【解説】 ブレグジットでいま何がどうなったのか

ブレグジット協定の採決が行われた英議会前で「離脱とは離脱のこと」と旗を振るブレグジット支持者(15日、ロンドン) Image copyright Getty Images
Image caption ブレグジット協定の採決が行われた英議会前で「離脱とは離脱のこと」と旗を振るブレグジット支持者(15日、ロンドン)

英下院で15日夜に繰り広げられた切羽詰ったドラマは、前例のないもので、イギリスをはるかに超えて幅広く影響する。

イギリスが欧州連合(EU)を離脱するための計画は、テリーザ・メイ英首相が用意したものしかない。しかし下院はそれを否決した。

あまりにひっきりなしにあらゆる人が分析したり予測したりしている中で、もう何がなんだか……と途方に暮れるのも無理もない。

なので、分かりやすく分解して見てみよう。

議員たちは何に投票したのか

政治家たちは、メイ首相が2年をかけてEUと交渉した離脱協定について、賛成か反対かを投票した。

離脱協定は、3月29日にイギリスがどうやってEUを離れるのかの具体的な対応を決めたものだ。3月29日まで、もう残り72日しかない。

協定では、他のEU加盟国内で暮らす英市民の立場がどうなるのかや、離脱のためにイギリスはいったい「手切れ金」をいくら払うのかなど、非常に重要な内容を取り決めている。

下院が承認すれば、3月29日に発効したはずだ。実にシンプルな話だ……少なくとも一連のブレグジットの流れの中では。

しかし、ブレグジットはほとんどめったに、シンプルにもスムーズにもことは進まない。少なくともそれは、もうよく分かった。

どうなったのか

メイ首相が恐れていただろう悪夢のような結果だった。

下院議員は反対432、賛成202の、230票差という圧倒的大差で首相の協定を否決した。

反対に回った432人のうち、118人は首相が率いる与党・保守党の議員だった。

議会が政府案をこれほどの大差で否決したのは史上初めてで、このブレグジット協定がいかに嫌われていたかを示す結果だった。

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EUは「イギリスがどうしたいのか知りたい」 ブレグジット協定否決

最大の争点となったのが、いわゆる「バックストップ(防御策)」だ。

「バックストップ」は、イギリスの一部である北アイルランドと陸続きで並ぶEU加盟国のアイルランドの間で、厳格な国境検査を復活させなくても良いようにする、一種の安全ネットだ。

なぜ協定否決が問題なのか

今回の協定否決はメイ首相にとって大打撃で、ブレグジット手続きの先行きがますます不透明になった。離脱期限まで2カ月と少ししか残っていないが、実際にどうやって離脱するのか、イギリス国内が合意に近づいた様子はまったくない。

通常ならば、議会でこれほど大敗した首相は辞任するものだが、今はまったく通常の事態ではない。

次はどうなる

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EU離脱協定否決、次は何が起こる?

最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、いわゆる内閣不信任決議案を提出した。

下院議員はこれで、今の政権の継続を望むかどうか、投票で決められる。

16日夜(日本時間17日未明)の採決になる予定で、もし下院が今のメイ政権の続行を希望しないと結論し、首相が辞職しない、もしくは後任が決まらず、誰かしらを首班にした政府が14日以内に信任を獲得できなければ、総選挙が実施されることになる。

もし下院が内閣不信任案を否決した場合は、メイ首相は21日にブレグジット離脱の代替案を議会に提示する。しかし現時点では、その代替案がどういうものになるのか、まったく様子がつかめていない。

不信任案否決で生き残った首相の代替案を、下院がまたしても否決した場合は、いくつかの展開があり得る。

そのまま何も変わらず時間切れとなれば、いわゆる「合意なしブレグジット」となる。文字通り、EUとの正式な合意が実施されない状態で、イギリスはEU加盟国でなくなるのだ。

その場合、移行期間はなく、英・EU関係はいきなり断絶されることになる。

合意なしブレグジットではどうなるのか

この場合、イギリスはただちにEUの規則に従わなくて良くなる。代わりに、貿易については世界貿易機関(WTO)の決まりに従うことになる。多くの企業にとって、輸出入やサービスが新しく課税対象となり、事業費がふくれ上がる見通しで、この影響で商品によっては英国内の小売価格が上昇するだろう。

イギリスがEU加盟国として参加していた他国との貿易協定は適用されなくなり、イギリスはEUをはじめ諸外国と個別に貿易協定を再交渉することになる。

イギリス国内の製造業者は、部品の輸入に遅れが出ると予測している。

イギリスは独自の出入国規制を自由に導入できるようになる。しかし、EU域内で働いたり暮らしたりしている英国人は、法的立場があいまいになるかもしれない。欧州委員会は、たとえ合意なしブレグジットになったとしても、最長90日間の短期滞在ならば英国民はEU域内でビザを必要としないという姿勢だ。

北アイルランドとアイルランドの間の国境が、EUとイギリスの間の税関や出入国管理の前線となる。しかし、この国境をどのように、どこまで管理するのかは、不透明なままだ。

一部の離脱派は、準備さえしっかりすれば合意なしブレグジットは良いことだと考えている。合意なしブレグジットの危険性を強調する批判派は単に国民の恐怖をあおっているだけで、離脱直後の短期的マイナスは長期的なメリットの代償に過ぎないと、一部の離脱派は言う。

しかし、残留派か離脱派かを問わず、合意なしブレグジットはイギリスにとって悲惨なことになると批判する声は多い。食費は上がり、物不足に陥り、国境検査が増えることで南東部の道路が大渋滞に陥ると、こうした人たちは懸念している。

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ブレグジット協定採決、議員は賛成? 反対?

別の可能性はないのか

政府はEUとまったく新しい協定を交渉するという提案が、政府から出てくる可能性もある。この場合、離脱延期にEUの合意を得る必要があるかもしれないが。

2度目の国民投票が実施される可能性もある。この場合も、EUに離脱延期させて欲しいと頼むことになるだろう。あるいは、こう着状態を打破するには総選挙が最善の策だと、首相は判断するかもしれない。

どちらにしても、イギリスは未知の領域にいる。そしてブレグジット時計の針は、ちくたくと進み続けている。

(英語記事 Brexit vote: What just happened and what comes next?

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