のおかげで、ブレグジットをテーマに映画やドラマを作ろうと思えば、現実離れした派手な登場人物には事欠かない。

それにもかかわらずグレアムは、さほど知られていない当事者に注目した。「Vote Leave」運動を立案して取り仕切った、ドミニク・カミングスだ。

「優れた芝居でも映画でも、主役にはかなり意外性がないと」と、グレアムは言う。「規定路線を逸脱した人間で、周りを引っかき回す人間のことが多い」。

「キャメロンやジョンソンやファラージはすっかりおなじみだが、ほとんどの視聴者はドミニク・カミングスを知らない」

「誰がどういう決断をしたのか、どの決断は誰の責任なのか、ぐいぐい探って問いただしていくなら、舞台裏で作戦を担当していた人たちにスポットライトを当てるのがふさわしいと思った」

Image caption 脚本を書いたグレアム(左)は撮影開始前にカミングス(右)と会って話した。写真は2016年4月当時のカミングス

英俳優ベネディクト・カンバーバッチが演じるカミングスは、ありきたりな考え方を切り捨てる知的なひねくれ者だ。

BBCドラマ「シャーロック」などで知られるカンバーバッチは今月初め、英誌スペクテーターに対して、マイケル・ゴーヴ現環境相の顧問だったこともあるカミングスについて「とてつもない役」で、「しっかり演じる責任」があると話した。

カンバーバッチ演じるカミングスはドラマを通じて、EU残留運動の上手をとり続ける。洗練されたデータマイニングの技術を活用し、多くの有権者に刺さる「Take Back Control(コントロールを取り戻そう)」というスローガンを駆使して。

このメッセージは「やや単純なものながら」、残留派が掲げた「Britain Stronger in Europe(英国は欧州にいた方が強い)」とは異なり、「当時の国の空気を見事に捉えた」とグレアムは言う。

「簡単で飲み込みやすいメッセージで、国民の様々な怒りと疑心暗鬼といらだちを、巧みにすくい上げた。同じくらい効果的な反対メッセージは自分たちには無理だと、残留派もやがて認めたほどだ」

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Image caption 国民投票の前後の動きについて著作を発表しているクレイグ・オリヴァー(右)を演じる、英俳優ローリー・キニア(左)。オリヴァーの写真は2016年当時

ドラマで残留派を代表するのは、当時のキャメロン首相の報道責任者だったクレイグ・オリヴァーだ。当初は強気で前向きだったオリヴァーが、間もなく激しい焦燥(しょうそう)と不安にかられていく様子を、英俳優ローリー・キニアが演じている。

オリヴァーが子供たちの夕飯を用意しながら、キャメロンと労働党重鎮のピーター・マンデルソンを相手に電話会議をしようとする、面白い場面がある。

「台所の場面は、仕事と家庭生活がいかに一体化してしまうかを描く、良いチャンスだと思った」とグレアムは言う。

「オリヴァーの場合、このままいけば国にとって悲惨なことになると思っていて、その結末から国を救おうとするのが彼の仕事で、でもそれをやりながら子供たちに魚の一口フライを用意する羽目になった。それがあの場面だ」

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Image caption アロン・バンクス(左)と握手するナイジェル・ファラージ(左の写真)。ドラマでは右の写真のリー・ボードマン(左)とポール・ライアンが演じる

ジョンソンやファラージ、さらにファラージ率いるイギリス独立党(UKIP)に出資していたアロン・バンクスの描写にも、笑いの要素がある。

この3人をグレアムは、「ほかの人間とは少し違った現実を生きている、強烈な人たち」と呼ぶ。

「イギリスの偉大なる風刺の伝統にのっとり、3人のエキセントリックぶりを誇張する余地があった」

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Image caption EUを離脱すれば国民医療保険制度の予算が劇的に増えるとスローガンを掲げた、離脱派のバスも再現された

ドラマには、「Vote Leave」陣営の(悪)名高い赤いバスも登場する。このバスは当時、EUを離脱すればイギリスの国民医療保険制度、国民保健サービス(NHS)の予算は週3億5000万ポンド(約510億円)も増えると、車体に大きく掲げて、国内を走り回った。

しかし、北部ウエストヨークシャーで残留派のジョー・コックス下院議員(労働党)が殺害されたというショッキングな知らせを受けて、ドラマの空気は一転して暗くなる。コックス議員の殺害は「作中で絶対に取り上げなくてはいけない」とグレアムは思っていた。

「どうやって取り入れるべきか、そもそも取り入れるべきなのか、もちろん長いこと議論した」とグレアムは言う。

「遺族に事前に知らせて、当時をどう記憶しているか大勢に話を聞くなど、やるべきことは全て押さえるように気をつけた」

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「ブレグジット疲れ」が視聴者を遠ざけるかもしれないのが心配だと、グレアムは認める。しかし、カンバーバッチやキニアといった人気俳優の出演が、観ようかどうか迷っている視聴者を引き付けるのではないかと期待している。

「マンスフィールドにいる自分の母親に観て、楽しんでもらいたいので。その2人が出ていることで、大勢が興味をもってくれると思う」とグレアムは言う。

「ブレグジット議論のどまんなかにいる真っ最中に、こういうドラマを作るのは無責任ではないかという意見もある。でも僕は今こそやらないと駄目だと思っている。もう役に立たないし、現実と関わらない10年後にやるのではなく」

とは言うものの、自分の作品が「歴史の決定版」だなどとグレアムが思っているわけでもない。ほかの作家がこれからどんどん「バトンをつないで欲しい」という、呼びかけなのだと言う。

「真っ先にこれをやろうとしたのが自分たちで、運が良かった。真っ先にこれをやろうとするほど、ばかだったのかもしれないけど。けれども今後、ほかにも色々なバージョンが作られるはずだ」

「これは最初の一手に過ぎない」

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ドラマ「Brexit: The Uncivil War」は2019年1月、英チャンネル4や米HBOで放送予定。日本放送は未定。

(英語記事 'Why the time is right for Brexit origins story'

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